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3.魔法使いたい

 朝、いつもの様に目が覚める。


 まだ眠りたりない.

 目蓋だって重くて開きそうに無いよ。

 それにしても、ずいぶんと体が痛いな……。


 手で体の下の方を触ってみると硬い。


 木? 床かな?

 ベッドから落ちて床で寝てしまったのか……?


 ちゃんとベッドで寝たいので手探りでベッドを探しだす。

 いくら探しても手は空を切るばかり目的のベッドを探り当てる事は出来ない。

 薄目を開けると明かりが付いており眩しくて再び目を閉じた。


 電気付けたままだったか……。


 しばらくして徐々に目が光に慣れてきたので辺りを見回すと、知らない壁、知らない床や本棚、自分がまったく知らない部屋で寝ている事に気付いた。


 なんだ、まだ、夢の中か……。


 再び目を閉じ眠りに入る……が、違和感を感じる!

 枕がタオルで掛け掛け布団がジャケットな事、自分の着ているものがいつも寝る時に着るスウェットではなく普段着のままである事をだ!


 ぼんやりとした頭が徐々に鮮明になっていき自分が置かれている状況をようやく思い出した。


 「ああっ、夢じゃなかったんだ……」


 昨日の出来事を思い出していた。

 自分が今、別の世界に居ると言う事がいまだに信じられない。

 だけど不思議な事に帰りたいとは少しも思わなかった。


 「婆ちゃんも死んじゃったし向こうに残して来た者がいないからかな……?」


 祖母の事を思い出すとまだ胸の中でジワッと悲しみが込み上げて来る。


 「……はぁーっ! せっかく異世界に来たんだ色々とやってみるか!」


 異世界で一から始めるのも面白い、どうせ元の世界に帰った所で肉親もいない。

 しかもいい歳のおっさんで彼女もいない薄給のサラリーマン。

 どうせ一度きりの人生、それなら異世界で一旗挙げて見様じゃないか!


 とりあえず、この異世界で俺は何に成るのか考えないとな! 冒険者? 剣士? 魔法使い?

 ……ッ! そう魔法! この世界では魔法が使える! この世界で自分に魔法が使えるか分からないけど試してみなきゃ分からない!

 

 「どうやったら魔法が使えるのだろうか? アルフィーナさんに聞いてみるか、はたしてアルフィーナさんは魔法の事を教えるだろうか? 考えても仕方が無いとりあえずアルフィーナアさんに頼んでみるか!」


 今後の目標を決めると下腹部から尿意を感じたので立ち上がる。

 さっさと用を足すため昨日入ってきた扉(壁)の前に立った。


 「………………アレ? これどうやって開けるの?」


 ノブも何も無い、継ぎ目も無い、何の変哲も無い木の壁

 力いっぱいに押しても、横に引こうとしても、まったくビクともしない。


 「……あっ………………これヤバイ!」


 用が足せないと思うと余計に尿意を意識してしまう。


 「どうする!? どうする!? どうする!?」


 焦りながら身をくねらせて、どうするか考える。

 が、こんな状況では上手い考えが纏まるはずは無い。


 「最悪ペットボトルを使うか……この家トイレあるのか? 昨日聞いとけば良かった……うぅー……」

 「何をしてるのじゃ?」


 俺が額に汗をかいて部屋の中をうろうろしていると、アルフィーナが階段から下に降りてきた。

 どうやら俺がウロウロしている事に何をしているのか不思議そうな顔である。


 「あぁ~良かった! あっ、おはようございます。 すいません外に……ん、外に出たいんですけど!」


 救いの女神の登場に感激しながらアルフィーナに外に出たいと懇願する。

 アルフィーナは、直ぐに俺の状況を理解して、昨日入ってきた入口まで進むと軽く壁に触れた。


 「おーすまんかったの、この扉は魔法で開く魔道具なのじゃ、ホレ」


 すると木の壁が淡く光ったかと思った次の瞬間!

