37 入学試験・三次試験⑤
「いくぞトム。あの木偶に噛みつけっ」
ステージ上では、カイ達のパフォーマンスが続いている。
ステージの端に置かれている木で出来た人型の人形をカイが指さす。パフォーマンス用に準備されているもので、壊してもいいと説明があった。
トムは命令通りに一目散に木偶へと走り寄ると、その鋭い牙で襲い掛かる。
動物は首が急所のものが多い。トムは木偶の首部分へと迷わず噛みつく。
人族の大人よりもやや大きめに作られていた木偶は、すぐにポッキリと折れてしまう。
「よーし、トム戻れっ」
主の声にトムはすぐに主の元へと戻る。
「えっと、以上です」
カイがペコリと頭を下げ、ステージから降りる。
魔獣には特性と能力がある。
特性は生まれ持ったもの、能力は種族に関係無く習得したものだ。
ブルーウルフは下位の魔獣だ。これといった特性はない。強いて挙げれば『鋭い牙』や『強い顎』といった所か。
そして、どんなにレベルが上がって努力をしても能力を習得はできない。
「凄い」
小さな呟きと共にティナがキラキラとした目をカイとトムへと向けている。
スー達が話し込んでいる間、ティナはステージに見入っていたようだ。
因みにクライブは、グリファスの言葉はわかるが、スー達の言葉は分からないため、グリファスに通訳してもらいながら話を聞いていた。
(はあ!? どこが凄いんだよ。あれぐらい俺だって出来る。かんったんに出来る。もっと凄いことだって出来るっ。あんなのただ少し毛が多いだけじゃないかっ)
「なぜ毛に拘る」
スーはむくれ、ちょうちょは呆れている。
「まったく、何を見せられているのやら。それでテイマーだと名乗られても、呆れてしまうだけだ」
ステージの周りにいた受験生達の中から、嘲るような声が上がった。
カーバンクルを連れたエリオットだった。
「なんだと」
ムッとしたカイが言い返そうとするが、エリオットが相手だと分かると口をつぐむ。
エリオットは高級そうな装いをしており、一目見ただけで貴族だと分かる。
どんなことを言われたとしても、平民は貴族に口答えすることはできない。
「だいたいブルーウルフを魔獣というのがおかしい。ただの獣ではないか。学園の入学試験を受けに来ること自体、身の程知らずとは思わないのか。家畜の番でもさせておけばいいのに」
エリオットはヤレヤレと言わんばかりに両手を広げてみせる。
(何だあいつ。嫌味なヤローだな)
「どうせ俺のことは見えていないだろうから、鼻の穴に小石でも突っ込んでやろうか?」
ペット達はエリオットのことをいけ好かないヤツと認定した。
「ワークス侯爵令息、君は何時から試験官になったのだ」
「ヴェルダート小公爵様、出しゃばる真似をしてしまい、申し訳ありません」
ハロルドから声をかけられ、エリオットは頭を下げる。
エリオットは侯爵家の息子で、公爵家のハロルドよりも家格が下がる。カイに向けた尊大な態度とは打って変わって、うやうやしい態度だ。愛想笑いまで浮かべている。
「余りにも身の程知らずの者がステージに上がっているものですから、つい口を出してしまいました。この国の誉である王立ザイバガイト学園の入学試験に、あんな下級魔獣を連れて挑もうなど、恥ずかしいかぎりですよ。小公爵様のお手を煩わせる前に、私が注意しておきました」
エリオットは、さもいいことをしてやっていると言わんばかりだ。
「魔獣のランクは試験に関係無い。入学に足るかは我々が判断する。君が口出しをする必要は無い」
「分かっておりますとも。本来なら自分から受験を辞退すべきというのに、さもしく試験を受け続けるなど、これだから平民は厚かましい」
ハロルドの言葉はエリオットには通じていない。貴族の傲慢さが滲み出ている。
カイは悔しそうに俯いている。
平民が試験を受けるなといわれてしまえば、どうしようもない。
ティナも驚く。
学園への就職のための試験のはずなのに、まさか平民は受けては駄目だというのだろうか。貴族が下働きをするなんて聞いたことない。
「ワークス侯爵令息。君は受験生の一人にすぎない、口を慎みたまえ。カイ、エリオットの言うことを真に受ける必要はない。次、タイリー前へ」
ハロルドがエリオットの口をふさぐと、2組目のタイリーを促す。
エリオットは、まだ何かいいたそうにしていたが、ハロルドが試験を進めてしまったために、口をつぐむ。
「はい」
タイリーはサラマンダーのランダーを連れステージへと向かう。
タイリーは二十代半ばのとても体格のいい青年だ。
ティナ達と同じ平民に見える。
「まあ、ワニさんかしら、大きいわね」
ティナがランダーを見て驚いている。
ランダーの体長は、ゆうに1メートルを超えている。全身が固そうな鱗に覆われており、胴体の横から足が出ているため、体高が低く、動きが遅い。
今もタイリーの後をゆっくりとステージに上がっていく。
(おお、でかいトカゲだな。ドラゴン種か?)
「いや、ドラゴン種ではない。トカゲではあるが火を吐くことができるから魔獣に分類される」
スーの質問にグリファスが答える。
神獣だからなのか、物知りのようだ。
「よし、ここまで来い」
タイリーは近づいて来たランダーに、自分の横に来るように指示をする。
「ランダーは防御には長けていますが、移動速度が遅いので、直接的な攻撃には向きません。その代わり炎を吐くことができます。炎は連続で3回吐くことができます」
タイリーは自分が携えていた木の棒でランダーを叩く。
強く叩いているようで、渇いた音が数度聞こえてきたが、ランダーは痛がるどころか気にもしていないようだ。
「よし、ランダー、あの的に火を吐け」
次にタイリーは、交換された新しい木偶を指さす。
ボウッ。
木偶までは1メートルほど離れていたが、ランダーの口から放たれた炎は、木偶へと届くと、あっという間に木偶を燃やし尽くす。
「まあ、火が吐ける魔獣なんて初めてみたわ。迫力があるわね」
ティナが驚きに目を見開いている。
(俺だって、俺だって、ちくしょー。火は吐けないけど、俺はもっと凄いことができるっ。あいつだって毛が無いじゃないか)
「だからなんで毛に拘るんだよ」
またもスーはむくれ、ちょうちょは呆れている。
「フフフフ。腹が痛い。火を吐くだけだなんて。それもあんなに威力が弱いなんて、笑ってしまう。それにあんなにノロマならば、敵が来る前に逃げられてしまうか、やられてしまうな」
わざわざタイリーに聞こえるように、エリオットが腹を抱えて笑っている。
「ワークス侯爵令息、口を慎みためまえ。何度言ったら分かる。その口を閉じていろ!」
ハロルドの堪忍袋の緒が切れそうになっているが、エリオットは気づいていない。というか、自分が気に障ることをしているとは、少しも思っていないのだ。
「次、ティナ」
「は、はいっ」
ハロルドに名前を呼ばれて、ティナは慌てて返事をする。
「ど、どうしよう……」
小さな呟きと共に、ティナはステージへと向かう。
スーとちょうちょも、もちろんご主人様と一緒だ。




