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例え世界が変わっても  作者: パピヨン
第二章 皇国編
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44話 クーデター4

10時 00分

陸軍参謀本部


「どうなっている!」


ゼーレヴェ元帥は、次々と上がってくる報告に激怒し、机を叩く

叩いた拳から血が出る程強く叩いた。


その怒りの原因は、上がってきた報告。それは、軍が市民へ発砲し、それが引き金となり市内各地で暴動が始まった。


もはや陸軍で抑えられる事態ではない。

直ぐに厳戒令を独断でだし、憲兵隊出動の要請を出したのだが、憲兵隊は反応がかなり悪かった。


海軍にも暴動を抑えるために出動要請をしたが、ジャズ中将は「準備に時間がかかる」とした。


「元帥殿、どうされますか?」とモルバ中将は震えた声で問いかけた。


「全国の情報機関全てを抑えろ!暴徒の鎮圧には憲兵隊に加え、近衛兵も使え!早急に潰せ!動かない奴らにはケツをひっぱたけ!それと海軍にも伝えろ!緊急の統帥会議をすると」


軍上層部は混乱状態となっていた。


更にここに追加で情報が入る


「げ、元帥殿。追加の報告です...セントラルニュースで差し押さえた証拠を運搬していた車両が暴徒により奪取され、記事が流出しました...それを、現場に居合わせたノース社が生放送で....」


会議室の外にいた兵士は、中で物が派手に壊れた音を聴き、恐怖した

◇◇◇◇

11時00分皇宮


1200年もの歴史のあるこの建物は、巨大な紫禁城のような作りとなっていた。


周りは水堀で囲まれ、入口は2箇所のみ


その表に車が4台止まった


その車からアレクシア皇女と部下が次々と降りる


「では、作戦通り行動を開始します」


大手門の守りの兵は、アレクシア皇女に近付き「これはアレクシア皇女殿下!何用でしょうか?」と聞く


「ええ。今市内では暴動が起きていると聞いております。近衛兵も出動しているとか。となると、ここの守りが薄くなるためにわたくし達キャハバニシュキル部隊が父上の護衛をと考えまして」


「な、なるほど」


「して、今皇宮の兵士の数は?」


「およそ30名です。ここと裏に10人ずつ。陛下の護衛に10人です。」


「少ないですね」


「ええ。非常時につき、守れないと判断した場合は表と裏の橋を落とす許可をいただいております」


「その許可は殿下が?」


兵士は、一瞬悩んだ顔をした。


「いえ、近衛団長が」


(勅命ではない?という事は近衛団長の独断?)


「分かりました。では、わたくしは近衛団長に会い、今後について相談をしようと思いますが、どこに?」


「近衛団長は、我々を残して自ら指揮をとり、市内の鎮圧に出ました」


「分かりました。では、わたくし達は殿下の護衛に。ここと裏に数名部下を置いておきます」


「ありがとうございます!殿下!」兵士達は安堵した。市内の暴徒の数は膨れ上がり続けているという。その恐怖から、少しでも味方がいた方が心強いものだと。


(それが罠だとも知らず)


私は、堂々と皇宮へ部隊を引き連れて入城した。本来であれば、近衛兵以外は非武装でしか入れない場所にである。余程余裕が無いのだろう。


皇宮 それは神の使いである初代天子がうまれた最初の地であり、天命を受けて果たした地。

代々、天子はこの宮殿で生まれ、天命。

一生をかけて果たさねばならない事をここで授かる。

そして、今代の天命は


ドニラス帝国を滅ぼし、この世界に覇を築く


(皇国はその天命という伝統により、目を曇らせ、見なければならない現実を見ることが出来ずに滅びの道を歩む。神のお告げ?皇国の神がこの世界の神達より強いとでもいうのか?)


