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ある文芸部の日常譚  作者: 夏日向


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2-2

 雨が降り続いている。

 なぜ、こんなことになったのか。


「いいカフェを知っているのよ」


 と言った篠原先輩に案内を任せ、後ろを着いていく。黙っていても許されるこの傘の距離が安心する。

 迷いなく足を進める篠原先輩は、デニム地のワイドパンツにオーバーサイズのニットを合わせ、まるでモデルさんのようだった。

 篠原先輩が歩みを止め、ゆっくりと振り返る。


「ここよ」


 そこは、コンクリートの枠に壁一面のガラス窓がついたスタイリッシュな風貌のカフェだった。ブラックボードにメニューが書かれており、スイーツの種類が豊富なのだと分かる。

 傘を閉じ、中に入ると木製の机や椅子が置いてあり、外見よりも冷たい印象を受けなかった。

 初めて来た場所だし、篠原先輩と一緒だし、とにかく緊張する〜〜!!

 案内されるがまま、窓際の席につき、とりあえずカフェオレと、先輩が「オススメはチーズケーキかしら」と言ったのでチーズケーキを注文した。

 窓側の席は、雨音がよく聞こえる。

 ちらと、正面に座る篠原先輩を盗み見る。学校では必要最低限なのであろうメイクは、休日だからなのだろうしっかりと、でも自然にしているし、いつもは色付いていない爪も、今日は色付き、控えめにつけられた小さなパーツが煌めいている。


「それで、どうしてお茶に誘ってくれたんですか?」


 視線を手元に戻し、メニュー表を机端のスタンドに戻してから、意を決して質問する。本屋さんから出て、ずっと訊来たかったことをようやく訊けた……!


「昨日、お話しませんかって誘ってくれたのは貴方でしょう。生憎、昨日は傘を持っていなかったの」


「……え」


「本当なら月曜日の放課後にでも、と思っていたのだけれど」


 ……ということは、私、嫌われてない?ただただ勘違いしていたってこと?

 っはあ〜、大きめな安堵のため息が漏れる。

 篠原先輩は、このため息の意味がわかっているのか、なんなのか、特に触れることもなくお水を口に含んだ。


「私、嫌われたのかと思ってました」


 一応、本人の口からも聞きたい。こういう所が、友達からの考えすぎだ、という評価に繋がっているんだろうな……。


「嫌うも何も、私はまだ貴方のことを何も知らないわ」


 あ、嫌われる以前の問題だった。

 折角休日に篠原先輩とお茶をする機会を頂いたのだから、それを無駄にするのはいただけない! 都島先輩、私の勇姿しかと見届けてください……!

 ここにいない先輩を脳内に飼いつつ、


「なら、今日ちゃんと知ってください!」


 と宣言したその時、「お待たせしました」とカフェオレとチーズケーキ、アイスコーヒーが運ばれてきた。

 めっちゃ店員さんに聞かれた気がする……。ま、まあそんなに気にすることでもないか。

 店員さんが去った後、運ばれてきたチーズケーキに目を遣る。よく焼き色のついたケーキは、見ただけでわかる、美味しいやつだ。


「さっきも言ったけど、ここのチーズケーキは美味しいの。どうぞ食べて」


「っ、じゃあ」


 フォークを手に取り、一口分を切り取り口に運ぶ。

 しっとりとしていて、クリームチーズの風味が豊か。ボトムのクッキー生地がサクサクしていて滑らかな生地とのコントラストが最高。


「うっま」


 脳を介さずに、感想が出た。


「気に入ってくれたなら良かったわ」


「お恥ずかしい……」


 なんか、篠原先輩に子供っぽいところばっかり見られてる気がする……。今もそうだし、本屋でだって、背後からとはいえ一人でデレデレしてたの見られたよね。

 少しでも落ち着いて見られたいという欲が働いて、気持ち姿勢を正す。


「あら、畏まらないでいいのに」


 篠原先輩は一息置いて、髪を耳にかけながら


「私は素の貴方のことを知りたいの」


 と、恥ずかしげもなく言い切った。

 なんか……。なんか……!