 扉の大きさに開き外の景色が広がった。


 「あっ、ありがとうございます!失礼します!」


 扉が開くと同時に礼を言って勢い良く飛び出し茂みに入る。

 急いでズボンのチャックを下ろすと用を足し始めた。


「はー、よかったー!」


 間に合ったことにホッと胸を撫で下ろす。


 用を足し終えた後、手を洗おうと周囲を見回すがそこには木や草しかない森の中


 「そっか~、水道なんて無いんだよな……」


 とりあえず湖の傍までハンカチを少し濡らして手を拭く。


 ハンカチしまい木の家に戻ると椅子にアルフィーナが昨晩と同じ様に座っていた。

 だから俺は先ほど決めた思いを話してみる事にする。


 「アルフィーナさん! いきなりで大変申し訳ないんですが私に魔法を教えて頂けないでしょうか?」

 「なんじゃそんな事か、かまわぬぞ」

 「ダメですよね……って、えっ良いんですか!?」


 まさか、こんなに簡単に承諾してもらえるなんて思っていなかった。


 「異なる世界から来たお主に使えるか分からんが私なら構わんぞ! 暇だしのう」

 「あ、ありがとうございます」


 暇潰しなんだと若干苦笑いしたものの、魔法を教えてもらえる事に嬉しさにアルフィーナへ礼を言う。


 「どれ、では始めるとするかのう」

 「あ、待ってください! その、朝食を取りたいんですが……よろしいですか?」


 さすがに昨日の夜食べたカ○リーメ○トだけでは1日もたない。

 朝ごはんだけでも食べさせて頂きたい。


 「お~そうじゃったのう! 私は物を食べるという事を遥か彼方に置いて来てしまったから忘れておったわ!」

 「ありがとうございます、それじゃ」


 とりあえず、昨日使った大と中の鍋を持って湖畔に行き水を入れ洗う。

 排水は少し離れた地面で行い、両方の鍋に水を入れ昨日作成した竈の上に置く。

 昨日集めた枯れ木がまだ残っているので竈にくべて火をつけた。


 木の家に戻りバックから袋ラーメン(しょうゆ味)を取り出し外に出ると、アルフィーナが竈近くの倒木に腰を下ろしている。


 あっ、もしかして……


 「あの~一緒に食べます?」

 「おお~、気を使わせたようですまんのう!」

 「いえ、魔法を教えて頂くのでこのぐらい……」


 本当に何も食べなくても大丈夫なのだろうか? この食いしん坊魔女さんは……。


 思っても口出さず再び木の家に戻るとバックから袋ラーメン(しょうゆ味)をもう一個取り出した。


 塩味もあるけど違う味だと両方取られそうだから……。


 ラーメンを取りに来たついでに箸とフォークを鞄から取り出し竈に戻った。

 戻ると鍋は良い感じに煮立っていたので二つの鍋に麺を入れ茹で始める。

 3分経つ前に竈から鍋を下ろしスープの粉を入れ掻き混ぜると、片方の鍋をアルフィーナの座っている朽木の上に置きフォークを渡す。


 「熱いですから気を付けて下さい、あと、昨日箸は使いずらそうだったので、こちらを使ってください」

 「うむ! んん? 昨日とは違うのじゃな。 汁の色が随分と赤黒いぞ?」

 「ああ、昨日のは、みそ味で今日はしょうゆ味です」

 「ほ~、みそとしょうゆと言う物が分からんが、とりあえず頂くとするかのう」

 「はい、では頂きます」


 ずずず、ずーー


 昨日はカロリーメ○トだけだったので久しぶりのラーメンは腹にみる。

 めちゃめちゃ旨かったせいか無我夢中で食べ始めると、熱々のラーメンは、あっという間に空になっていた。


 「ッッ~~~~んまかったぞ! 昨日のみそ味も良かったが、このしょうゆ味も良いのう!」

 「故郷の調味料なんです。 気に入ってくれて良かった」


 アルフィーナが満面の笑みで鍋を返す。


 どうやら満足してくれた様で受け取った鍋はスープ一滴残さず綺麗に空になっていた。

 俺は鍋を水で洗い大きい鍋で再び水を汲み火にかけ煮沸させ始める。

 この水は今日分の飲料水だ。


 粗方あらかたの作業が粗終わったところで俺はふと疑問に思った事をアルフィーナに聞いみる。


 「そういえば、アルフィーナさんって食事を取らなくても大丈夫なんですよね?」

 「そうじゃ、特に取らなくても問題ないが食事を取る事も出来る。 まあ、取らない方が食事を用意しないだけ楽じゃしな」

 「じゃあ、ここには食べ物の備蓄は無いんですよね?」

 「うむ! 食べる物は、お主の持っている物だけじゃ!」

 「あぁ~やっぱり」


 何と無く分かっていたが、やっぱり食べる物は自分で何とかしないとダメっぽいな。

 手持ちで長期保存の物……これは非常用に残して置かないとダメだな。


 手持ちの食料は限りがあるため食べ尽くす前に現在の食料事情を解決するしかない。

 なら、今日から打てる手を打っていく必要があるだろう。


 俺はある程度今日中に出来る事を考え始めた。


 「そろそろ魔法を教えるとしようかの」

 「はい、よろしくお願いします」

 「うむ、では、まずはお主の魔力量を測るとしようかの。 魔力が無ければ魔法は使えぬからの」

 「うっ、大丈夫ですかね? 私に魔力有るんでしょうか?」


 地球では、魔法なんて物は存在しない。

 だから実際に自分に使えるか分からない事は、かなり不安なところだ。


 「まあ、測って見れば分かる。 家の中で測定するので付いて来るのじゃ」

 「あっ、はい」


 家の中に入るとアルフィーナは棚の上で窪んだ小さい座布団のような布の上に置いてある直径15cm程の水晶玉を座布団ごと机の上に置いた。


 「この水晶玉の上に手を置き魔素を体に循環させるのじゃ」

 「魔素? 循環? あの、どうやるんですか?」

 「難しく考える必要は無い。 そうじゃの~、何かが胸を中心に体の中をグルっと回って水晶の置いてある手に集まるように想像するがよい!」


 よく分からなかったが、とりあえず水晶の上に右手を置いて血が心臓から体を巡って右手に集まるようにイメージする。

 この測定で魔法が使えるか使えないか判断が下されるので、若干緊張しながらゆっくりと循環するイメージを高めていく。


 「うむ! 上手くいけば、そろそろ水晶が反応するはずじゃが……」


 アルフィーナに言われ水晶を覗き込む。

 確かに水晶が僅かに光ってる気がする。

 俺は光った事に少し興奮気味になり、より循環のイメージを強くしていった。


 ―― カッ!!!!


 突然、水晶から凄まじい閃光が目に飛び込んだ。

 それも辺りが真っ白になる程の凄まじい閃光がっ!


 「うあー、目が目がーっ!」


 突然の閃光に目を瞑る事も間に合わず。

 閃光の直撃を受けて、どこかの大佐よろしく激痛で目を開けることも出来ない。


 「ック、えーい騒ぐではない! ほれ、こっちを向け回復の魔法をかけてやる」


 抑えてる手をどけアルフィーナの方へ顔を向けると、アルフィーナのモノであろう手の感触がまぶたの上に感じたと思った瞬間、嘘のように目から痛みが消え普通に開けられる様になった。


 「う~、酷い目にあった。 アルフィーナさん酷いですよ……あんなに光るなら最初から言って下さいよ~」

 「いや、すまんなかったのじゃ」


 アルフィーナもこの出来事は予想外だったようですぐに謝罪してきた。


 「しかし、普通はここまで強くは光らんぞ! 私がやっても水晶球が少し眩しく光る位じゃ。 ここまでの閃光にはならん!」

 「へ? と言うことは?」

 「先ほどの光り方だと……お主とんでもない量の魔力を持っておるぞ!」

 「!!! マジですか! おおーっ! やったーこれで魔法が使えるー!」


 俺は魔法が使えることが分かり両手を高々と挙げて歓喜の声を上げる。


 「これ、まだ終わっておらんぞ! まあ、尋常では無い魔力量を持っておる事は正直驚いたが、次は魔法を上手く扱えるかじゃ! 外へ出るぞ」

 「へ? あ、すいません」


 アルフィーナにたしなめられ俺は浮かれるのを直ぐに辞め一緒に外へ出た。


 後を付いていくとアルフィーナは湖に向かって歩を進め薮の前に立つと。


 「ふむ、この辺で良いじゃろう」


 アルフィーナがそう呟き、次に目を瞑り念じるように右手を水平に体の左に持っていく。


 「はあっ!」


 目を開くのと同時に気合発すると、前方を薙ぎ払う様に勢い良く右手を横に払った。

 するとどうだろう!

