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4.魔女宅開拓記(1)

 何回か直しているんですが、まだ今回の文章の流が気に入っていないので恐らくそのうちに書き直すと思います。

 すいません、なにぶん初心者の作品なので生暖かい目で見てください。

はあ……自分の文章力の無さに絶望する。


また、見易くなるかな?と1行空けてみました。

現在は色々と試行錯誤中なのでお許し下さい。

 大晦日の夜、祖父母と一緒にコタツに入って蕎麦を食べながら年が明けるのを待っていた。


 俺は二人より先に蕎麦を食べ終わったので今度はコタツの上のミカンに手を伸ばす。

 テレビを見ながらミカンを口に放り込んでいると、毎年恒例となっている歌番組や企画物の番組がテレビに映し出されている。


 大晦日なので特にする事もなくボーっとテレビを眺めていると、画面に新年を告げる年号と時間が映し出された。


 「あけまして、おめでとうございます」

 「はい、おめでとう」


 新年の挨拶をすると、祖父は頷き祖母は優しい笑みを返す。


 「お前は少し寝とけ日が出る前に起こすから、そしたら神社に初詣に行くからな」

 「うん」

 「その後は、いつもの通り祠《ほこら》に言ってお参りするからな」

 「わかった」


 祖父からこの後の予定を聞くと、お腹が膨《ふく》れた事とコタツの温かさでウトウトしてきた。

 そのままコタツに足を入れ座布団を枕代わりに横になると、祖母がそっと俺の上に毛布を掛けてくれる。

 

 「はい、あんまり長い時間コタツの奥の方に入ってると、汗をかくから足だけ入ってコレ掛けて寝なさい」

 「うん、ありがと」


 もう起きているのが限界だったので毛布に包まり目を閉じた。


 「ほれ、そろそろ起きろ」

 「うっ……ん~……」


 祖父に体を揺すられて起こされる。

 さっき目を瞑ったばかりと思っていたが、いつの間にか出発の時間になっていたようだ。


 体を起こすことは出来たが、まだ目蓋《まぶた》が重く目を瞑《つむ》ったままでしばらく下を向いたまま動けないでいた。


 「ほら、お水飲んで」

 「ん」


 祖母から水を受け取って口に入れると、温まっていた体の中に冷たい水が染み込んでだんだんと目が覚めてきた。


 「んじゃ、そろそろ行くぞ!」

 「はい、寒いからコレを着なさい」


 祖父から出発すると言われると同時に祖母に厚手の上着を掛けて貰い出発の準備を始める。


 身支度が整い玄関の扉を開けると、景色が一変していつの間にか神社の前に立っていた。

 本当に一瞬の出来事なのに俺自身、これが当たり前だと疑問を感じる事はない。


 祖父母と一緒に参道の端を歩いて一礼してから鳥居をくぐる。

 手水舎《ちょうずや》で手と口を清め神前に進む。

 いつもは人がいない境内の中なのに今日はイヤに騒がしい。


 まあ、それもそうだろう。

 田舎の小さな神社でも新年ともなれば多くの参拝客で境内の中が賑《にぎ》わうものだ。


 俺は祖父母の後を追いかけながら周囲を観察する。

 お参りをする人、破魔矢やお札を買う人、お焚き上げの火に当たり暖を取る人、配られた甘酒やお酒の茶碗を持ち談笑する人、と境内は人でごった返していた。


 「ほら、行きますよ」


 いつの間にか祖父母から離れていたようで祖母から声がかかる。

 そして祖母が逸《はぐ》れない様に優しく手を繋いでくれた。


 人ごみの中をゆっくりと神前に進むと、ようやく賽銭箱の前までたどり着いた。

 祖父母と一緒に賽銭を入れ鈴紐《すずひも》を手にとり鈴を鳴らす。

 二拝二拍手のあと最後に手を合わせたままで祈りを込める。


 俺は目を閉じて、いつもするお祈りを頭に浮かべる。


 “みんな えがおで いれますように”


 祖母から“辛い時でも笑顔で入れば何事も乗り切れる”と言われて以来、神前ではいつもそのお祈りをしていた。


 祈りが終えると一礼して次の人に順番を譲る。


 次に祖父が言う事はいつも一緒だ。


 「それじゃ、次は祠の方へお参りするか」

 「ええ、そうですね」


 祖母に手を引かれたまま他の参拝客の邪魔にならないように移動する。


 ちょうど鳥居の出る手前で日が昇り始めた。

 俺と祖父母は、初日の出に手を合わせ神前に一礼して鳥居を出る。


 次に境内を出た先の山へと続く参道へと足を向ける。


 この道はいつも思うがとても道とは思えない。

 知らなければココが山へ続く道だと地元の住民だって気付いてないかも知れないほどの道だ。


 木々に囲まれた山道

 こんな山の中、明けたばかりの日差しでは暗くどこに道が有るのか分からない。

 そんな薄暗さの中でも祖父は迷う事も無くスタスタと進んで行く。


 しばらく進むと、それまでとは打って変わって開《ひら》けた場所に出た。


 そこは、冬だというのに草木が青々している。


 ……不思議だ。

 村の木々や参道入り口にあった草木は全部葉が無いか枯れているのに……本当に不思議な場所だ。


 そして、そんな場所の中央にポツンと全体を苔に覆われた大きな岩が佇んでいる。


 本当なら木々が頭上高くその岩は闇に覆《おお》われているはずなのに

 まるで「ココにいるよ」と言わんばかりに淡く日差しが差し込んでいる。


 その様相は、苔色の岩が木漏れ日に照らされて何とも神秘的な表情を見せていた。


 大岩に近づくとその岩の下の方に幾重にも石が積まれ置いてある。


 ただ石を重ねて積んであるだけで一見するとそれが何なのか分かる人はいないだろう。

 俺が初めてここに来た時に一度だけ祖母に聞いたことがある。


 その時祖母は、

 “ここには、天之《あめの》***神様《かみさま》が居るんだよ”