この世界にある古来の神が作ったとされる、全土共通言語魔法。大陸を丸ごと転移させる。魔法という未知の技術。複数の大陸に複数の転移国家。


(どう考えてもこの世界の神の方が強いに決まっている。天命とやらを下す神よりも)


ドニラスとの決戦間近の最中での日本らの転移。これは皇国によって間違いなく不吉であった。日本と手を取り合うか、拒絶するか。


この二択を間違えた結果がこの戦況である。


皇宮は広い。

中庭は広い。

しかし、人はほぼ居ない。

噴水も水が止まり、皇宮物語に出てくる鳥も飛んでいない。花は枯れ、草木も萎れている。

明らかに手入れされていない。


(兵士もだが、明らかに人が少なすぎる...不気味なほどの静けさ。とても今日ここから逃げたとかは思えない程手入れされていない庭。なるほど。執事は徴兵され、侍女は逃げたか。)


皇都では、集団疎開が頻発していた。軍は認めておらず、正確な統計もないが、空き家が増えている為に不良の数が増え、街の治安悪化と不満分子が溜まっていた。


みんな、薄々気付いていたのだろう。皇国は戦争に負けている。それは、皇都が攻撃されているのだ。それを軍はひた隠しにしている。被害は少なくても、毎日決まった時間に迎撃不可能な攻撃を受けている。その事実は、不安は、国民を恐怖へ駆り立てるには十分であった。


(深刻な物資不足も起きている。まさか一日分の食事が戦争前の1ヶ月の給料に匹敵するとはな)


砂糖はもはや高級品。嗜好品も枯渇しており、食事の質も劇的に落ちている。街の飲食店は営業をしていない。


(もうこの国は戦えない。)


豪華な装飾の扉を開ける。

護衛すらいない皇室。


扉を開けると、そこには天子が座っていた。

皇后も。


お酒を飲み、お菓子を食べながら遊戯をしていたのだ


「なぜ、アレクシア、貴様がここにいる?」


「は!市内各地で暴動が起きた為、この皇宮を守りに 」


辺りを見回す。兵士はやはり誰もいない。装飾品の数は前より増えている。財政難の状況で買い込んだのか


「いい、アレクシア。皇宮は要塞よ。それに天に等しいわらわ達に刃を向ける愚か者がいるとでも?」


「それで、近衛師団長にここの警備をやめて、市内へ行かせるようにしたのですか?」


「いえ。師団長がこの暴動を終わらせる為に出たいと申すから許可したわ」


「何か書面でも交わしたのですか?ここの守りを薄くするのはあまりにも危険すぎる」


「書面なぞいらない!手間が増えるだけだわ」


天子はこの会話を聞き激怒、飲んでいたグラスを割った


「アレクシア!なぜここにいるのか!今すぐにあの売国奴共を滅ぼせ!皆殺しだ!」


天子の目にはわたくしの顔は映っていない

これがこの国の頂点にて弱点


「貴方には、この国の民が見えないのですか!問題を解決しなければ」


「天子に仇なす者は等しく逆賊なり!アレクシア!貴様も言うことを聞かないならば、逆賊にするぞ!」

「アレクシア、お父さんの言うことが聞けないのですか!?」


もはや2人とも正気ではない 。


「民を無くして国は無し!貴方は国の指導者に相応しくない!」


懐から銃を取り出し向ける


「この国の悲鳴すら聞こえない貴方たちは、ここで退場してもらいます」


そして、引き金を引く

日本製サイレンサーの銃であるため、発砲音はほぼしない。

落ちた薬莢の音と同時に、頭に命中した父はそのまま床に倒れた。


隣の母は、目の前の光景を受け入れられず、虚無に。

そばにいた部下のチェリーが母を射殺。


「姫さま、時間がありません。直ぐに次の行動を」


「え、ええ...」


(泣いている暇なんてない。)


「直ぐに死体を冷やせ!」

◇◇◇◇

10分後、近衛兵は天子様と皇后様の死亡を確認。現場検証に入った。

アレクシアが皇室に入った時、天子様と皇后様が亡くなっていた。近衛兵は、銃声がなかった事と、死体が既に冷たく、血が乾いていた事からアレクシアが来る前から暗殺されていたと推理。死亡推定時刻を現時点から半日前と断定した。