 目の前から切り裂くような音と共に一瞬で前方10mの薮が横一線に刈り取られたていった。


 「おおっ!すごい!」


 昨日の木の家に入る時に使った魔法は、壁を扉のように開ける魔法だった。

 もちろんそれにも感動したが、今回は草を切り裂くといった魔法らしい魔法

 それを見ると年甲斐も無く興奮してしまう。


 「ふむ。見たか? 今のは風で草を切り裂くように想像を高め、そしてその魔法に見合う分の魔力を使い放ったのじゃ! ようは自分の想像の具現化じゃの」


 アルフィーナが言うには、想像する事によって魔法が具現化されると言う。

 簡単に言うとライターの火をイメージしそれに見合った魔力を注ぎ込めば、魔法は行使され火が出てくるといった内容だ。

 この火のイメージをライターではなく火炎放射器に変えれば、より強い火炎が放たれるが消費魔力も大量に要る。

 自然の風で風で草はそう簡単に切れないが、より強く鋭利な風をイメージして魔力を消費すれば発動されるそうだ。


 しかし問題は正しくイメージが作れるかと発動には多くの魔力が必要な事、この二つがポイントとなる。

 また、無から物を作り出す事は難しいらしく、先ほどの魔法も前方の空気を圧縮した物のようだ。


 ゲームで良くある属性については、自分で強くイメージ出来るのが、火、水、風と言った得意分野に分かれる感じなので基本的に属性は無い。

 アルフィーナが、なぜ今回風で切り裂いたのかは火だと延焼が怖かったからだそうだ。


 「どうじゃ、分かったか? 強く想像して魔素を循環させ魔力を集めれば発動するのじゃ! よいな?」

 「使う魔法を強く想像して魔力を循環させ放つ! ですね!」

 「うむ! しかしじゃな、いくら想像しても魔力が無ければ発動しないし、使い続ければ身体に重みを感じて動けなくなるからの、その辺りを見極めんといかんぞ」


 魔力があればイメージさせ放てる! なるほど簡単だがそれに伴う魔力が必要だし、使いすぎると疲労の様なモノを感じて動けなくなるらしい。

 だから、それだけ魔術師は使いどころに苦労していると言っていた。


 「まあ、魔力をほとんど使わなくても発動できる方法はあるのじゃが、それはあとじゃ。 ほれ、やってみるのじゃ!」

 「はい、それじゃやってみます!」


 気合を入れ魔力量を測定した時のように魔素を体に循環させ手に集中させる。

 先ほどアルフィーナが見せてくれた風の刃で藪を切り裂くイメージを練っていく。


 「いっけぇぇーーーぃ!」


 おもいっきり力を込めて気合とともに腕を払うと手のひらが一瞬淡く光!

 瞬時に見えない風の刃となって目の前の藪を切り裂かれた!


 魔法の行使が終わり俺の目の前にあった藪は、3mの幅で湖までの20mの距離まで綺麗に刈り取られているではないか!


 「おぉーーーー! やった、凄い! すげぇ~」


 魔法を初めて使った事にあまりにも興奮してしまい感想がままならないほどに舞い上がってしまう。


 「これ、落ち着くのじゃ!」


 子供のようにはしゃぐ俺にアルフィーナが注意をする。


 「ああ、すいません。 初めて魔法を使ったので……」

 「まったく……しかし、問題なく魔法は使えるようじゃな。 湖まで届きよったか……初めてにしては、あまりにも規格外じゃの……」


 俺の魔法をアルフィーナが、関心しつつも呆れるように感想を漏らしている。

 アルフィーナに聞くと、初めて魔法を使う者は目の前の草を軽く切り裂いて終わるか、または発動しないもので、その後、幾日も修行を行い魔素の循環を鍛練する事でイメージどおりの魔法が行使されるそうだ。

 俺がやった事は魔法使いでも上級者がやっと成せる事を初めてでやってのけたと言う事になる。


 「はあ、どうも初めてなので思いっきりやってみましたんですが……」

 「あれほどの魔力量じゃ、出来ぬ事では無いのかのう……まあ、加減は大事じゃぞ! 常に全力とは行かんからの」

 「はい」


 確かに常に全力投球していたら、すぐに体力に限界が来てしまうから調整は大事だ!

 次はもっと気を付けようとえりを正す。


 と、そんな時、湖の対岸から何かを切り裂く様な音が飛んで来る!

 かと思うと対岸で次々と木や草が倒れ目では見えな所まで倒れていった!


 「……」

 「……」


 二人とも何が起こったのか分からずに呆然と対岸の様子を見る。


 「……ぅ、うむ……次はもっと弱くやるのじゃぞ……これは、ちとやりすぎじゃ」

 「は……はい、すいません」


 素早く立ち直ったアルフィーナが戒めに対し俺はすぐに同意した。


 やり過ぎ駄目ぜったい!




 その後は魔力の調整にずいぶんと苦労したが、数時間の修行のはてどうにか形にはなった。


 「まったく、とんでもない奴じゃの。 まだまだ調整が甘いとはいえ本来ならこんなに短時間で魔法を使いこなせんのじゃが……」

 「はい、まだまだな所もありますから今後がんばって練習に励みます!」

 「これだけ魔法を使ったら常人なら倒れてるのじゃがな、やはり規格外なのじゃのう」


 まだまだ魔法を使う事が出来る俺に、アルフィーナは驚く様な呆れる様な感想を漏らす。


 「どれ、魔法を使うのは、この辺で終わりにして次は魔道具の話でもするかの」

 「魔道具ですか! お願いします!」


 魔道具の話を聞けるという事なのでアルフィーナに頭を下げる。


 いや~魔法の次は、魔道具か夢が膨らむ!


 「うむ、では家に戻るかの」

 「あっ、その前に良いですか?」


 アルフィーナが家に戻ろうとした時、俺はある事に気付いた。


 「そろそろお昼なので魚取ってもいいですか?」

 「魚? まあ良いが……お主、手ぶらで何の道具も持っておらんのに如何どうするんじゃ? まさか素手で捕まえるのか? それとも罠でも仕掛けるのかえ?」


 魚でも取って昼ご飯にしようと提案すると、アルフィーナは俺が道具も持たないで魚を取ろうとしている事に首を傾ける。


 「考えはあるので大丈夫です!」


 俺はアルフィーナに自信を持って答えると、おもむろにジャケットに付いているポケットの中を探る。

 数箇所のポケットを探すと目当ての物を見つけ出した。


 出てきたのは金属の輪にまとめられた2つの金属

 一つは5cmほどの長さで楕円形の板状の金属、もう一つも5cmほどの長さで棒状の側面に凹凸の付いた金属だ。


 「何じゃ? それは?」

 「俺のいた世界の鍵です。 こっちの楕円形の板が俺の家の鍵でもう一つが祖母の家の鍵です」


 そう、出したのはキーホルダーに纏められた二つの鍵

 俺はこの鍵を使って魚をろうと考えていた。


 「ほう、それが鍵なのか? なんとも変な形じゃの……」

 「ええ、向こうじゃ色々な形の鍵があるんですよ。って、そこじゃなくてこの金属が重要なんですよ」

 「ほう、金属で魚が取れるのか?」

 「まあ、見てて下さい!」


 俺は説明するよりも実際に見てもらったほうが早いと思い、キーホルダーから鍵を外し両手に一つずつ鍵を持つ。

 だいたい60cmぐらいの間隔で両手を開いて鍵の先端の金属部分を湖の水面に付けた。

 あとは右手をプラス、左手をマイナスの電極として電気が流れるイメージしながら魔素を循環させ魔法を作り出す!

