66 入学式・学園サイド
学園の一室に数名の関係者が集まっていた。
事件について話し合うためだ。
これからの対策を考えなければならない。
入学式の最中に照明器具が落下した。
あり得ないことが起こり、入学式は途中で中止になってしまった。
調べてみると、照明器具を吊るしていた固定具が壊されていた。
それも、すぐには落下しないようにと、一部分だけが壊されていたのだ。
照明器具の重さで必ず落下するが、いつ落下するかは予測できない微妙な壊されかただった。
誰がこんなことを?
入学式の数日前まで、在校生は長期休暇中だった。そのために帰省している者は多く、学園内に残っている生徒は少なかった。
だが、生徒が少ないだけで宿直の教師もいたし、この時期は業者を呼んで施設の補修や改装を行っているために、かえって敷地内には多くの人がいた。
もしかしたら業者を装って、外部から入ってきた者の仕業なのだろうか。
何のために?
今回は、分からないとは言えない。前回があったからだ。
立て続けに事故に見せかけられた事件が起こった。
前回は入学試験の際中、AブロックとCブロックの間に設けられていた結界が壊された。
人為的なものだった。
結界の魔法陣を壊した犯人と、それに向かって魔法を放った受験生、二つのことが合わさったことにより結界は壊された。
このことにより、結界の欠片が辺りに飛び散り、数名の怪我人が出た。
犯人は見つかっていない。
今回の事件と犯人は同じ人物なのだろうか?
そんなことが可能なのか、学園内の警備は厳しいはずなのに……。だが、そう思っているのは学園関係者だけなのかもしれない。二度も事件を起こされたのだから。
今回と前回、同じ人物が被害に遭った。
被害者はティナ。今年度の新入生だ。
一番被害に遭うだろう場所にいた。二度ともだ、狙われたと言わざるを得ない。
幸いにも偶然が重なって、命を無くすことも怪我をすることもなかった。
なぜティナが狙われたのか?
誰かに恨みを買っているのか?
それともティナの存在が邪魔なのか?
ティナを亡き者にしなければならない、何があるというのか?
分からないことだらけだ。
王立ザイバガイト学園の学園長である、シュザッハ=トーテムは、次々と報告される内容に、驚きを禁じ得ないでいた。
ティナは不思議過ぎる少女だ。
本人は、田舎から王都に出て来た百姓の娘だと言っているし、村の村長からの紹介状も持っていた。村出身で間違いないだろう。
ティナの出身地であるソノイ村は、タール領の中にある小さな村で、これといった特産品もない。農業が主体だが、収穫量も多くはない、目立つところのない村だ。
そんな村からティナは出稼ぎに王都にやって来た。そして働くはずが、間違って学園の入学試験を受験してしまった。
そんなことがあり得るのか? 途中で気づかなかったのか?
