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家出公爵様がお帰りになりません  作者: 虚夢想
第三章 誰がための鐘編
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第38話 弔鐘

光の降り注ぐ祭壇で結婚証明書にサインをする。

慣れ親しんだ旧姓と別れの時だ。


フリッツは変わらず優しい笑顔を向けてくれるが、その熱量は常に変わらない。

貼り付けた笑顔は、この紙っぺらと同じだ。


そして私は契約に準じ、フリッツの手を取る。

はじめて触れた時はとても温かく感じたのに……



王太子と大臣子息と騎士団長子息。

そう聞けば絵に描いたようなエリートにしか聞こえない。

前評判は聞いていたが、アカデミーの初日から、すでにこの三人の話題で持ちきりだった。


盛り上がるのも解らなくはない。アカデミーは学習の場であり、出会いの場でもあるからだ。

夜会などがあるにせよ、どうしても付き合いは同系統の家が多くなる。

そんな中、異業種が一堂に会すアカデミーはある意味カオスなのだ。


だが自分に関係があるとすれば騎士伯くらいだろう。

バッセヴィッツ家は軍属の家で王の盾。卒業と同時に戦地に送られる覚悟は出来ていた。


それに多くの淑女が願うような夫を待つ妻より、共に戦える相手を夫にしたいと思っていた。


そんな私を友人たちは笑った。

揶揄っている訳ではない。ふたりとも聞き上手の可愛らしいご令嬢。

少数派の私を笑わない、本当の友人。


その大事な()()()にロルフは手を出したのだ…


ロルフの言い分によると一人に声をかけたら、もう一方の方が好印象で

どっちつかずな感じになってしまったらしく、さらに

誰でもいいから彼女が欲しかったとほざいた為、

入学早々、手袋を投げつける決闘騒ぎになったのだ。

そしてそこに割って入って来たのが王太子フリードリヒだった。



金髪碧眼。

物語の挿絵通り、いや…この国の物語の挿絵モデルになっている本物の王子が

バラを抱えて訪ねて来た時は、これは現実なのかと目を疑った。


その後も、純白の馬車からバラを出してみたり、白馬にバラで登場したり…

冗談なのかとも思ったが、毎日騎士科に現れては愛を囀った。


長年続く戦争が決して芳しくない状況である事は実家で聞いていた。

だからこそ求婚は戦力を期待されての事だと理解した。


魔力と腕っぷしだけの私を求める理由など他に考えられなかった。



だから卒業後、すぐに送られた戦場ではすすんで王太子の前に立った。

自分は盾として傍にいる。そう自負していた。


それがまもなく戦乙女と呼ばれるようになった。

所詮戦場に綺麗ごとなど無い。なのにいつも称えられた。王太子の盾などと。


そして同じ事をしているにも関わらず悪評は、すべてヴィルヘルムに押し付けられた。

ヴィルヘルムを盾に美辞麗句で塗り固められた我々は、凱旋し王都で称賛を浴びた。


形ばかりの停戦で、皆はまだ戦っていたというのに…



隣に立つフリッツはいつも同じ笑顔だった。

戦場でもパレードでも、私に愛を囁く時でさえ……


武家に生まれ、誰よりも強くある事を求められ、王の盾となり命を捧げる。

他人の為に生きろと言われ続けた私は、きっと誰より引き上げてくれる手を欲していたのだ。


差し出された手を取らない選択肢はいつもあった。

なのに手放さなかったのは……………執着したのは私自身だ。



ステンドグラスからこぼれる光の加減で、手を引きながらこちらを見たフリッツの笑顔に血のように赤い光が差した。そして、握られた私の手も血まみれだ。


大聖堂の重い扉が開くと大歓声に包まれた。

沿道の市民の歓喜の声が、耳鳴りのように響く。


前にも後ろにも血に濡れたような赤い絨毯が長く伸びていた。

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