 12Vのバッテリーをイメージして魔力を流すこと数秒。

 アルフィーナは俺が何をやっているか分からないようだが、数秒するとその結果が分かる。

 水面に数匹の魚が浮いきたからだ。


 「おお! 魚が浮いてきたのじゃ! なんじゃ? 毒でも使ったのかえ?」

 「いえ、電気……いや雷の魔法を水の中で弱めに放ったんです。 魚は雷に痺れて浮いてきたんですよ。 もっとも少し時間が経てば痺れから回復して元の様に泳ぎだしますけど」


 日本では各都道府県が規則で禁止している漁の、電気ショック漁法を魔法で行ってみた。

 まあ、異世界なので問題は無いだろう。


 「ほう雷でのう……なんとも変わった方法なのじゃな」

 「はい、あっでも水の中にいるものに雷が流れるので注意が必要ですけど」


 アルフィーナに電気の特性を伝えながら手早く浮いている魚を集めていく。

 手だけだと浮いた魚全てを回収する事が出来ないため、近くに生えていた蔦を魚のエラに通して縛っていった。


 よしっ! 40cm台の魚が数匹確保できたので昼と夕食の食材が確保できたぞ。

 あと蔦にムカゴが大量に自生していたので、これも併せて確保しよう。


 「その実も食べれるのかえ?」

 「はい、おそらく俺の世界でのムカゴってモノと同じだと思います。 塩茹でにすると芋みたいな味で美味しいんですよ!」


 蔦に縛った魚は落ちていた木の枝に縛り付けて担ぎ、持ちきれないムカゴはジャケットを袋代わりにして包んで持っていく事にした。


 「アルフィーナさん、そう言えばこの辺に川は有りませんか? 小さくても構わないので」

 「ん? 川か? なんじゃ知らんかったのか。 小さい川なら家の近くに有るのじゃ」


 おぉう、灯台下暗し、昨日あれだけ探していた物が木の家の近くに有るなんて思っても見なかった。


 アルフィーナと木の家へ帰る途中で色々な野草を見つける。

 どうも動植物の種類が日本と近いらしく祖父母や山菜爺から教わった事がここで役に立つとは思わなかった。

 それと湿った所にあった倒木に椎茸が生えていたのでこちらも頂戴する。

 

 「なんじゃ色々見つけてくるが、それも食べるのかえ?」

 「はい、食べれます。 いや~凄いですねココは! まだまだ探せば色んな食べ物が出てきますよ」


 草にしか見えない物を取ってくる俺に関心しているのか呆れているのか微妙な表情のアルフィーナ

 そんなアルフィーナと対照的に秋の野草がたくさん取れた事に俺は喜んでいた。


 よしよし、これでひとまず食料の確保にメドが立った事は大きな成果だ。


 木の家に戻ると確保した食材を置いて、まずは魚でもさばこうかと考え包丁を探す。


 「あの、アルフィーナさん魚を処理したいので何か切る物はありますか?」

 「ん? 刃物か……たしか家の中に短剣だったらあったはずじゃ」

 「えっと、長さはどのぐらいですか?」

 「ん~、これくらいじゃったかの」


 刃物の長さを聞くとアルフィーナは、両手を軽く広げておおよその短剣の長さを教えてくれた。


 「だいたい50cmぐらいか……ちょっと大きいですね」

 「これ以上小さい物は、ここには無いぞ」

 「ん~、あっ! そう言えば祖母の遺品に何かあったはず」


 そういえば帰る際に祖母の遺品の中で手持ちで持っていけるものは鞄に詰め込んでいた。

 たしかその中に包丁がある事を思い出し木の家に中に入る。


 すでに木の家に出入りする魔法(魔力を通すだけ)もアルフィーナに教えてもらっていたので、一人で木の家に出入り出来る様になっているので問題ない。

 鞄を開けて中を探ると目当ての物を見つけ外に出た。


 祖母は几帳面だったので数本の包丁と砥石を帆布はんぷケースに入れ纏められていた。

 その中の一本の出刃包丁を取り出す。


 川魚のお腹をさばくくらいなら、これで十分だ。


 「それが、包丁と言う刃物か……変わった作りじゃが綺麗な刃物じゃのう」

 

 アルフィーナは初めて包丁を見ると、どこか感心するように言う。


 「アルフィーナさん、小川はどちらですか?」

 「おお、そうじゃったな、向こうに有るのじゃ」


 アルフィーナは川があるであろう方向へ歩いて行く。

 だから俺は魚と天日に乾燥させていた鍋を持って後に付いていった。


 木の家から湖に向かって右を100mほど藪の中を歩くと、アルフィーナの言う通り目的の小川に出る。


 「ここじゃ、家からそれほど遠くもなくて山頂から来た水なのでそのまま飲めるぞ」


 たしかに山の上から流れてきた川なのだろう、とても水が澄んでいて綺麗な小川だ。

 川幅2m弱ほどで水位は30cmほど、流れは多少速いが足を取られる程でもなくその水はとっても冷たい。


 「ありがとうございます。 早速使いたいと思います」


 アルフィーナに礼を言い早速魚の処理を始める。


 まずは、まな板……が無いので平らな石を探して水で洗う。

 次に鱗を落として肛門の部分に包丁を少し刺し顎からまでお腹に切れ込みを入れて内臓とエラを一気に取り出す。

 と、その時内臓を見ながら考える。


 もしかしたら使えるかもしれない!


