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14 プロローグ



 誰もいない教室で、真新しい教科書とにらめっこをする。

 今日から通うことになった学園で、これから学ぶことになる教室にたった一人でいるのは訳があった。


「早すぎた~どうしよう、まだだれも来ていないよ。あーあ、遅刻はしたくないって思って早く起き過ぎたかな。」

 周囲から抜けていると言われる私は、初日から遅刻などしないようにと、昨日のうちに支度をして、朝はいつもより3時間早く日が昇る前に起きた。そして、早すぎると理解しつつも、校門が開くであろう頃に学園に着けるよう、余裕をもって登校。その結果、これから共に学ぶクラスメイトは誰一人としていない、しんとした寂しい教室で一人待つことになったのだ。


「あ~あ。暇だよ、暇。私と同じように誰か早く来ている人はいないかな・・・そろそろ、一人くらいは来ていいころだよね?」

 集合時間というべきか、今日指定された時間の2時間前をきっていた。早すぎる時間ではあるが、誰か一人くらいは早く来る人がいるかもしれない。いや、2、3人くらいはいて欲しい。だって、一人だと私で終わりになってしまうから。


 私は、教室を出て廊下の窓から外を眺めた。ここからだと校門が見える。

 普通のご令嬢は、こんなことはしないと思うけど、私はお転婆と言われた令嬢だ。気になったことは確かめるし、他の生徒を待ちきれず窓を見ることくらいなら許されるだろうと判断する。

 暇すぎて、窓をあげて大声でもあげたい気分だったが、そのようなことをすれば周囲から気味の悪い子という目で見られ、父からは拳骨を食らうことになってしまう。

 なるべく大人しくするようにと、昨日さんざん言われたのだ。初日でそのようなことをしてしまえば、信用は失墜・・・墜ちるほどの信用があるのかと疑問がわくが、それは考えてはいけないだろう。


 とにかく、大人しく窓から校門を見て、通学する生徒がいないかと見まわした。

 すると、ちょうど門の前に馬車が止まって、御者が開けた扉から男子生徒がおりてきた。太陽の光を反射してきらめく髪に、綺麗な青い瞳。絵本から出てきた王子様のようだと冗談じみたことを思いながら、たった一つ欠点をあげるなら表情かと気づいた。

 気怠そう・・・面倒そうな顔をしていた。


「学園に通うのが嫌なのかな?あれだけ綺麗な顔なら、モテモテで楽しい学園生活を送れそうだけど?」

 そんなことを考えながら男子生徒の様子を見ていると、どうやら連れがいるようで馬車の方に向き直って、手を差し出していた。エスコートということは、女性?


 私の思った通り、男子生徒の手を取って馬車から降りてきたのは女生徒だった。緑の髪に、男子生徒の髪を映したかのような金の瞳・・・赤などないのに、何となく浮かんだのは薔薇の花だ。


「綺麗な人・・・私とは違って、本当にご令嬢って感じの人だなぁ・・・」

 住む世界が違う。それは男子生徒も同じだが、同性だからか女生徒の方に強くそう感じる何かがあった。それは、所作だとか、美貌だとか、まとう雰囲気によるものだろう。


 生粋の貴族・・・それは自分も同じなのだが、自分は「お転婆」なので例外であることを自覚している。


 女生徒は自然な動作で男子生徒の腕にしなだれかかって、妖艶に微笑んだ。男子生徒は面倒くさそうな顔をしていたが、私はその女生徒の所作をうらやましいと思う。


 エスコートされるの苦手なんだよね。でも、やっぱり憧れとかあって・・・あんな風に自然とエスコートを受けられるようになりたいって思う。

 どうにもぎこちない動きになってしまう私は、エスコートされても緊張しっぱなしで表情が引きつってしまい、相手に誤解を生むことがあった。嬉しいのにそれが伝わらず、むしろ余計なお世話だったと思われて、次回からはエスコートされないのだ。


 悲しい。でも、これは私が直さなきゃいけないこと!憧れているなら頑張って、自然とエスコートを受けられるようにならないと!


 私が決意を新たにしているうちに、2人は校舎の中に入ってしまったのか見えなくなった。それからまばらに生徒が来るのが見えて、私はそっと窓から離れる。


「友達、たくさんできるといいな・・・」

 あの2人がクラスメイトだったのなら、絶対に声をかけて仲良くなろうと決めて、私は教室に戻った。


 これから始まる生活に、不安はあるがそれ以上に期待に胸が膨らんだ。






 これが、ゲーム「アリスモスの恋」のプロローグだ。これからオープニングが流れて、ゲームが始まる。説明をするまでもなく、男子生徒はエン様で、女生徒はミデン・・・私だ。


 そして、1週目私はこのプロローグからぶち壊した。

 なぜそのようなことをしたかと言えば、不可抗力としか言いようがない。だって、兄が一緒に学園に通うと言ったのだから。


 ゲームではミデンを嫌っていた兄は、私のことを大切な妹と思えるほど、私が好感度を上げた。その結果起きたことは、兄と登校だった。

 普通に考えれば、同じ家から学校に通うのだから兄と登校しても不思議ではないが、なんだか居心地が悪かったのを今でも覚えている。

 本当に、ゲームのシナリオを変えてもいいのだろうか・・・そんな葛藤があのころにはしっかりあったのだ。


 そして現在、私は保健室で目を覚まして、兄のとろけそうな微笑みを受けていた。


「ミデン、辛いところはないかい?」

「お兄様・・・ち、近いです。」

 顔が熱くなった。それは仕方がないだろう、攻略対象者になれるほどの美形の顔がすぐ目の前にあったのだ。それも、目をあげたらすぐそばにだ。これで赤くならない方がどうかしている。


 現在の2週目は、1週目と同様好感度が高い兄と一緒に登校することになっている。ただ一週目と違うのは、私が馬車にトラウマがあり、兄の魔法で馬車に乗っている間は眠り、馬車から降りて保健室のベッドに寝かされたら起こされるという、なんとも恥ずかしい仕様になっていた。


 学校の保健室など、それも乙女ゲームの保健室など・・・やましいことしか思い浮かばない。学校の保健室は、怪我の手当・看病などが建前の、触れ合いイベント満載の部屋でしかない。

 このような場所で毎日目覚めて、兄の顔を見る。考えただけで私が攻略されそうで怖かった。いや、それだけでなく変な噂が立つのではないかという心配もある・・・て、何の心配をしているのか私は。


 何度も何度も自分に言い聞かせる。


 これは、「乙女ゲーム」ではない。「デスゲーム」だと。

 始まったばかりで心を揺り動かされては、今後どうにもならないだろう。心を強く持たなければならないと、まずは深呼吸をして高鳴る心臓を落ち着かせた。


 あ、お兄様いい匂い・・・て、変態か!




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