 と教えられたと思う。


 当時はまだ幼く、神様の名前を言われても上手く覚えられずに


 ここに かみさま がいるんだぁ。


 と、おぼろげに思っていたのを覚えている。


 この時の俺は祖母が言った言葉の最後しか記憶していなかったんだろうな。



 祖母に手を引かれて祠の前に立つと、神社と同じ様に3人で2拝2拍手1拝して祈る。


 祈りは先ほどと同じだ。


 “みんな えがおで いれますように”


 祈りが終わると祖父母がいつもの様に別々に行動を始める。 

 祖父は周りに生える草を引き抜き、祖母は祠の石を手拭《てぬぐい》で拭き汚れや埃《ほこり》を払っていく。


 「まったく、取っても取っても生えてくるな、ここは!」

 「しょうがないですよ。 私たち以外誰も来ませんから……」


 俺は、そんな祖父母の姿を後ろでジッと見ているだけだった。




 ――………………ピッ、……ピピピピピッピピピピピッ


 何かが、けたたましく鳴り響く。


 何の音だろう?うるさいな……。


 目を閉じて待つがその音は鳴り止まない。

 しょうがないので薄目を開けてうるさいソレに目を向けた。


 「あー……なんだ……時計か……」


 そう腕に付けている時計が鳴っていたのだ。


 時計を自分の方に向けると時刻は5時


 「ふああぁあ~あぅ」


 俺は大きな欠伸をしたあと時計のアラームを止める。


 まだ眠い。


 完全に目が覚めてないのでしばらくボーっとしていた。


 数分も経つと若干頭が覚めてきたので今度は先ほど見た夢について思いを巡らせる。


 「ずいぶんと懐かしい夢だったな……」


 子供の頃いつも新年は、さきほど見た夢と同じ様に祖父母と一緒に迎えていた。


 大人になり仕事をするようになってからは年を越して実家に帰る事が多くて、祖父母とは別に1人で神社と祠にお参りをしていた。


 あぁ……祖父母と一緒にお参りしたのは、いつの事だろう……。


 夢の光景を思い出すと、あの懐かしい光景が込み上げてくる。 


 「ん?」


 欠伸のせいか夢のせいか目の端から頬にかけて涙の線が付く。


 「……はぁ……どれっ、起きるか!」


 頬に付いたものを手で強引に拭き取ると、顔を洗おうと立ち上がる。


 床で寝ていたためかどうも体のあちこち痛い。


 「んんっ!」


 軽く伸びをしてコリをほぐすと鞄からタオルを取り出し外へ出た。


 外はまだ朝日が出る前で薄暗い。

 小川まですぐだソコだ問題ないだろう。


 小川まで来ると、顔を洗うため身を屈《かが》めて水をすくう。

 季節は日本と同じなのだろうか? 水の冷たさ驚いた。


 一瞬考えたが、すぐに考えるのをやめ一気に顔に水をかける。


 「……くぅ~っ」


 冷たさで寝ぼけた頭がシャキっとする。


 「どーれ、昨日仕掛けた罠に何か掛かっているかな!」


 持っているタオルで顔を拭い首に回して昨日湖に作った罠の確認に向う事にした。


 湖に着いくとすぐに罠の確認。


 「おお! すごい結構入ってるな!」


 罠の中にはナマズと数匹の淡水魚が泳いでいた。

 まったく期待をしていなかったが、実際成功すると嬉しいものだ。


 「よし、全部持って帰るか!」


 昨日と同じように電気ショックの魔法で魚を気絶させると、近くにあった蔦を使って魚を繋げ持ち上げる。

 もちろん罠の方も忘れずに餌を再設置し直しておいた。


 「さて、魚も取れたし今日も塩焼きにするか、あとは……ご飯が食べたいな……」


 こちらの世界に来てまだ数日しか経っていない。

 けれど毎朝食べていたご飯

 これが無いと思うと無性に食べたくなる。


 無い物をねだってもしょうがない。

 今はある物で出来るだけ美味しい物を作ろう!


 朝食の献立を考えながら歩いていると、いつの間にか木の家に到着していた。


 「やっぱり、昨日みたいに川の自然石で魚を捌くのは嫌だな……よし! まずは立ったままで料理が出来るように魔法を使って作業台を作るか!」


 地面に手を置いて目を瞑《つむ》り作業台をイメージする。

 イメージが決まったので体に魔素を巡らせると


 「んー、はっ!」


 掛け声とともに一気に魔法を発動させた。


 普通だったら呪文を詠唱した後に魔法の名前を叫んで格好良いんだろう。

 しかし、残念ながらオッサンにそんな中2的な思考回路はないのでコレばかりはしょうがない。


 魔法を発動させると周囲の土や岩と一緒に地面がせり上がる。

 せり上がった土は、どんどんと形を変え光沢のある土色の作業台へと変わった。


 ついでに木を材料にして、まな板と食器類も作っておく。


 作業台の上に魚と帰りがけに採取した野草を載せて鞄から出刃包丁を取り出すと早速朝食作りをはじめる。


 本日の朝食は、今朝捕ってきた魚の大きさが15cm程だったので数匹串に刺して塩焼きにする。

 次に鍋でお湯を煮立たせたら、貰い物の昆布と鰹節で出汁を取ってそこに塩と醤油で味を調整した後、自然薯と摩り下ろした物と野草を入れて軽く煮込む。

 これでお吸い物の完成だ!