更にアレクシアはここで首謀者の名前を近衛師団長の名前を出した。

独断専行を繰り返した事に加え、宮殿の近衛兵の数を減らした事。近衛兵師団長の最近の怪しげな動きを提示し、現場の近衛兵師団連隊長はそれを信じた。


天子及び皇后が亡くなった場合、次代の天子は継承権1位に移る。が、第1位、第2位は共にディシジョン軍港消滅による連絡手段の寸断により連絡取れず。第3位は戦死。

その結果、第4位のアレクシアに臨時の天子という役職が回ってきた。

ただし、女性が天子となる例も根拠もないため、第1位、第2位の代わりとなる代理天子という形式となった。


アレクシアは速やかに皇居における近衛兵の指揮権を掌握し、部隊を引き連れ皇居近くの国営放送局を無血制圧。

市内状況の確認と警察機関を掌握。警察機関は、軍の横暴にへきへきとしており、その不満を利用してこちら側へ寝返るよう誘導していたのだ。

市内は予定通り、各地で暴動が発生。軍と市民との衝突による被害は増加の一途を辿っている。


13時20分


放送局から、市内にある全ての拡声器、繋がる通信設備全てに声が乗るように細工をし、

アレクシアは演説を始める。


「皆さんこんにちわ。私は皇国第4皇女 アレクシア。現在、市内各地にて暴動が起きておりますわ。暴動の原因は、近衛兵師団長 ドゥーラ ヴァン レグーノと、陸軍最高指揮官 ゼーレヴェ元帥及び陸軍によるセントラルニュースへの襲撃ですの。

セントラルニュースの違法行為を理由としてますが、警察を越えた越権行為ですわ。証拠がない状態での法を無視した摘発。明らかな横暴であり、市民の怒りは最もですわ。」


少し間を起き、水を飲む


「そして、先程、天子様がドゥーラ ヴァン

レグーノにより暗殺された事が確認されましたわ。」


その時、各地の暴動は一時的に収まった。ある者は、武器を落とし。ある者はその場に倒れ込み。ある者は泣き出した。ある者は、怒りで拳を握りしめる。


国の精神的支柱でもある天子。

それが亡くなったのだ。普通の人なら何かしらの反応をする。


だが、その中でも冷静に動いている者たちがちらほらいた。


「天子様は、近衛師団長により殺害されました。」


「皇室典範5条に則り、現時点で連絡が取れない第1、第2、第3皇子に代わり、アレクシア=サー=パーマは、暫定天子になる事を宣言します!」


ここで国民は初めて、皇子が消息不明という情報を知る。更に


「皇室は、この事態に関して、近衛師団長及び陸軍によるクーデターと断定!国家反逆罪の適用を宣言します。この後14時00分までに全軍の即時戦闘集結及び武装解除を命令します。この命令に従わなかった部隊は、逆賊と認定。処罰します。命令に従った部隊に関しては、罪を不問とします」


クーデターに加え、即時武装解除。猶予は30分程度。あまりにもこの情報の多さにより、陸軍や市民の間に動揺が広がり、手が止まる。


「て、天子様がお亡くなりに...?」「う、ウソだ!国は嘘をついてたんだ!だから新聞会社を襲撃したんだ!」「それが軍によるクーデターって事じゃないのか?」「軍の暴走をアレクシア様が止めた?」「軍は情報を止めていたって事か?なら、皇子が消息不明である事を知らせたアレクシア様の言う事は事実なんじゃ...」「俺って、逆賊になるのか...家で母ちゃんが帰りを待ってるんだ...逆賊なんて嫌だ」「国を守るために軍に入ってたのに..」「今、武器を捨てれば逆賊にはならないって事だよな?」


市内各地での動揺は、更に広がり初め、軍も市民も動きを止め、報道機関もあまりにも多い情報の処理、発表に手間取り、20分間にも渡る静粛が訪れた...

皇国におけるミドルネームは、貴族や特殊な学校を卒業した者に与えられる特権的な意味合いとなる。

又、貴族であっても女性と男性で代わり、女性においては例外を除き、ミドルネームをつけてはならない。

学校においては、皇国が認める12の国立大学の総合成績上位4名。もしくは、私立大学の総合成績上位2名。

更に、全国一斉学力試験において48位でなければならない。


非常に狭き門だが、ミドルネーム持ちはあらゆる施設において特権を持ち、施設の利用料無料、交通費の免除等の優遇がかなり多い。

これは貴族特権の名残りと、国民主権への変革による市民への特権付与の機会を与えるという目的から来ている。

軍の中でも、貴族階級がかなり優遇されており、一定以上の将校は大半が貴族出身である

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