「口説かれてるみたい……」


 ……私、また失礼なこと言ったな。


「いや、特に深い意味はなく!綺麗な人に素の私を知りたいって言われたからつい!」


 うっ、口を開く度におかしなことを言っている気がする。これ、普通に引かれるたのでは。


「貴方は素直なのね。思った事がすぐに口に出る」


「一応、テンパってるんです」


 憧れの先輩とカフェでお茶するなんて……。付け足そうとして、恥ずかしくなって声が小さくなる。

 今更だけど、どうしてわざわざ誘ってくれたのか、ちゃんとした答えは貰っていない気がする。本屋で私を見かけても、篠原先輩は私を見なかったことにする選択肢だってあったんだから。ただ律儀な人というなら、そうなのだろうけど……。


「どうして、私に興味を持ったの?」


「え?」


 咄嗟に問い返してしまう。


「だって都島柊路と違って、私と貴方との関わりってほとんどなかったじゃない?」


「そ、それは」


 言っていいものなのだろうか……? 浅い理由ねって幻滅されない?


「まあ、ある程度は分かっているけれど」


「ん?」


 この人、分かってるって言った? 見た目が超好みだってことバレてるんですかね!? 


「い、一体なぜ!?」


 また、脳を介さずに本心が出た。


「だって、図書室は静かだもの」


「こ、殺してください……」


 恥ずかしすぎる……! 

 ぐがあぅあぅ、という意味を成さない呻きをあげつつ悶え苦しむ。

 全部わかった上でわざと聞いてきたのかこの先輩! いや、そもそも全部を言葉にしたのは私なんだけど! でも、この仕打ちは……!

 目の前にいる先輩は、小さくふふ、と笑ってから、アイスコーヒーを口に運んだ。いつもよりも血色の良い唇が、ストローを食むその仕草さえもが絵になる。

 私は、姿勢をただし、仕切り直すことにした。


「さっき、私を知ってくださいと言ったので。とりあえず、自己紹介から」


 先輩の目を見て、しっかりと伝える。


「矢坂烏兎、15歳。文芸部所属。えっと勉強は中の上、運動は中の下。特に球技が苦手。好きな食べ物はチョコレート」


 途中、話すことがなくなりそうでキョロキョロと周りのものを確認しつつ話す。ん? これ、聞いてる人楽しいのかな。

 冷静になると同時に話すのを止める。


「……くらい、ですかね?」


「好きなジャンルは?」


「はえっ」


 妙な声が出た。


「本はどのジャンルが好きなの? 特にこだわりがないなら、それでもいいのだけど」


 あ、初めて興味を持ってもらえている気がする。


「基本的には雑食ですけど、ヒューマンドラマとかは好きです」


「あら、いくつかオススメがあるわ。翻訳物は読む?」


「たまに。でも、篠原先輩のオススメ、読みたいです!」


「なら、今日買った新作を読み終えたら教えてちょうだい」


「はい! そう先輩、この人の作品を呼んだことがありますか?」


 先程買った文庫本を手に取り、著者様の名前を提示する。私の好きな作家さんのことも好きになってもらいたいな。


「ああ、この人? 何回か読んだことあるわ。余韻が心地よくて好きなの」


「分かります! 丁寧な物語展開で、ゆっくりと明るいところに進んでいく感じがすごく好きなんです」


 なんて、オススメを語り合って(?)いたら、時間はあっという間に過ぎ、13時くらいに解散となった。いつの間にか雨は止んでいたらしく、所々にできた水溜まりが朝よりも薄くなった雲を反射していた。


「それでは」


 と別れ道で敬礼のポーズを取りつつ篠原先輩と別れようとすると、先輩も「ええ、じゃあね」と返してくれた。

 これはもう、仲良くなったと言っても過言では無いのでは?

 月曜日からは普通に話しかけよう!


 そう、小さくガッツポーズをしながら決意した。

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