第7話 「な、なんだって〜!」って反応してあげればよかった①
「それでさ、これがまた面白くて……ん? 電話?」
雅と話をしていると、俺のスマホが振動した。
このバイブレーションのパターンは電話だな。
「あぁ、気にせず出ていいよ」
「そうか? 悪い」
「本当に気にしなくていいよ。長々と話し続けてしまったからね。喉も乾いたし、今度こそ紅茶を淹れてくるよ」
そう言って、雅は席を立つ。
さっきはお湯が熱くなりすぎたとかいって、火を消すだけ消して紅茶は入れなかったんだよな。
紅茶には茶葉によって最適な温度があるらしく、その温度以上で淹れても美味しくならないらしい。
雅にはこだわりがあるらしく、少し湯を冷まそうと言って紅茶は入れずに会話に戻ってしまった。
当然、いい温度になった時に気づけるわけもなく、お湯は再び水に戻ってしまったんだが。
今、またお湯を沸かし始めている。
紅茶が入るのは一体いつになることやら。
別に紅茶なんてなくてもずっと話し続けられるからいいんだけど。
(京子から? 何かあったか? いや、もう昼間だから昼休みにちょっと連絡してきただけか)
電話の相手は京子だった。
どうやら、昼休みを使って連絡してきたみたいだ。
気づけば、時間は昼頃になっていた。
『あ、サグルさん? 今大丈夫ですか?』
「あぁ。大丈夫だぞ?」
『今日のダンジョン探索のことなんですが、どこのダンジョンに潜るか決めてなかったなと思いまして』
「あー」
俺はチラリと雅の方を見る。
ここで話していいかとちょっと躊躇してしまったのだ。
だが、すぐにダンジョン関係の話をしていても一般人では理解できないことを思い出した。
だから、聞こえてしまっても大丈夫なはずだ。
念のために隅っこまで寄っておこうか。
俺はテーブルから立ち上がり、部屋の端っこまで行って電話に出る。
「昨日は新橋のダンジョンに潜ったし、今日も同じところでいいんじゃないか? あそこなら企業の探索者さんにも会えるかもしれないだろ?」
昨日、企業の探索者がいたダンジョンに潜ればあの企業の探索者にまた出会える可能性は高い。
多分まだダンジョンは攻略されてないだろうしな。
少し揉め事を起こしてしまったから、ちょっと会いに行きにくいが、生産職の人を紹介してもらいに行くならあの場所が一番いいだろう。
生産職の人を見つけないとDランクダンジョンに本格的に潜ることができない。
『でも、他の探索者を探すなら、人の多い新宿とかの方がいいんじゃないかと思って。別に企業の探索者に限るわけじゃないですし。それに、新宿からなら美香さんの入院している病院のある中野までも電車一本でいけますしね』
「なるほど」
朱莉はダンジョンを出た後に美香さんの病院に行っている。
面会時間は限られているし、少しでも長く一緒にいられるように病院から近いダンジョンに潜った方がいいだろう。
今日もEランクダンジョンに潜る予定だから、そこまで時間もかからないだろうし。
それに、竜也は死んでしまい、竜也の仲間たちは次々逮捕されているみたいだから、そこまで急いで強くならなければいけないわけでもない。
Eランクダンジョンでも相当稼げているからな。
それなら、美香さんが退院するまでの間は新宿のダンジョンに潜ってもいい。
ダンジョン内で他の探索者に会おうと思えば簡単に会えるはずだし。
「いいアイデアだと思う。今日は新宿のダンジョンに潜ろう」
『わかりました。じゃあ、今日は新宿集合で、理由はどうしましょうか?』
「そうだな。まだ俺がシェーバーを買ってないから、シェーバーを買うために新宿の方に行くからっていうのはどうだ?」
『いいですね。それで行きましょう』
結局雅と話し続けていたため、まだシェーバーが買えていない。
シェーバーを買うならどこでもいいんだし、新宿になら家電量販店もある。
それに、俺の家から東京に出るなら新宿が一番近い。
電車一本で行けるし。
だから、新宿集合というのもおかしくはない。
「じゃあ、朱莉への連絡は頼む」
『はい。じゃあ、放課後に新宿で』
その後、朱莉を違和感なく説得できるように京子と細かい設定を話し合い、少し雑談もした後に電話を切った。
テーブルに戻るとそこには紅茶が並んでいた。
今度はちゃんと紅茶を淹れられたみたいだ。
結構長い間、京子と話し込んじゃってたみたいだな。
「悪い」
「気にする必要ないよ。急ぎの電話だったんだろ?」
「まあ、急ぎと言えば急ぎかな」
京子が連絡できるのは放課後と昼休みだけだから、今を逃せば次は放課後になってしまう。
今日、どこのダンジョンに潜るかという相談のためには放課後では不十分だ。
でも、重要な話は前半だけで、後半は半分雑談だったから、もっと早くに切り上げられたと思う。
「じゃあ、そろそろ本題に移ったらどうだい?」
「本題?」
雅は某総司令のポーズで俺の方を見てくる。
何か本題なんてあっただろうか?
出会ったきっかけになった神装戦姫の話をしようってことか?
「おやおや。こっちから名乗ってほしいのかい? 仕方ないね」
そう言って雅は立ち上がる。
そして、奥からさっき脱いだ白衣を取り出してきてそれを羽織る。
「何を隠そう、掲示板で有名な生産職先輩とは私のことだよ!」
雅はバサリと白衣をはためかせながらキメ顔でポーズを取ってそう宣言する。
腰の入ったいい立ちポーズだ。
動かない右足をいい感じのポジションにセットするために少し四苦八苦していたが、それは見なかったことにしてあげよう。
厨二病全開だけど。
でも美少女がやるとこんなポーズでもサマになるんだな。
「え? だれ?」
だが、俺が思ったことを口に出してしまったせいで、その顔は真っ赤になってしまった。