 さて、ここで悩む。

 悩む内容は、もちろんご飯の事だ。


 今米を使う訳にはいかない……なら、どうすれば……ッ! そうだ、思い出した!

 非常用の鞄《かばん》にレトルトのご飯がある!

 アレなら今持っている籾米《もみごめ》を使わずに済む。

 非常用だが背に腹は代えられない。

 今はとにかくご飯が食べたい!


 そう決めると木の家に戻り非常用の鞄からレトルトのご飯を2つ取り出す。

 鍋に水を張り竈で沸騰させる。(ここで魔法を使えば早いのだが、目の前のご飯に我を忘れてしまった)

 沸騰したら用意したレトルトのご飯を水を投入した。

 あとは出汁を取り終わった昆布と鰹節、それと椎茸を刻んで鍋で煮込み塩で味を調整してレトルトのご飯を入れればお粥の完成だ。


 一般的にお粥を作ったときの水の量は、ご飯の2倍の量を入れるが今回は吸い物があるので少し少ない量で調整したので朝食には丁度良いだろう。


 さきほど魔法で作ったお皿とお茶碗に盛り付けてれば完成だ。

 これを木の家の机の上に並べて俺は箸、アルフィーナには食べ易いようにレンゲを置いた。


 それと湯飲みには昨日アルフィーナに好評だった粉末の緑茶を淹れておけば終了!


 「よしっ終了!どれ、アルフィーナさんを呼ぶか」


 朝食の準備が終わったのでアルフィーナを呼ぶために2階へいく階段前に向かう。


 「おはようございます。 アルフィーナさん朝の食事が出来たので一緒に食べましょう」


 2階へ上がらずに1階から少し大きな声でアルフィーナを呼ぶ。

 ちなみに2階がどうなっているか俺は知らない。

 女性の部屋に勝手に入る訳にはいかないから当然だ。


 「ん、おはよう」


 すぐにアルフィーナは2階から降りてきてくると、短く挨拶の後で椅子に座った。

 雰囲気を見る限り寝起きと言う訳ではなさそうだ。


 「昨日と同じで、あまり変わった物は作れませんが、どうぞ召し上がって下さい!」

 「うむ……ん? これは何じゃ? 白い……スープではないのう?」


 アルフィーナは、お粥を手に取ると不思議そうにレンゲで掬《すく》い上げる。


 「あっ、コレはお米と言って麦のように穂を付けて実の穀物です。 それでその実の皮を取り表面を削った物がこの粒です。 普段は炊いた物を食べるんですが、今日はお粥《かゆ》と言って水を多めに足し具材を入れ塩で味を調整した物です」


 「ふむ、こめか……初めて見るの……」

 「私の国の主食なんで気に入って頂けると嬉しいです。 さあ食べましょう!」


 米に興味津々のアルフィーナが食べたそうにしているのですぐに食事を始める。


 「では、「頂きます」」


 アルフィーナも一緒に“いただきます”をすると、早速レンゲでお粥を掬い上げて口に入れる。


 「………………」


 アルフィーナは、噛まずに目を閉じて静止したまま微動だにしない。


 「あの……お口に合わなかったでしょうか?」


 あまりにもアルフィーナが動かないので心配になる。


 もしかして口に合わなかったのか?


 「……んぐっ、んんん、んぐっ……あっ、ついのう!」

 「あっ、すいません、先に言うべきでした」


 そういえばお粥は作りたてで熱々のままだ。

 食べたい衝動に駆られたアルフィーナは、熱さを確認せずそのままの口に運び入れていた。

 だから熱々のお粥を吐き出す訳にもいかすに我慢していたようだ。


 「だっ、大丈夫ですか?」

 「うむ、回復魔法が無ければ危なかったのじゃ」

 「そっ……そこまでですか……」


 食事で回復魔法を使うとは……。


 食に対して一切妥協しないアルフィーナに苦笑いを浮かべてしまう。


 「しかし、噛めば噛むほど甘みが出てくるのじゃな、このこめと言う物は」

 「はい、本来の食べ方だと、粒がほどよい弾力をして多くの食材と合うんですよ」


 米は良い!

 色々な食べ方があり、色々なオカズに合う。

 もっと食べたいが我慢だ! 我慢!