 取り出した内臓類は捨てずに取っておく事にした。

 内臓を取り出した魚の血合いに切れ込みを入れて川でお腹を擦るように洗って綺麗にすると、近くの手頃な枝を切って魚をジグザグに枝に刺して終了。


 あとは鍋に川の水を汲んで一緒に持って行くだけだ。


 木の家の前のかまどまで戻ると魚に塩を振り塩焼きに、ムカゴは鍋に入れて沸騰させ塩茹でにする。

 野草は油を引いた小さい鍋に醤油で垂らして炒めた。


 「ずいぶんと、手馴れたもんじゃな」

 「ええ、子供の頃から祖父母や近所の人と山菜取りに出かけたり、狩猟する人と一緒に山に入って野営とかしたりしていたので」


 祖父母や山菜爺から山に入って食べれる山菜や茸を教えて貰った。

 それと村の猟友会の人と獲物の取り方や処理の仕方。

 祖父からはキャンプして技術や経験など色々な事をと教えて貰ったことを思い出す。

 楽しかった日々が蘇って来て、少し目頭が熱くなってきた。


 かぶりを振って気持ちを振り払うと、料理だけに気持ちを集中させる。

 食器は無かったので非常用鞄に入っていた紙皿にラップを巻き、そこに各種料理盛り付けて木の家に運んでいった。


 「さて、出来たので食べましょうか」

 「おや、私の分まで用意してくれたのか。 気を使わせたようで、すまんのう」


 申し訳無さそうに礼を言うアルフィーナだが、食べる気まんまんの雰囲気で居た事は分かっていたので一緒に用意しておいた。


 まあ、一人で食べるより多いほうが良いし、一食分作るのと二食分作るのは大差ないので、ついでに作るのは苦ではないからね。


 「では、いただきます」

 「ほう、お主の世界では食べる前に“いただきます”と言うのか?」


 俺が食べる前に“いただきます”をすると、アルフィーナとってそれが珍しい事だったようだ。


 「まあ、国によって違いますね、俺の国では、いただきますと言って感謝をする事でした。 そして食事が終わったら“ごちそうさま”って言って終わりの挨拶をしていました」


 他には宗教によって色々な感謝の方法はある事と、日本で普通に行なわれている“いただきます”の由来である頭上に頂に掲げ感謝を現していた事を軽く説明する。


 「それよりも冷めない内に食べましょう」

 「うむ!では、“いただきます”」


 アルフィーナもいただきますをして一緒に昼ご飯を食べる。


 「ん~♪ 旨いのう! この実はホクホクとして塩味が効いて癖になる味じゃの、魚も塩が効いておる! うむ、良い塩を使っておるの」

 「確かに美味しいですね。 塩は向こうで貰った物を使ってるんですが、そんなに違いますか?」


 今回使った塩は日本では一般的に使われている海で取れた天然塩。

 アルフィーナにとってどうもこの塩だけでも違いがあるようだ。


 ちなみに日本では、天然、精製、再生の3つがあり、簡単に言うと天然が天日干しや塩釜などで生産された塩のそのまま状態の物で、精製は文字通りでミネラル分を取り除いた99%塩の物、再生は輸入した塩を洗ってニガリを添加した物になる。


 「そうじゃな食事をする者たちは洞窟から取れる塩を使っておるの。 量も少なく上あまり良質ではないモノじゃ」

 「へ~岩塩ですか、量が少ないんじゃ大変ですね……」


 海が遠い所では確かに塩は貴重だ。

 日本でも戦国時代の有名な出来事がことわざにもなっている。


 まあ、アレも色々と由来があるらしいけど……。


 「それにコレじゃ! この葉っぱに付けた黒い液体! これを入れると匂いも味も良い! 今朝食べた、らーめんのしょうゆに似ておるの!」

 「ええそうですよ。 これがラーメンにも入っていた物です」


 そう言って調理に使用した亀甲印の○○○と名前が載るラベルの付いたペットボトルをアルフィーナに見せる。


 「おお~~~♪ では、これを入れればらーめんを作れるんじゃな!」

 「ええ、でも、醤油だけではラーメンになりませんよ」


 目をキラキラさせて質問してくるアルフィーナに若干たじろぎながら否定をする。


 よほどラーメンを気に入ってくれたようだ。


 食事を終え後片付けを済ませると木の家の机で向かい合って座った。


 「うむ、それでは魔道具の説明をするかの」

 「はい、お願いします」


 アルフィーナは、食事を終え一息ついたところで魔道具の説明を始める。


 「まずは、魔石の説明からじゃな」

 「おおー! 魔石! ファンタジー!」


 よくファンタジー系の物語に登場する魔石のワードに若干興奮気味に身を乗り出す。


 「ふぁんたじ? まあ良い、それよりも落ち着くのじゃ! ほれ、魔石の説明をするぞ! よいか魔石とは、鉱山などで取れる魔鉱石の中で一定の純度の濃い物を言う。 魔石と魔鉱石では発動できる魔法も威力も雲泥の差があるのじゃ!」

 「純度が低い物が魔鉱石で純度が高い物が魔石ですか……その純度はどれぐらい何ですか?」

 「明確な判断基準は無いのじゃが、目で見ても違いがあるし魔力を流すとすぐに分かるのじゃ! まあ、見てみるのじゃ」


 そう言うと、アルフィーナは机の上に2つのコブシ台の石を置いていく。

 一つは、くすんだ紫色がまばらに点在する石

 もう一つは、紫色の黒曜石のような石だ。


 「このくすんだ紫色の石が魔鉱石じゃ、で、こちらの紫色の艶やかな石が魔石じゃ」

 「へ~確かに一目で分かりますね。 この魔鉱石の紫色の部分が集まったのが、こっちの魔石なんですね」

 「うむ、しかしの普通の金属鉱石と違って製錬で純度を上げるのは難しいのじゃ。 じゃから魔石として掘り出された物を使うのが一般的じゃ」


 アルフィーナの説明によると魔鉱石を製錬するのには、温度管理が難しく鉄や銅のように製錬するのは難しいらしい。

 それ故に実験では良く失敗して灰色のクズ魔石に変わってしまったとアルフィーナはなげいていた。


 クズ魔石とは、魔鉱石よりも魔法の威力が極度に弱くなり使い道が無くなってしまうモノで、製錬は実験程度でほとんど行っておらず通常は純度の高めの魔鉱石を魔石と言い使っているらしい。

 魔石の色は純度が高くなるにつれ綺麗な紫色で、黒曜石のように艶やかになり透明度が増していくそうだ。

 ちなみにアルフィーナが用意してくれた魔石は、かなり高純度の天然魔石と言っていた。


 「なるほど、乾式の製錬は難しいのか……」

 「なんじゃ? 乾式とは???」

 「ああ、それは炉を燃やして鉱石を溶かして目的の金属を得る方法です」

 「うむ、精錬はよく知らんが、お主はそれを知っておるのか?」

 「ええ、以前、製錬の仕事を生業なりわいにしている人に聞いた事があるので」


 以前、金属加工会社に仕事の依頼をする時に担当者間での打ち合わせがあった。

 そのさい金属関係の面白い話を聞いている。

 もっとも製錬なんてやった事のない俺は、話が面白く熱心に話を聞いていたので実際に出来るかと言われれば難しい事なんだが……。


 「次は、魔導金属じゃな」

 「魔導金属?」

 「うむ、魔導金属とは、魔道具を利用する際に使用者自身の魔力を流し魔石に魔法の発動を行わせるための金属じゃ。 それと魔石自体の魔力を流すために使われるのじゃ。 主に熱した銅や鉄等に魔石を砕いて適量に配合させ冷まして利用されるモノじゃ」


 なるほど魔石は電池見たいな物で、魔導金属が伝導体ってとこか……。


 「そして最後に魔結晶じゃ」

 「水晶や宝石等に純度の高い魔石が混ざった物で発動させたい魔法を刻む事が出来る。 ただし一つの魔結晶には一つの魔法しか刻めぬ。 純度によって刻める魔法を強さが変わってくるのじゃ。 ちなみに魔力測定で使用した水晶珠も魔結晶の一つじゃ」


 つまり、使用者の魔力は魔道具を発動させるためのスイッチで、魔導金属はそれを通って魔晶石に魔晶石は刻まれた魔法をもう一度魔導金属を伝って魔石に、魔石に内包する魔力で増幅された魔法は外部に発動する。


