60 ちょうちょのレベルアップ②
「なあ、俺 “妖精喰い” になるのかな……」
ちょうちょは呟いた。
(なるわけないだろう。いくらステルスを習得したからって、妖精喰いになるとは決まってない)
「妖精の特性に “ステルス” があるなんて、俺は知らなかった。たぶん他の奴らも知らないと思う」
ちょうちょはレベルが上がってから、ずっと考えていた。
元は妖精なのに妖精を食べるようになってしまった妖精喰いのことを。
長老も詳しいことを知らないと言っていた。
本当にそうなのだろうか?
里にいる頃には何も不思議に思っていなかった。ただ妖精喰いという天敵みたいな魔獣がいるから気をつけなきゃ。と、存在を疑問にすら思っていなかった。
妖精が妖精を食べてしまう。
過去に、そういう妖精がいた。じゃなくて、そういう妖精が生まれ続けているのはなぜか。
なぜ同族を喰らおうと思うのか。
妖精を喰らうと、羽が無くなり蛇のような姿になり魔獣になってしまう。
この変化を、誰が見ていて、誰が伝えたのか。
もしかしたら妖精喰いは、里の中で生まれているのではないか。
(ちょうちょがレベルアップして、ステルスを習得したのなら、ちょうちょよりレベルが上の族長や長老もステルス持ちってことだろう。二人共妖精喰いにはなってないじゃないか。ちょうちょが心配する必要はないだろう)
「あの二人はステルスを持っていないと思う。自分よりレベルが上の相手のステータスを見ることは出来ないけど、ステータスを持っていると、無意識に使ってしまうことがあるから。でも二人がステルスを使ったことはないし、使ったと聞いたこともない」
里に危険が迫った時ですら、あの二人はステルスを使わなかった。使わなかったのではなく、元から持ってはいないのだろう。
スーは頷かざるを得ない。
特性や能力は、持っていると無意識に使ってしまう。
スーは気づかないうちに触手を出していることが多々あるから。
(ちょうちょだけがステルスを習得して、二人が習得していないのは、どうしてだ?)
「二人が “食べない妖精” だからだと思う」
(食べない妖精?)
「妖精の身体は魔素で出来ていて肉体は無い。だから物を食べる必要はないんだ。だけど味は分かるし食感もあるから、俺みたいなのは娯楽として物を食べている。でも族長や長老は、必要ないからと食べない。物を食べられることすら忘れているんじゃないかな。食べない妖精の方が寿命は長いと聞いたことはあるけど、食べることが楽しいから、俺は食べ続けていた。だから……」
物を食べない妖精は、もしかしたら時と共に食べる機能や器官が無くなっているのかもしれない。だからステルスを憶えない。
物を食べ続けた妖精がレベルアップをするとステルスを習得する。そして、妖精を喰らい地に落ちるのかもしれない。
「俺、もう里には帰れないよな……」
ちょうちょが呟く。
里を守れるようになるのを目標としていたのに、もう里に戻ることは出来なくなってしまったのか。
里に戻れば、目の前に妖精がいる。
自分の意志とは関係無く、守ろうと思っている妖精を喰らってしまうかもしれないのだ。
「俺、羽が無くなって、蛇になるのかな……」
(いや、ならねぇよ。なるわけがないっ!)
スーは断言する。
(ちょうちょはレベルアップした時に、妖精喰いになってないじゃないか。もし妖精喰いになるとすれば、それは妖精を喰らった時だ。だから妖精を喰わなきゃいんだ。そうすれば妖精喰いになったりなんかしない。蛇にはならない!)
「スーありがとう。そうだよな、こんなに愛らしい俺が、蛇になんかなってたまるか」
(ああ、そうだ)
幸いなことに妖精は魔素が溢れる地にしかいない。そして魔素があれば魔獣がいる。このままちょうちょがご主人様と一緒にいるのならば、そんな魔獣が蔓延るような場所には行かない。妖精と会うことはない。
妖精喰いになることはない。
スーは安堵する。
「スー、頼みがあるんだ」
(なんだ?)
ちょうちょは少し躊躇った後に言葉を続ける。
「俺、里に帰ろうと思う」
(はあっ!? お前、今言ったことを、もう忘れたのかよっ)
妖精喰いにならない。そのためには妖精を喰わない。だから妖精には会わない。そう言っていたのに!
「だからスーにも一緒に里に付いて来てもらいたいんだ。そして俺が妖精を喰おうとしたら、先に俺を喰って欲しい。スーには嫌なことを頼むけど、お願いだ」
ちょうちょはスーへと頭を下げる。
(なんでだよ。なんでそうまでして里に帰る必要があるんだよ)
スーは納得いかない。
ちょうちょは里を護るために里を出た。それなのに里に戻ったことで、ちょうちょが妖精喰いになってしまったら、本末転倒ではないか。
「族長や長老は妖精喰いのことを知っていると思う。だから詳しいことを聞きたい。それと……」
怪訝な顔をしているスーに、本音を言っていいのか、ちょっと迷うそぶりを見せたが、ちょうちょは口を開く。
「里に妖精喰いが現れたことがあるって言ったよな。族長と長老しか妖精喰いが見えなくて、二人でやっつけたって」
(ああ、ちょうちょ達が生まれる前だろう)
「そうだ。俺は疑問にも思わずその話を聞いていたんだけど、考えてみたら、おかしいと思わないか。族長と長老はどうやって妖精喰いをやっつけたと思う?」
(え?)
「スーは妖精喰いを一飲みにしたけど、妖精喰いはスーに反撃できなかっただけで、何かしらの攻撃方法を持っていたかもしれない。それに妖精喰いは人族の大きさがあった。族長と長老は妖精だよ。妖精は小さくて非力だ、それに攻撃手段を持たない。どうやってやっつけたのか、もしかしたら族長達は妖精喰いの弱点を知っているかもしれない」
(…………まさかお前、死ぬ気か?)
「そんなんじゃないよ。でも、蛇になんかなりたくないな……」
(だったらっ、だったら妖精に会わなきゃいいじゃねーかっ!)
「そうなんだけど……」
ちょうちょは困ったように笑う。
いつ妖精に出会うかなんて分からない。
妖精は魔素の溢れる場所にいる。そうなると、ちょうちょは魔素の溢れる場所へは行けないことになる。
今まではティナのペットとして、どこにでも一緒に行っていたのに。
魔素があるイコール強い魔獣がいるということだ。
それなのに加護を授ける自分はいない。自分の存在意義ってなんだ?
妖精の自分は、非力で何もできない。ただの役立たずじゃないか。
「俺は妖精として生きていきたい。だから、妖精喰いのことを知りたいんだ」
ちょうちょの強い言葉に、スーは何も言えないのだった。