 「ふむ、この器……この器は、お主が持ってきた物なのか?」

 「いえ、先ほど食事を作っていたときに、パパッと作りました」

 「パパッとじゃと……普通かなりの魔力が必要じゃから、パパッと出金のじゃが……さすが膨大な魔力の持ち主じゃのう……」


 俺が魔法を使って色々と道具を作る事にアルフィーナは呆れたように俺を見るが、食べるのを止めるような事はせずに次々とレンゲで口に運んでいる。

 今度は、しっかりと息を吹きかけて温度を調整しているようだ。


 「ん? これはみそ汁ではないのじゃな。 しょうゆ……の様じゃが、味が違うのう」

 「ああ、それはお吸い物です。 鰹節と昆布で出汁を取っています。 お粥に入っていた木のクズみたいなのが鰹節で緑色の物が昆布です」

 「ほうダシとな。 それでこんなに味わいが違うのじゃな……うむ、美味いのじゃ!」


 今日の食事もお気に召した様でアルフィーナの口は休むことなく次々と口の中に運んでいた。


 それ後も俺とアルフィーナは談笑しながら食事を楽しんだ。





 「で? 今日はどうするのじゃ? 昨日は何やら色々と作ると言っておったが」


 食事後のお茶を飲んでいた時、アルフィーナが今日の予定を聞いてきた。


 「そうですね、まずは家ですね」

 「家じゃと!?」


 俺は昨日考えていた第一目標、家の作成だ。


 「はい、お世話になっているのに大変心苦しいんですが、床で寝るとアチコチ身体が痛いのでこの木の家の近くに家でも建てようと思ているんです……」

 「なるほどのう。 しかし家とは、どれだけの時間が掛かるか分からんのじゃ」

 「はい、まあ気長にやろうかと……」


 大きさによって時間のかかり方は違う。

 まあ俺1人住めれば良いのだから、そこまで大きくならないだろう。


 「あとは食料の確保ですね」

 「む、確かにお主は食わねば生きていけないからのう」


 それはあなたもでしょう……と俺は遠い目をする。


 「なんじゃ、その顔は! わ、私は問題ないのじゃぞ。ほっ、本当じゃぞ!」


 焦るところがますます怪しい……まあ、そういう事にしとこう。


 「えっと、今のところは、その二つが目標ですね」

 「うむ、今から取り掛かるのじゃな? では、私は邪魔にならない所で見ているのじゃ!」

 「へっ、アルフィーナさんも来るんですか?」

 「当たり前じゃ! こんな良い暇潰しは他に無いのじゃ」


 胸を張りながら俺の魔法の修行を暇潰し宣言するアルフィーナに少し肩が落ちそうになるが、こういう人なんだと諦める。


 「はあ、じゃあ始めますか」

 「うむ、やるのじゃ!」


 若干気合の入らない俺と、意気揚々のアルフィーナと共に外へ出る。


 「っと、まず作るのがあった」

 「ん?なんじゃ?」

 「あー……、そうですね、物が出来た時に教えます。 実物を見て教えたほうが分かり易《やす》いですしょうし」


 首を傾げるアルフィーナを置いて、これから作るモノのイメージはすでに出来ている。

 俺は近くにあった大岩に手を伸ばすと魔素を循環させた。


 「はっ!」


 気合と共に魔法が発動すると大岩は一瞬で砕かれ勢いよく地面が積み上がる。

 しかし、それは一瞬の事で次の瞬間、別の物が物が形成されていた。


 「……なんじゃ? 石を四角くしただけかえ?」


 アルフィーナがそう言うのも仕方がない。

 俺が作り出したソレどう見ても高さ2m、幅1mほどの四角い石にしか見えないのだから。


 「そうですけど、それだけでは無いんですよね」


 俺はそう言うと石に手を伸ばす。

 その石の箱には胸と顔の位置に取っ手が付いていた。

 俺はそれを掴み横向きにひねる。

 ガッチャっと何かが外れる音が聞こえると、全面の部分が扉時の様に開いた。


 「中は……空洞なのじゃな、何か物を入れるのかえ?」

 「はい、その通りです。 これは冷蔵庫と言って、この中に傷みやすい生物なんかを入れて保存するものです。 上の棚に氷の入った桶などを入れておけば中の温度が低くなり長時間の保存ができます。 もっとも氷が溶ければ、その都度変えなければなりませんが……」


 そう俺は、昔の氷を使った冷蔵庫を作ってみた。

 本来だと木製の冷蔵庫だが、保温効果を期待して石の成分で組み上げたものだ。

 もちろん外枠の内部をハニカム状に空間を作り内部の空気を抜いている。

 こうする事で軽量化したうえ保温性と強度を高めてみた。


 また、完全に砕いた岩を密度が一定になるように固めたためか大理石の様な美しい光沢が出てるので嬉しい誤算だ。

 ちなみに怪我をしないように角の部分をアール加工する事は忘れはいない。


 「ほう、魔石を使わずとも物が冷やせるのは便利じゃの」


 感心した様に頷くアルフィーナ。

 彼女が言うには、どうやら魔道具の中に物を冷やす物もあるらしい。


 次に同じ様に岩を砕いて固めて深目のトレイを作ると、魔法で水を氷に変えトレイの中に入れる。

 それを冷蔵庫の上段の棚に置けば氷の冷気が上から下へ流れるといった仕組みだ。


 あとは、朝ご飯の準備の時、ついでにナマズを捌《さば》いておいたので氷を入れたトレイより浅目の物にを作ると、乾燥しない様に湿らせた布を上にかけて冷蔵庫の中に格納しておく。


 「あとは、冷蔵庫を邪魔にならない所に置けば終了~」


 俺はそう言うと、冷蔵庫を魔法で持ち上げ木陰に移動させた。


 本当に魔法って便利だな。

 イメージするだけで何でも出来てしまう。


 「ふふふ、魔法はたしかに便利じゃがそれだけ消費する魔力も膨大じゃ。 お主のように苦もなく使って色々な物を次々と生み出すのを見ると、呆気に取られると共に次に何が出てくるのか楽しみでもあるのう」

