46 入学試験・最終試験①
「いいぞ、いいぞ、上手いぞっ」
「よーし、頑張れっ、お前なら出来る!」
ステージの上ではブルーウルフのトムとサラマンダーのランダーが戦っている。
二匹の主はステージの脇から盛んに声援を送っている。
喧嘩しているわけではない。
四次試験が始まったのだ。
試験内容は模擬戦だった。
「この模擬戦での勝敗は合否に関係は無い。特性や能力の有無、従魔の伸びしろ、テイマーの力量などの様々な事柄を、模擬試験を通じて検査する。思う存分にアピールして欲しい」
試験官のハロルドの説明の後、1組目のトムと2組目のライダーが最初に対戦することになった。
トムはその鋭い爪でランダーを引き裂こうとするが、ランダーの吐く炎のために、なかなか近づくことができない。ランダーの方も素早い動きのトムに炎をぶつけることが出来ないでいる。
(暇だな……)
スーがわざわざ口を作ってあくびをしている。
「おいスライム、見えないぞ! 俺にも見えるようにしろ」
(うるせー、食料は黙ってろ)
スーの後ろからカーバンクルが文句を言っている。
今、カーバンクルは全身をスーに飲み込まれている。
スーの背中から顔だけを出している状態だ。有袋類の親子のようだ。向きは違うが。
いくらカーバンクルが仔どもだとはいっても、スイカの大きさしかないスーが丸ごと飲み込んでいる状態なので、スーは随分と大きくなっている。
わざわざ飲み込まなくても、おんぶ紐とかで背中にくくってもいいんじゃないか……。
ちょうちょは思うが、それでは駄目な理由がある。
カーバンクルは従属の首輪から解き放たれ、現在は野生の魔獣となっている。
そうなると入試会場である学園の中にいると駆除対象となる。いくらカーバンクルが高位の魔獣だと言っても、学園の中には高い魔力や能力持ちが大勢いる。そのうえカーバンクルは幼い。殺られてしまうのが目に見えている。
学園から離そうかとも思ったが、本人が嫌がった。このまま敵を倒すまでは学園にいるのだと言い張った。
しょうがないからスーがカーバンクルを飲み込むことにしたのだ。
飲み込んでしまえばカーバンクルはスーが食べている最中の食料とみなされる。
なんせスライムは食べるためだけの存在だと思われているから、身体の中に取り込んだ物を消化しないなどあり得ないことだからだ。
その食料が頭だけ出して、キョロキョロと辺りを見回し、捕食者にあれこれ文句を言っていても、消化途中の食料に変わりない。
学園の中に堂々といることができる。
だが、こんな姿をご主人様には見せられない。可愛らしいペットにはあるまじき姿になってしまっている。
早くどうにかしないと。
今現在ティナはここにはいない。
本当ならスーはご主人様といつも一緒にいたい。どこにでも付いて行きたい。
だが、それはご主人様に拒否されてしまった。
泣きたい。
スーは悲しみに打ちひしがれている。
ご主人様に言われてしまったのだ『トイレの前で待たないでね』と。
こんな不幸なことがあるだろうか。
ティナは食べすぎてしまっていた。
生まれて初めて手の込んだ豪華な料理を食べたのだから、そりゃあ嬉しくてキャパオーバーに気が付かなくてもしかたがない。
おかげで今はトイレの住人になっている。
スーはご主人様のことを何時間でもトイレの前で待つ心構えはあるし、ご主人様を待つことは苦痛ではない。
それなのに拒否されてしまったのだ。
「おい、そろそろ俺達の番らしいぜ」
(どっちが勝ったんだ?)
声をかけてきたちょうちょにスーは答える。
スーは、トムとランダーの試合で、勝った方と戦うのだと思っている。
なんせCブロックで試験を受けていたのは4組。その内の1組がリタイアしてしまったのだから。
まあ、どちらが勝とうともスーの敵ではない。スーが嫉妬の余り威圧を放った時は、二匹とも逃げてしまっていたぐらいだから。
「いやそれが……」
(ん、どうしたちょうちょ)
ちょうちょから、あっけに取られたというよりも、呆れたという声が聞こえてきて、スーはちょうちょの視線を追う。
そこには……。
(なんでお前がいるんだっ!!)
獣の形に戻ったグリファスがステージにいた。
「我も受験生だからな、試験を受けるだけだが」
(誰が受験生だよ。よくそんなことが言えるなっ。神獣が受験する学校なんてあるわけないだろうがっ)
スーは叫ぶ。
プライドの高いスーだが、ボコボコにされるのは目に見えている。神獣と模擬試合などしてたまるか。
「なんだとっ。おいスライムっ、俺を出せっ」
(オワッ。暴れるな)
カーバンクルがスライムから飛び出す。
無理やり飲み込んでいたわけではないので、出入りは自由だ。
「よしっ、俺がジジイを叩きのめしてやる。かかってこい!!」
カーバンクルはピョンピョンと “やんのかステップ” をしながらグリファスへと威嚇する。
まだ仔どものカーバンクルからジジイ呼ばわりされても心の広いグリファスは怒らない。逆に微笑ましいという表情だ。
(そうかぁ、そりゃあ良かったなぁ(棒))
「凄いねぇ、偉いねぇ(棒)」
スーとちょうちょは、またも親戚のおじさんになっている。
「愛らしい。愛いではないか」
クライブが相好を崩している。カーバンクルに対しては、いつも崩しているが。
「まあ、フェネックちゃん、元気になったのねぇ」
いつの間にかトイレから戻って来ていたティナが、飛び跳ねるフェネックへと笑顔を向けている。
(まさかっ、俺がカーバンクルを飲み込んでいたのを見られた!?)
スーは固まる。
愛されペットを目指しているスーは、あるまじき姿な自分を見られるわけにはいかない。
おずおずとティナへと視線を向ける。
「待たせてごめんなさいね」
ティナはスーの心配に気づいていないのか、屈んで撫でてくれる。
見られてはいなかったようだ。スーはホッと胸を撫で下ろす。スライムのどこが胸なのかを、ちょうちょだけがわかっていた。
少し伸びをしてティナの手に、もっと撫でろと言わんばかりに身体を押し付ける。
「試験を続ける。ティナ、ステージへ」
「え!?」
ティナはトイレに行っていたから最終試験が始まっていたのを知らない。
ハロルドから呼ばれ、戸惑ってしまう。
ステージの上には鷲さんがいる。
鷲さんと何かをするの? だが何をすればいいのだろうか?
ティナは頭を捻る。
「スー、ちょうちょ、早くステージに来るがよい」
グリファスはやる気満々だ。
神獣を相手にスーとちょうちょの模擬戦が始まろうとしていた。