 つまり魔結晶は魔法を具現化させるイメージが刻まれるユニットと言う訳か……。


 「この3つが無いと魔道具にはならないと言うことじゃ」

 「なるほど分かりました。 でも現状は魔石も何も無いので魔道具は作れませんね」

 「まあそうじゃな。 じゃがの魔道具を作る者には魔結晶に魔法を刻む際にどのような魔法にするか想像力の差によって作者の腕が決まるのじゃ。 また魔道具を使う者はだいたいが魔力が弱い者じゃ。 他には魔法が発動できる者は護身に使うのがつねじゃのう。 もっとも魔石自体が高価な物なので、護身用と言ってもそうそう庶民が手を出せる代物ではないがのう」


 この世界で魔石は高値で取引されているらしく、それを使った魔道具は一般人が簡単に手が出せる物ではないらしい。


 「魔道具については、こんなもんかの。 魔法の方は、お主なら使っていればそのウチ慣れてくるじゃろ」

 「はい、ありがとうございました。 魔法は使い続けて慣れて行きたいと思います」


 アルフィーナに礼を言い、時計を見ると14時30分を指していた。


 「とりあえず今日は、夜の食事のための食材を集めたいと思います」

 「おお、そういえばお主は食事を取らんといけないのじゃな。 分かったのじゃ後は好きにするがいい!」

 「はい、それじゃお言葉に甘えてチョット外に行って来ます」


 このまま魔法の修行と思ったが、それよりも今晩のご飯が心配になり食材の調達をする事にした。


 木の家を出ると、まずは山に入りムカゴがあったところまで行き自然薯じねんじょを掘る事にした。

 ただ手で掘り起こすのは芸が無いので魔法を使って自然薯の生えている地面を掘り返す事にする。


 まずは自然薯の周囲にある土を外側にどけていく。

 だいたいの土をどかしたらあとは、ゆっくりと自然薯を地面から抜くだけだ。

 折れない様慎重に抜いていくと曲がっているが、立派な自然薯が顔を出した。


 普通なら掘るだけでも時間がかかるのにここまで1分程度

 魔法超便利!


 そんな感じで10分程度で10本の自然薯が取れた。

 たまに魔力の調整を失敗して大穴を空ける事があったのは御愛嬌ごあいきょうだ。


 他にも川魚も一回の電気ショックで数匹取る事が出来た。

 これあけあえば今日の夕飯の食材だけでなく、魚を干して非常食にもできる。

 ついでに明日のために湖の浅い所に木の枝で円形に柵を作って囲い、湖側に魚がギリギリ通れる入口を内側に長細く作った。

 これは以前動画で見たインディアンの罠の手法だ。

 あとは中に餌として今日取った魚の内臓を置く。

 それともう一つ餌として周囲で捕まえた虫を枝に刺して沈めれば完成だ。


 明日になれば成功か失敗かが分かるだろう。


 木の家に戻り夕飯の準備を始めながら、明日以降の魔法の修行をどうするか考えてみる。


 「今日みたいに湖や草に向かって魔法を放つよりも、練習ついでに何か出来れば良いんだが……」


 悩みながら周囲を見渡すと、そこには鬱蒼うっそうと生い茂る藪と木と湖以外に何もない。


 「何もない……そう、何もないんだ!」


 アルフィーナの住んでいる木の家や家の周囲には、まったく生活感が無く雑草や木が無尽蔵むじんぞうに生えているだけの空間しかなかない。


 どうせ魔法を使うなら練習がてらに木の家周囲の環境を整える事に利用した方が良いだろう?


 「よし! あとでアルフィーナさんに聞いてみるか!」


 そうと決まれば手早く夕食を作り始める。

 魚はアルミホイルとオリーブ油に醤油をかけてホイル焼きに、自然薯は、細く短冊切りにし醤油をかけて生のまま食べる事にした。


 また昼の残りの野草と椎茸を具材に味噌汁を作る。

 味噌は出汁入りだったので、出汁は取らずにそのまま使った。


 ムカゴは塩を振ったあと油で皮をパリパリに中までシッカリ炒めるとフライドポテトのホクホクな食感になる。

 他の料理で多く塩を使っているので、こちらは少し舌で塩気を感じる程度に抑えた。


 「うん、出来た!あっでも、ムカゴと自然薯で芋がダブってしまったぞ……まあ致仕方がないか」


 今日の限られた時間でコレだけ用意出来たのだから良しとする事にする。


 非常の米を使えばご飯も付けられるんだけど……あれは非常用

 いや、今後の事を考えれば稲作用の種籾たねもみにするか……。


 夕飯も出来たので木の家に運び入れる。


 「アルフィーナさん夕食の準備が出来ました」


 机に料理を並べてアルフィーナに声をかけた。


 「む、昼に続き夜まで用意してくれたか、すまんのう」

 「いえ、お世話になっていますし昼にも言いましたが、一人で食べるより楽しいですから」


 日本にいた頃、アパートでは何時も一人寂しく食べる毎日だった。

 こうして二人で取る食事は久しぶりの事なので実際楽しいのは本当である。


 「うむ! では、いただきます!」

 「はい、いただきます」


 アルフィーナはフォーク、俺は箸を取り食事を始める。


 「ほう、また変わった料理じゃのう、魚は……うむ、柔らかくて良い匂いなのじゃ! 醤油も合うのう」

 「匂いはオリーブオイルだと思います。 向こうの世界ではオリーブと言う緑色の木の実を絞って油を取り出したものです」

 「ふむ、緑色の木の実か……たしか今の時期にココより少し入ったところに緑色の木の実を付ける気が在った様な……あまりにも苦い実だったようで誰も食べなかったが、それが主の言うオリーブかもしれんのう」

 「ははは、在るといいですね。 食材としても油としても色々と使えるので」


 昔から食べるのにも生活するのにも油はよく使われている。

 生産量が低い時代では大変貴重なモノだったようで庶民が使える油など極僅ごくわずかなモノだったようだ。


 現代の日本では多くの油が使われ生活水準を上げている。

 もしオリーブならぜひとも確保したい。


 「んんっ! このスープの味はみそじゃな! キノコと葉も合わさり旨いのう。 それに昼に食べたムカゴじゃったかの? 昼に食べた物とは違い皮がパリパリでコレも良いのう!」