 「そう何ですか?」


 アルフィーナが言うように必要とする魔力は大きいらしいけど、俺にそれは分からないほどの消費量だ。 問題ないだろう。


 「さて、次は……食糧確保で森に動物用の罠でも仕掛けようと思います」

 「ほう、罠かえ」

 「はい、と言っても素人の罠なんで掛かるかどうか分かりませんが」


 そう言うと森の中に向かって歩き出す。


 数分、草木を掻《か》き分けながら進んでいくと、コナラの木があり下にドングリの実が落ちている場所を見つけた。

 コナラのドングリを取って持って帰ってもアク抜きしないと食べられないので今回は採取しない。


 「よし、ここに作るか」


 地面に手を置き集中してイメージを作ると、体に魔素を循環させ始める。


 「はぁっ!」


 かけ声と共に手の表面が淡く光

 しかし、魔法が発動したにも係わらず周囲に変化が見られない。 地面は来た時と同じ平らなままだ。


 「よし! あと数箇所作っておくか」

 「よし! ではない何をやったのじゃ」


 見た目が変わってないので、アルフィーナには何をしたのか分からなかった様で次に行こうとする俺に慌てて声をかけてきた。


 「ああ、落とし穴を作ったんですよ」

 「落とし穴とな!」

 「はい、土の表面は薄い膜のように固め動物が乗ると落ちるようにしています。 穴の深さは、私でも脱出できないほど深く掘ってあります。 それと壁の面を平にしているので簡単に登って来れないでしょう。 結構大きく作ったので危ないですから近「きゃん!」づかないで……」


 説明をしながら次のポイントへ歩き出すと、後ろから変な声が聞こえ言葉を切られたのですぐに声のしたほうに視線を向ける。

 見ると、どうやら危ないと言う前に不用意に近づいたアルフィーナが穴に落ちたようだ。


 「だっ大丈夫ですか」


 慌てて落とし穴に駆け寄って中を見ると、穴の中ではアルフィーナが尻餅を付き埃だらけになっていた。


 「い、今助けますから」


 穴に身を乗り出して手を取ってアルフィーナを救出する。


 「怪我とかしてませんか?」


 俺はアルフィーナの体に付いた埃と、顔に付いた汚れをハンカチで落としながら大丈夫か確認する。


 よかった。 底の部分を柔らかくしてたので怪我1つない。


 「あはーっはっはっはっはー、うむ、怪我は無いのじゃ! しかし、動物になった様で一興《いっきょう》じゃったぞ!」


 声高らかに笑いながら、穴に落ちた事など気にした様子もなくケロリとしているアルフィーナに苦笑いを浮かべる。


 「いえ、怪我が無くて良かったです。すいません注意するのが遅れて」

 「よいよい、気にしておらん、お主も気にするな」


 全く気にしてないといった素振りのアルフィーナは、優しい笑みを浮かべ俺の謝罪を流すように言う。


 「はい、ありがとうございます。 しかし、このままだと人が落ちるかもしれませんね……」


 俺は穴を元の状態に戻しながら人が落ちた場合を考えていると、


 「心配いらん、この辺りには、私とお主以外居らん。 村もここより距離があるので滅多《めった》に人が来ぬから安心せい!」

 「はあ、分かりました。 あと数箇所同じ様な落とし穴を作って、念のため夕方と明日の朝早くに確認しに来ます」


 まあ、万が一もあるので念のためと、もしかしたら獲物が掛かっているかもしれないので1日2回確認しよう。


 「お主も心配性よの……まあ良い。 あと何箇所か作るのじゃろう」

 「はい、でもアルフィーナさんは危ないですから少し離れていて下さいね」

 「分かっておる、まったくお主は……」


 俺の注意にアルフィーナは、困ったような顔をしながら少し嬉しそうに何か呟いているけどよく聞こえなかった。


 その後、数箇所に罠を設置したので後は帰るだけだ。


 「アルフィーナさん、別の方から帰りませんか? もしかしたら他にも食材があるかも知れないので」


 どうせ戻るなら少しでも食料を確保したいので少し遠回りする事を提案する。


 「ふむ、まあ良いじゃろう。 私がおれば迷う事もないからのう」

 「ありがとうございます」


 アルフィーナが承諾してくれたので礼を言い別のルートに足を向ける。


 しかし、何でアルフィーナさんが居ると道に迷わないんだ?


 疑問に思ったがそれ以上深く考えず、すぐに食材を見つけるために注意深く周り見ながら先へと進む。


 「おっ、実がなっているな!」


 すこし先の方に赤や緑の粒が実っている木を見つけた。


 もし食べられそうなら少し頂いて行こう。


 「おおっ! これってもしかして!?」


 木に近づき実を手に取って観察する。


 うん、昔見たにあの実と一緒だ。


 「なんじゃ? その実食べられるのかえ? 美味いのかえ?」


 何故だろう。 食べ物の事になるとアルフィーナの目が輝いている。


 「食べ物ではありますが、これは香辛料なんです。 俺の居た世界では胡椒《こしょう》と言われている物なんですが……普通はもっと暖かい気候で育つし実の収穫はもっと後はずなので、もしかしたら品種が違うか全く別の物かもしれませんね」

 「ほう、胡椒とな。 ふむ、臭い付けか……」


 香辛料と聞きアルフィーナは落胆して肩を落している。


 「ええ、でも良い匂いですし辛味もあるので色々な料理に使われますよ。 物によってはラーメンにも使ったりします」

 「なんじゃと! らーめんじゃと! それを早く言うのじゃ! 根こそぎ持って帰るのじゃ」

 「え……ええ、でも今回は胡椒かどうか確かめるため赤い実と緑の実を少しだけ持っていきましょう」


 ラーメンと聞いた途端、実を根こそぎ持って帰ろうとするアルフィーナに若干引いてしまう。 とりあえず今回は確認のため少量だけ持って帰ろう。


 そんなこんなで木の家に辿り着くと早速採取した胡椒処理に取りかかる。

 まずは、魔法を使って緑の実をそのまま乾燥、赤い実の方は中の種を乾燥させた。

 まだまだ乾燥がまだ不十分なので白と黒の粒なのだが、まあとりあえず直ぐ使う訳じゃないで後は自然乾燥で良いか。 でもこのまま外に置いておくと鳥に食べられそうだから木の家の中にしまって置こう。