ティナは従魔と妖精を連れている。テイマーというだけで貴重なのに、妖精を連れた受験生は、学園始まって以来のことだ。
入学試験は最初から合格確定だった。
学園に入学すれば、その時点で世の中からはエリートと思われる。それなのにティナは学園には興味がなく、働きたいと言っていた。考えられない。
そして、連れている従魔はスライムだった。
言っては何だが最低ランクだ。何の役にも立たない、ごみ処理として使われるしか使い道のない魔獣なのだ。それなのに、スライムは最終試験で神獣と対戦したという。
能力を向上させる加護を持つ妖精がいたとしても、神獣の相手になるわけがないのだが、神獣に軽傷とはいえ怪我を負わせることができたのだという。
あり得ない。余りにも信じられない報告だ。
試験結果を受け、アール教頭の肝いりで、特別特待生という今までなかった制度での入学となった。
「ティナは村からキャラバン隊と一緒に王都に向かったと言っていますが、そのキャラバン隊はシャーグラ商団でした」
「シャーグラ商団とは、シースズ国へ続く道で襲われて全滅したキャラバン隊のことだろう」
「そうです。キャラバン隊はサノト村を発った後、何者かに襲われたと思われます」
この話し合いに呼ばれたハロルドが説明する。
「キャラバン隊が立ち寄ったサノト村も全滅しているのだな」
「そうなのです。キャラバン隊が出発した後、すぐに魔獣に襲われ、全滅しております……。サノト村が全滅し、すぐにキャラバン隊も全滅したと思われておりましたが、ティナは唯一の生き残りのようです」
キャラバン隊とサノト村が全滅したとの報を受け、ギルドはもちろんだが王宮も大騒ぎになった。
外国からの攻撃説や謎の病気の発生説など、様々なことが考えられた。
現在、王宮が主体となり調査しているが、ギルドも協力している。
解明は、まだされていない。
ハロルドはティナからその話を聞き、ギルドと王宮両方へと連絡した。
ティナが全滅に関わっているとは思えないが、それでも調査する必要はある。
今までは入学試験などがあるため、取り調べなどは考慮してもらえるように、国とギルドに学園からお願いをしていたが、そろそろ調査にくるだろう。
「それでは、ティナについて、どう感じたか教えてくれ」
シュザッハは、次にティナの人となりを聞くことにした。
声をかけられ席から立ち上がったのは、寮母であるトリカ=サーリャだ。
「はっ、自分はアール教頭よりのミッションを受け、ティナと共に買い物に向かいました。支度金として銀貨5枚を預かっておりましたが、ティナは下着を数枚と寝間着、普段着を各一枚、後は生活必需品である石鹸などを購入したのみで、嗜好品や装身具などは一切購入しませんでした。銀貨2枚でも釣りが出ましたが、ティナは残りを受け取りませんでしたので、アール教頭へとお返ししました。ああ、そういえば、端切れを随分と購入しておりました」
「端切れ?」
「はい、嗜好品なのか生活に使うのかは分かりませんでした」
「そうか、ありがとう」
直立不動で報告するトリカの話では、ティナは余りにも質素で欲が無い。
「そうですね、ティナは、自分達には敬語で話しかけてきて謙虚で、出しゃばったようなことはしません」
ハロルドも話し、隣でニックも頷いている。
ハロルドとニックは共に高位貴族の子息なうえに、能力もずば抜けていて、将来有望な二人だ。女子生徒は勿論、男子生徒達からも人気が高く、隙あらばお近づきになりたいと思う者が後を絶たない。
それなのにティナは、こちらから声をかけても逃げ腰だ。
シュザッハは、まだティナに会ったことはない。だが連れている従魔や妖精が特別なだけで、本人は特筆した所のない少女のように思える。逆に文字の読み書きもできず、簡単な計算もおぼつかないという、周りの生徒からは一歩も二歩も出遅れている。
「ティナの扱いをこれからどうされるおつもりですか?」
心配そうな顔のアール教頭が声をかけてくる。
アール教頭は、ティナを特別枠で入学させるほどに能力を買っている。従魔が卓越しているならば、それはテイマーの能力だと思っているようだ。
「命を狙われている可能性があるからな……」
ティナに従魔が付き従っているとしても、悪意のある事故は防げない場合がある。
今回の照明器具が落下してきた時も、偶然に助かったと聞いている。
何か対策をとる必要がある。
まずは犯人を見つけ出したい。
今までとは違い、今度はティナに直接手を出してくるかもしれない。
「トリカ」
「はっ」
「済まないが、少しの間、ティナのボディガードをお願いできないだろうか。できれば本人に気づかれない方がいいだろう」
「ご下命、お受けいたします」
トリカは頭を下げる。
トリカは、元は王宮で騎士をしていた。
腕は確かだし、男性の入ることの出来ない所まで付き添うことができる。
寮母という立場を利用してティナに気づかれることなく護衛することができるだろう。
自分が狙われているとは知らない方がいい。そうシュザッハは、考えたのだった。