 「はい、そのスープは味噌汁と言います。 具材に椎茸と言う茸と野草を使っています。 ムカゴは油で炒め塩を振っています」


 説明しながら俺もムカゴを頬張り味噌汁を飲む。


 やっぱりここにご飯があれば良いんだが……貰った米は脱穀しないと食べられないし、こっちの世界でジャポニカ米が食べられるか分からないからここは我慢しよう。


 「んっ? なんじゃ? この白くてネバネバするのは」

 「それは山芋ですね、自然薯とも言います。 生のままで食べられますので醤油をたらして食べてみて下さい」

 「ほうほう、どれ……シャクシャクしている食感が良いのう。 噛むと粘りが出てきて、しょうゆが甘みを引き立てておるのじゃ」


 少ない食材の中で作った物だが、アルフィーナは大いに気に入った様で残さずにぺろりと平らげた。

 空の食器を重ねて机の隅に置くと、食後のお茶として粉の緑茶をお湯で溶いたものを出して一息つく。


 「このお茶も変わった味じゃのう」

 「緑茶です。 本当は茶葉からお湯に染み出した物なんですが、これは手軽に飲めるようにしたお茶です」

 「匂いも味も良いのう」


 アルフィーナは、お茶にも満足の様子で背もたれに体を預けてくつろいでいるので俺は明日、魔法の練習で色々とやりたい事を相談する事にした。


 「アルフィーナさん、良いですか?」

 「なんじゃ?」

 「明日の魔法修行でやりたい事があるんですが」

 「ほう、魔法修行のう……で何をやるのじゃ?」

 「明日、魔法で色々と作りたいと思いまして、この家の周りに色々作って良いですか?」

 「なんじゃ、そんな事か構わんぞ、私はこの家さえあれば問題ないからの」


 俺は夕食を作るときに考えていた事を話すと、アルフィーナはすぐに快諾してくれた。


 「ありがとうございます。 じゃあ明日は色々と挑戦したいと思います」

 「うむ、精進する事じゃ」

 「わかりました。それじゃ、食器を洗ってきます!」

 「うむ」


 アルフィーナに礼を言って明日作るものを考えながら、食器を洗うために小川に向かう。

 小川で水を汲んで食器を洗いながら、明日からの魔法修行で何を作ろうか考えていると自分の体から汗の臭いがしている事に気付いた。


 「そういえば一昨日から風呂に入ってないな」


 異世界に来てから、まともに体を洗っていなかったことを思い出しどうしようか顎に手をあて思案すると


 「このまま川に入るより、魔法で何とか出来るかな……うん、よっし!」


 洗った食器を纏めて邪魔にならない所に置き、木の家から多少離れた湖近くの藪の中で地面に手を置き集中する。

 えいっ!と言った感じで魔法を放つと、生えていた草木が根ごと周りに押し退けられ10m四方の地面があらわになった。

 次に自然薯を掘った時の様に掘り抜くのではなく、地面の土を圧縮硬化させ2~3mの円状に1mの深さで陥没させ浴槽を作る。

 陥没させた所のふちの部分が地面と水平にならないように、こちらも硬化させた土を盛り上げ幅20cm、高さ2cmのふちを作った。

 余った土は周りの地面と一緒に床材として硬化させると、コーティングされた光沢のあるタイルの様な床が完成した。


 湖側の藪を風魔法で刈り取り湖が見えるようにする。

 湖の水を魔法で運び分子を高速に振動させて温めて浴槽の中に注ぐと、もうもうと湯気が漂いなんとも風情のある良い感じの露天風呂が完成した。


 俺は早速、木の家に戻り洗った食器類を片付けるとキャリアケースから下着とフェイスタオル、バスタオルを取り出し外へ飛び出そうとする。


 「何を急いでいるのじゃ?」


 ウキウキしすぎたのか俺の様子の異変に気付いたアルフィーナが問いかける。


 「あっ、えっと、体が結構汗臭くなったので洗おうかと思いまして……」


 お風呂で通じないと思い外で体を洗ってくる旨をアルフィーナに告げた。


 「ふむ、この時期は水が冷たいから気を付けるのじゃぞ」

 「アルフィーナさんは、体を洗ったりしないんですか?」

 「うむ、前にも言ったと思うが私は事故の副作用でこの体になってから代謝を制御出来る様になってな。 普通に過ごす分には汗も掻かんのじゃ」


 なるほど、だから昨日初めて逢った時に全体的にすすけている印象を持ったのか。


 「なんじゃ? 期待しておったのか?」

 「いえいえいえ、そんな!」


 急にそんな事を言われ驚いきながら否定する。


 いくら年齢が数百歳でも、見た目は美女のままなのだ期待していないと言われれば嘘になるが、初めてこの異世界出逢えた人だ変な事で気を使わせたくない。


 「ふふふ、まあ良い」

 「ははは、すいません。 では、失礼します」


 何か満足気に微笑むアルフィーナに、俺は逃げる様に木の家を出て浴場に向かう。


 浴場に着くと夕暮れだったが、まだ辺りが見える明るさだったのですぐに衣服を脱ぎ始める。

 誰も見ていないし恥ずかしがる歳でもないので一気に真っ裸になると、ある程度はなれた場所に一纏ひとまとめにしてフェイスタオルを持って入浴の準備をする。


 「しまった、おけが無いぞ」


 いざ湯の前まで来ると、湯掛の桶など必要なものが無い事に気付く。


 「さてどうしよう……まあ魔法で何とかなるだろう」


 魔法で解決する事を決めると、早く湯に入りたい衝動を抑えすぐに行動移す。


 「まずは材料」


 近くに生えていた大木の枝を風魔法で一本切り落とす。

 切り落とした枝の皮を落とすと枝の形状を変化させ桶になるようにイメージをする。

 そのまま生木だと重たく感じるので、桶のイメージで形状を変化させながら同時に水分を抜いていく。

 ある程度水分が抜けたと感じたところで手に取ると、昔ながらの温泉とかにある木の桶が完成した。


 同じ要領でスノコを作り浴槽から離れた場所に敷いた。

 ついでにかごも魔法で作りその中に服を上に置く。


 「おお~、なんか欲がからむと魔法調整が上手くいくな」


 出来た桶をシゲシゲと見ながら自分の魔法調整に感想を漏らす。


 出来立ての桶は、普通の桶との違い切れ目も繋ぎ目も無い無垢の木で彫ったような桶が出来たのだが、これでも問題ないだろう。


 「なかなかの出来! って、そんな事よりお風呂~お風呂~♪」


 桶とフェイスタオルを持ちながらお湯に向かう。

 お湯に手を入れ温度を確認すると、ちょっと温度が高いくらいだったが俺が入るにはちょうど良い温度だった。


 よし!と確認するように頷くと、桶を湯の中に入れて2、3度掛け湯をする。

 本当なら体を洗いたかったが、排水も無い簡易的なお風呂なので今日はこのまま湯に入る事にした。


 足先からゆっくりと全身をお湯の中に入れていくと

 「ふい~~~~~」