 「次は何をするのじゃ?」

 「そうですね。 まずは家を建てる場所の確保ですね。 どこに立てるのが良いか……」

 「なんじゃ、建てるのならその辺でよかろう」


 俺が家を建てる場所に悩んでいると、アルフィーナは木の家の脇を指差す。


 「えっ! こんなに近くで良いんですか?」

 「うむ、構わん構わん」


 木の家の側では迷惑だと考えていたのだけど、アルフィーナが指示する場所は思いのほか近いぞ。

 まあ、アルフィーナが迷惑と思っていないなら良いか。


 「分かりました。 あとは大きさですね。 う〜ん……ここから……この辺で良いか」


 アルフィーナの了承を得られたので木の枝を使って家のだいたいの寸法を決める。


 まず自分の部屋として6畳の部屋、それと台所に風呂、あと忘れてはいけないトイレ。 これらを合わせ計12畳と……とすると幅3.6m、奥行き5.4mてところか。


 「なんじゃ、こんなに小さいのか! ええい、小さすぎるのじゃ!」


 そう言ってアルフィーナは俺が作る家の大きさに不服らしく持っていた枝を取り上げ大きさを変更して行く。


 「ここと、ここと、ここ! このぐらいの大きさにするのじゃ!」


 最終的にアルフィーナが指定してきた家の大きさは、当初計画していた12畳の家の何倍も大きくなっていた。


 「えっ、これは大き過ぎるのでは?」

 「これぐらいで丁度いいのじゃ! それにあれでは私の部屋が無いでわないか!」

 「え? アルフィーナさんの部屋も作るんですか?」

 「当たり前ではないか!」


 俺の住む場所だけかと思いきや、アルフィーナは自分の部屋を要求してくるじゃないか!


 「当たり前ですか?」

 「そうじゃ!」

 「……そうですか」


 もう何を言ってもしょうがない。


 「はあ、分かりました。 部屋とか適当に作るんで完成したら自分の部屋を選んでください」

 「うむ、よろしく頼むのじゃ!」


 腑《ふ》には落ちないが、このままだと家を建てなければならないのでアルフィーナが指示するように木の家の大樹に重ならない位置に家を建てる事になった。


 まずは無詠唱魔法で建築予定地の草木を取り除く。

 取り除いた草木は後で使うので隅の方に置き、次に地面に手を置いて地盤を固めた。

 その後、家の広さと間取りに合うように土を盛り上げ家の基礎部分を作りあげる。


 基礎が出来たが、このままだと深部の地盤がどのようになっているのか分からない。 もしかしたら底の方が柔らかく地震など来たら家が傾いてしまう可能性だってある。

 そのため50cm角、長さ10mの四角い柱を基礎と一体となるように地面に数十本埋めた。 これによって地盤をより安定させられる。


 次は、基礎の上に取り除いた木を使って骨組みを形成していく。

 取り除いた木のほとんどが樹齢《じゅれい》数百年以上の巨木だったので魔法で乾燥させると、ある程度の柱や筋交い梁などを作り出せた。 しかし、それだけでは足らなかったので周囲の木も引き抜いて使う事にした。


