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家出公爵様がお帰りになりません  作者: 虚夢想
第三章 誰がための鐘編
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第39話 肉食系キャベツ襲来

朝の挙式に昼の披露宴。そしていよいよ宴席は夜会に突入。


高いアーチ型の天井から、落ちてこないか心配になるほど大きな、そして目が

眩むようなシャンデリアがいくつも下がり。金色の燭台と鏡とロウソクとが…

…ちかちかクラクラしてる……。 


そんなキラキラしたホールを王太子殿下とカーラ様は笑顔のダンスで席巻していた。 

朝から続く式典でさぞお疲れだとと思うけど、王族ともなると

余興程度で汗をかいている平民とは別の生き物のようだ。


そして気圧される理由はひとつじゃない。

行儀見習いの実習で王城に呼ばれたのは、有力貴族の子女ばかり。

接待客も要人ばかりだし、エスコートは娘を売り込みたい父兄ばかりだから気合の入り方が違う。


その表れは彼女らの戦闘服ともいえるドレスだ。

………巻きの悪いキャベツみたいにフリフリで、物凄いかさばってて重そう……



たぶん流行りなんだと思う。

私もヴィル様からお姫様みたいな、でも軽やかなフリルの重なったドレスを送ってもらって、嬉しいけど派手なんじゃ…って委縮していたけど……


ちっとも派手じゃない!()()に比べると清楚なリーフレタスに見える。

ただ着ている私が貧相すぎて……

…調理場から丸パン詰めてくるんだったって後悔するくらい、胸部装甲が足りてない…


フッガー公爵令嬢のドレスを私が着たら、引っ掛かりが足りなくてストンと落ち

ちゃうよ。だから布面積が多いのかな。この方が恥ずかしくないし素敵だけどさ……



すっかり戦闘態勢のご令嬢たちの中、ちょっと寂しい気持ちでひとり立っていたら、仕事の合間を縫ってヴィル様が来てくれた。


ホッとしたのもあって駆け寄ると、いつものように目を細めて頭に手を置いてくれた。

すると引くほど周りが騒めいた。何事かと思ったけど、理由はすぐに分かった。


「…アレが婚約者か?」

「本当に居たのだな…しかしダールベルク家に恩が売れるとしても娘を差し出すか?生贄のようなものじゃないか…」

「無理やり攫ってきたと聞いたぞ」

声をひそめているつもりなのだろうが丸聞こえだ。


酒場で聞いていたヴィル様像は、どこか畏敬の念が感じられたけど

この言い方はウワサに便乗しているだけのように聞こえる。

そしてそれを証明するかのように、ヴィル様は素知らぬ顔だ。


悪口というのは、たいていが当事者に確認もせずに第三者が楽しむために尾ひれをつけた迷惑な作り話だ。

なぜなら当事者をよく知る者が、相手を傷つけようとする筈がないから。

もし知っていてそんな事をされたなら、それこそが本物の悪意だ。


少し悔しくなって、エスコートしてくれている腕にもたれるように寄り添ってみた。ヴィル様も驚いた顔をしていたけど、まわりは更に過剰反応をした。


特に声が大きいのがフッガー公爵父娘(おやこ)


人前ではしたないとか、市井の娘は相応しくないとか言ってるけど、その割には時々すり寄ろうとするのよね。ヴィル様との縁が欲しくないなら放っておいてほしい。


そして矛先が変わった途端に、さっきまで涼しい顔をしていたヴィル様から、不機嫌オーラがあふれ出した。


ヴィル様を見上げて「迷惑ですか?」と聞くと「いや」という返事。

「だが大事な者を悪く言われて、平然とはしていられまい」

気が付いて口をつぐむ者がいる中、ダンスに備えて重ねた手の指先を握る。


(わたくし)も同じ気持ちである事を、ご承知おきくださいね」

するとヴィル様は返事の代わりに、つながれた手を持ち上げると、そのまま唇に押し当てた。


割り切っているだけで、傷ついていない訳ではないのだ。



自分が公爵家に相応しいかと言われたら、正直首を縦に振る自信はない。

でもこの不器用な人の手を放したくないと、やはり思ってしまうのだ。


緊張が解けて周りに目をやると、出番の直前だというのに静まり返った皆さんは

そろって石化していた。

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