 気の抜ける声と共に体に入れていた力が抜け脱力状態になり浴槽に体を預ける。


 両手でお湯を掬い上げ擦り付ける様に顔に掛け持っていたタオルで顔をぬぐう。

 そして、そのままタオルを頭に乗せまたお湯を楽しむ。


 「あ~~~~い~~~~、凄く良い」


 昨日、今日と衝撃に事欠かない出来事が押し寄せて、それに対処するのに必死だったためか随分久方ぶりのお風呂のような気がする。

 体が溶ける様な感覚にそのまま身を任せ、頭を浴槽のふちに乗せ目を瞑ると虫の鳴き声が耳に入ってきた。


 静かに虫の鳴き声と湖の夕焼けを楽しんでいると、藪の中を何かが動く音が聞こえる。


 「獣かな?」


 不意に聞こえた物音に顔を挙げ音のした方に向けようと体を起こすと


 「なんじゃ、何をしておるのかと思ったら湯浴みをしておったのか」

 「へ?」


 やぶの中からひょっこりとアルフィーナが顔を出すと、驚きとともに間の抜けた声を出し呆然としてアルフィーナを見ていた。


 「しかし、これも魔法で作ったのか? 普通ここまでの規模の物を作るには1人では無理なんじゃが……本当に呆れた魔力じゃな」

 「え、ええ、まあ、はい……」


 突然の事だったが、さすがに俺が悲鳴を上げる訳にもいかず普通に返答する。


 「ふむ……どれ! 私も入るのじゃ」

 「えっ! ちょっ、まっ!」


 アルフィーナの突拍子も無い発言に俺の頭は、理解が追いつかずに焦ってまともに言葉が出てこない。

 俺の返答も待たずにアルフィーナは服に手を掛ける。


 「ちょっ、ちょっと待って下さい。 あっ、あのアルフィーナさん、入るんでしたら俺出ますから!」

 「よいよい、気にするな」


 服を脱ぎだすアルフィーナを凝視せず紳士的に目を逸らしながら自分が出て行くことを提案するが、アルフィーナは俺の制止にまったく耳を貸さずどんどん服を脱いでいく。

 結局あれよあれよと言う間に二人とも向かいあわせで風呂に入ることになった。


 「良いではないか、湯浴みなど久方ぶりじゃ。 前に体を洗ったのは……ふむ……10年前に泥に足を取られ転んだときに川で洗った以来かの……」

 「10年ですか……魔女なんですね本当に」


 俺はアルフィーナの方を向かずに言葉を返す。


 10年体を洗わないとか、やっぱり数百歳、単位が違うな。


 驚きながら人の意見を聞かないでズンズン来る感じに俺は、近所に住んでいた年配のおばさん見たいな印象を受ける。


 「おい、お主、よく分からんが殴りたくなってきたぞ」

 「ええっ! よっ、よく分からないで殴らないで下さいよ!」


 殴られた訳ではないがアルフィーナから放たれる殺気は尋常ではない。

 どうも俺はからぬ事を考えると、すぐにバレてしまう。


 なんか最近も似たような事があったような……。


 「しかし、魔法の調整が上手くいかなかった割には色んな事を魔法でするよのう」


 俺はアルフィーナの問いかけに桶を作ったときに思った事を返す。


 「ええ、ただ魔法を使うより、やりたい事に向けて魔法を使うほうが調整しやすいと言うか……何と言うか……」

 「ふむ、欲に正直なのじゃな」

 「何ですか、それじゃ私が欲望のまま生きている様じゃないですか」

 「ふふふ、まあ、自分のやりたい事にひたむきに努力をしている。 とも言えるがな」


 俺の答えが面白かったのか、アルフィーナは笑いながら返す。

 幾度か他愛の無い会話をしていると、結構長い時間風呂に入っている事に気付き俺は若干のぼせ気味になっていた。


 「アルフィーナさん、そろそろ出ませんか」

 「ふむ、いつの間にか時間が経っていたのじゃな」

 「じゃあ、待っていますので、先に出てください…って、着替えと拭く物は……」


 何となく嫌な予感がするのでアルフィーナに聞いてみる。


 「うむ、持ってないのじゃ!」

 「ちょっ、何で何にも持ってこないで湯浴みしたんですかー」

 「お主があまりにも気持ちよさそうに入っていたので、ついな!」

 「つい、じゃないですよ」


 全く悪びれる事も無く頷くアルフィーナに頭が痛くなる。 


 「そこに置いてある白いバスタオル……白色の厚手の布見たいな物が、体を拭く物なので使って下さい」

 「おお、すまんの着替えは脱いだ物を着るので大丈夫じゃ!」

 「本当にお願いしますよ~」


 アルフィーナに速く着替えてもらうため、自分が使う予定のバスタオルを先に使わる。


 「おお!」

 「どうかしましたか?」


 驚いた声を出すアルフィーナに心配で声を掛ける。

 もちろんアルフィーナの方へ振り向かずに


 「いや何、この拭く物が柔らかい上に拭くと体に付いていた水がすぐに無くなるのでな」

 「ああ、体を拭く用に作られたものですから」

 「なんと! ふむ」


 どうやらアルフィーナは、バスタオルに驚いたようだ。

 たしかに麻や木綿の生地で拭くより水の吸収が高いので、こちらの世界の人が驚くのは普通なのかもしれない。


 「ほれ、着替え終わったのじゃ。 それじゃお主も早く上がるのじゃぞ~」


 着替え終わると、アルフィーナは木の家に戻っていった。

 俺はアルフィーナが帰った事を確認すると、風呂から上がり体を拭く。

 アルフィーナが使った後だったのでバスタオルは若干湿り気があったものの、問題なく体の水分を拭き取る事が出来た。


 もちろん紳士な俺はタオルの匂いをぐ様なまねはしてない。

 手早く着替えると、桶にタオルと脱いだ下着を丸めて入れ立ち上がった。


 「ここは……明日にしよう」


 この簡易的な浴場をどうしようか一瞬悩むものの、この浴場はこのままにして明日処理する事に決めて木の家にさっさと戻って寝る事にする。


 木の家に戻ると、昨日と同じ様に床にタオルを敷いて適当な荷物を枕代わりにしてジャケットを体に掛けた。


 「明日は何時に起きよう」


 明日も食材の調達や魔法の修行などやる事が山積だ。


 少し考えて日の出前の5時に起きる事を決めて腕時計のアラーム設定を操作する。

 アラームの設定を終えると、どうも体が疲れていた様ですぐに目蓋が落ちて意識が遠のいていった。

 ここから主人公の魔法チートが始まります。

 マサキは、いったい何を作るんでしょうか?次回は、多少長くなる予定です。


 私の理解度の低さから、いまだに小説家になろうの機能が分からないので手探りでやっています。他作品への評価を忘れたり、お気に入りにって?などなど、もっと勉強しないとダメですね。


 平成30年8月15日 内容の修正と加筆しました。

 読み易くなっていれば幸いです。

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