 周囲にある木を何本か取っていくと、ある木に目が留《と》まる。


 「おや? この木は」

 「ん? この木が如何《どう》したのじゃ?」


 そんな俺の様子が気になったアルフィーナも一緒にその木を見上げる。


 「その、私がいた世界にあった気に似てるんですよ。 たぶんこの樹皮の様子からすると山桜だと思うんですが」

 「ふむ、私にはそのヤマザクラと言うのは分からん」

 「そうですね。 山桜とは春……厳しい寒さから少しずつ暖かくなった時期に花を咲かせる木なんです」

 「ふむ、そうじゃのう……。 たしか暖かくなった頃に、薄い赤色や白っぽい色の綺麗な花を咲かせっていたのう」

 「なるほど、もしかすると山桜かもしれませんね」


 俺は枝を引き寄せて赤く色づいた葉っぱを観察する。


 うん、葉っぱの形にこの匂い。 間違いなく山桜だ。


 「それなら私の家も同じ木じゃぞ。 大きさが違うだけで」

 「えっ!?」


 アルフィーナの言葉に驚き木の家に目を向ける。 今まで気付かなかったが木の家の素となる木は樹皮と枝葉の様子はたしかに巨大な山桜のそれだ。


 「はあー、今まで全く気が付きませんでした」

 「うむ、恐らく魔素を取り込んだせいで、ここまで大きく育ったのであろう。 他の木はここまで成長していないところを見ると、この木だけが特別なのじゃろう」


 アルフィーナの言葉に頷きながら周囲を見回すと、いままで気が付かなかったが、結構な量の山桜の木が生えていた。


 「そうですね。 せっかく山桜があるのでしたら材料にはせず建築に邪魔になりそうな物だけ別の場所に移しましょう」

 「まあ、私は構わんがのう。 お主が作る家のじゃ、好きにするが良かろう」


 建築する場所に掛かっていたの山桜だけ根っこごと魔法で持ち上げ移動させ家作りを再開させる。

 魔法で木を削り持ち上げて組んでいったので、お昼近くになると骨組みはほぼ完成していた。


 しかし、アルフィーナさんに言われるがままに建ててみたけど……まだ骨組みながらこれは、とんでもない大豪邸が出来るな……。


 「ふむ、しかし、変わった家の造りじゃのう。 私は見たこともない作りじゃ。 それと、この家の大きさ……これは大きいのう」

 「って、アルフィーナさんが、この大きさにしろと言ったんじゃないですか!」

 「うむ! まあ気にするな。 しかし、何日か掛かると思っておったが、ここまで半日で作ってしまうとはのう」


 驚きと関心が入り混じった様な表情のアルフィーナから呆れにも聞こえる言葉が漏れる。


 「どれ、そろそろお昼なんで昼食の準備をしますね」

 「ん? 食事なのか、分かったのじゃ」


 ちょうど昼になっていたので建築作業を一区切りさせて昼の準備をする。


 お昼は冷蔵庫で保存していたナマズ取り出して魔法で身と骨を一緒にミンチにする。

 それを油を引いたフライパンで適度に焦げ目を付けながら中まで火を通す。

 あとはここに醤油とマスタードでタレを作れば、ナマズのつくね風和風マスタードソースかけの出来上がりだ。


 次に小麦粉に塩一つまみ、砂糖小さじ1杯入れて混ぜ、そこへ水を加えて混ぜ合わせ生地を作る。

 フライパンに油を引いてその生地を焼き上げればナンの出来上がり。


 非常用の鞄からレトルトの甘口カレーを1つ取り出してお湯で温めてから2つの器に盛り付ける。


 スープは、固形コンソメを入れたお湯の中に椎茸と野草を入れてコンソメスープを作ってみた。


 「アルフィーナさん簡単なモノしか用意できませんでしたが出来ました。 食べましょう」

 「おお、出来たか! どれどれ」


 木の家の机の上に料理を並べアルフィーナに声をかけると、何かワクワクしているアルフィーナが席に着く。


 「それでは頂きましょう。「頂きます」」


 アルフィーナはもう手馴れたもので、俺と一緒に両手を合わせ頂きますをする。


 「むっ! なんじゃ、この黄色いのは? おっ、おそま……?」

 「ああ、それはカレーです。 この白いパンをちぎってカレーに付けえて食べて下さい。 美味しいですよ」


 そう言ってナンをちぎってカレーに付けて食べて見せた。

 まあ、見た目がアレなだけにアルフィーナと言えども若干躊躇していたが意を決めて口に運んだ。


 「んん! 複雑な味と匂い凄いのう。 辛味と甘味が合わさり……うむ、美味しいのじゃ!」

 「それは良かった。 カレーは向こうの世界でも人気があって俺も好きな食べ物なんですよ」


 途惑ったのは最初だけで、美味しいと分かるとアルフィーナは夢中になってカレーを口に運ぶ。


 「んっ、これも美味いのじゃ! 柔らかくて噛むと甘味が出てくるのじゃ! それにソースの辛味も合う」

 「ナマズの身をすり潰したモノを油で炒めた物ですね。 ここのナマズは活きが良くて臭みも無いので天ぷらにしても美味しそうです」

 「テンプラが分からんが、楽しみにしているのじゃ」


 アルフィーナは笑みを浮かべながらナマズのつくねを頬張りコンソメスープで流し込む。


 そうこうして食事も終わり、お茶で一息ついたところで俺は午後の予定をアルフィーナに話す。


 「ふむ、材料とは、どんな物じゃ」

 「えーと、アルフィーナさんこの辺の近くで白っぽい砂を見たことは無いですか?」


 必要となる材料に心当たりが無いかアルフィーナに問いかける。

 俺が欲しい材料はケイ砂、ガラスの原料となる物だ。


 「うーむ……白い砂はそこらじゅうにある様な無い様な……しかし何に使うのじゃ?」


 アルフィーナは眉根を寄せる。

 普通に生活している中で意識して砂を見てる訳ではないので、急にこんな事を言われれば思い出せないのも仕方がない。


 「えっと、ガラスを作ろうと思って」

 「ガラス?」

 「はい、透明な水晶の様な物です。 水晶より割れやすいですが」

 「おお、アレか!」


 俺が大まかなガラスの説明をすると、アルフィーナにも心当たりがあるらしい。

 どうやらこの世界にもガラスは存在するようだ。


 「私が逃げた王国にソレらしい物があったのじゃ」

 「あっ、こちらでもガラスは作られてるんですね」

 「うむ、しかし、かなり高価な物じゃったと記憶しておるぞ? 庶民では手が出なほどの代物で城の明かりに使われておったのう」

 「ほう、そう何ですか」


 百年以上もの昔の話だがアルフィーナの話では、どうやらガラスの製造方法は国家によって独占されていたようだ。


 そういえば地球でも同じ様に時の権力者にガラスの製造、販売を独占されていた歴史もあるのでこちらの世界でも似たような状況なのだろう。


 「そんなモノをお主は作れるのか?」

 「ええ、ケイ砂が有って魔法を使えば難しく無いと思います」


 実際に原料からガラスを作った事は無いが、おおよその工程は知っている。

 本来の工程だと原料の選定から大きな炉など色々と作らなければならないのだが、魔法を使えばその辺はどうにか出来るだろう。


 「なのでアルフィーナさん、白色が多く見られる白と黒の斑色《まだらいろ》の岩を見たことは無いですか?」

 「ふむ、そうじゃのう……それなら川にあった様な気がするのじゃ。 それがガラスの材料になるのかえ?」

 「はい、花崗岩《かこうがん》って言う岩で、その中にもガラスの材料があるんです」

 「ほう、岩がのう」

 「ええ、その岩が砕けたりして砂になったのがケイ砂なんです」

 「ほうほう、なるほどのう……ふむ、では早速川言ってみるか、お主が言っている物だと良いのじゃが、私には分からんでのう」


 アルフィーナが言う川の方に向かって歩き出す。

 どうやら近くの小川ではなく別の方へ向かっているようだ。


 30分ほど森を掻き分けて歩くと、水を取っている小川とは比べようも無いくらいの川が出現した。

 その川幅20mはあろうかという川で確かにアルフィーナの言った岩が両岸に散乱している。


 「ここじゃ、ほれ白色の斑の石じゃろう?」

 「おお!そうですね! 良い御影石《みかげいし》だ」

 「ん? カコウガンでは無いのか?」

 「あぁ、いえ、花崗岩であり石材では御影石と言われる岩です」


 川辺には、見渡す限りに花崗岩が敷き詰められている。 その大きさは数cmの小さい物から数mはあろうかと思われる大きな岩と様々《さまざま》だ。

 これだけ大量にあれば、家の窓ガラスだけではなく色々と使えるだろう。


 「よし! じゃあ始めます」

 「うむ、私は離れて見ておるのじゃ」


 腕を捲《まく》ると早速作業を始める。

 アルフィーナは、そんな俺の様子を見守るように少し離れた位置の岩に腰を下ろし眺めていた。


 「まずは、花崗岩から石英を取り出すか」


 そう言うと大小さまざまな花崗岩を魔法で粉々にして粉末状にする。 更に魔法で粉末をふるいにかけ石英のみを取り出して繋ぎ合わせて一つの塊にしていく。

 魔法で石英のみにしたその塊は、このままガラスとしても使えそうなほど綺麗な水晶体になっていた。


 「次は、えっと」


 ガラス作りにケイ砂が必要だったのは覚えていたが他の材料がうろ覚えだ。

 他に必要な材料を思い出すため、高校の時に受けた授業を記憶の中から引っぱり出す。


 ここで石英は2000℃以上の温度で溶融できるという事を後に知るのだがこの時は思い出せていない。

 もっとも、この方法だと不純物が多いため使い物にはならないと向こうの世界での常識だったが、こちらの世界には魔法があるので簡単に除去できたりもする。


 「たしか、炭酸ナトリウム……ソーダ灰だったな」


 ソーダ灰は、工高の化学でよく使った物なので作り方も分かっていた。


 「ソーダ灰には、石灰石が必要なんだよなー。 ん~、たしかコレも石に入ってたはずだ」


 俺は石英を抜いた粉末を同じ様にふるいにかけて石灰石を取り出す。

 取り出した石灰石が、十分な量が確保できなかったので他の岩を潰しそこから石灰石を取り出した。

 今度は石灰石も石英と同じ様に一つの塊にしてみると、彫刻にも使える真っ白の石柱が出来上がる。


 「うーん、あとはアンモニアと食塩を使って石灰石を炭酸ナトリウムにするんだけど、どうしよう……」


 どちらもこの世界で取れる物だとは思うが、再利用するなら2つを使ってソルベー法で作るんだけど、今は炭酸ナトリウムだけが必要だ。


 「石灰石のカルシウムをナトリウムに置き換えてみるか」


 炭酸カルシウムも必要なので石灰石の一部を使う事にする。

 再び魔法を使って周囲からナトリウムを集めて石灰石に取り込む。 それと同時に石化石のカルシウムを取り出した。


 どうもこの化学結合を変える魔法の魔力消費は、砕いたり切ったりする魔法よりも多く使われた様な気がする。

 まあ、気にするレベルじゃないので放置だ。


 「さてさて、ソーダガラスを作りますか」


 高校でガラスを作ったのは何時だったろう。 確か炭酸ナトリウムで石鹸や洗剤を作った時かな? そういえば炭酸ナトリウムってラーメンに使うカン水にも必要だったと思うんだけど……。


 ふと、アルフィーナに目をやると、ずいぶんと熱心に俺のガラス作りを見ていた。


 おっと! いかんいかん。

 ラーメンを嬉々として食べるアルフィーナさんを想像してしまった。


 雑念を振り払い作業を再開する。

 ただ、かん水用に炭酸ナトリウムは少し取っておく事にしよう。


 魔法で3つの材料を混ぜ合わせそのまま1000℃まで加熱する。

 熱せられて材料が飴色なったのを確認出来たら今度は、熱を逃がし常温にすればガラスの完成だ。

 やっぱり思たっとおり魔法を使ったおかげで、ここまでまったく問題ない。


 本当に魔法って便利だな。


 「アルフィーナさん出来ました」


 アルフィーナに完成を告げると俺の近くまで寄ってきて完成したガラスを覗き込む。


 「ふむ、透明で綺麗なのじゃ。 しかし……大きくないかえ? このガラスじゃったか、私が王国で見たモノは、もっと小さかったのじゃ」


 アルフィーナが覗き込んでいるガラスは、大岩に見えるぐらいの大きなガラスだからそう言うのも仕方がない。

 それとどうやらアルフィーナがいた王国のガラス製造技術はまだまだ未完成の様で小さい物しか作れないようだ。 もっとも百年以上も前の話なので今はどうなってるか分からない。


 「はい、使う時は薄くしたりしますが、今すぐ使うわけではないので一塊にしました」

 「なるほどのう……しかし、あっと言う間に出来たのう」

 「魔法を使ったからですね本来は、色々な工程が入って時間も掛かるんですよ」

 「それでもじゃ! お主がその工程を飛ばせるだけの知識があったから魔法で作れたのじゃ。 知識とは大切なものじゃ」

 「ええ、そうですね」


 アルフィーナの言う“知識は大切”に俺は素直に同意する。

 魔法が使えても知識が無ければ何も作り出す事は出来ない。

 知識と経験、それと魔法があったからこそガラスが作れたんだ。


 「さて、ガラスを運びますか」


 そう言って魔法をガラスと炭酸ナトリウムの塊に魔素を流し込み魔法を発動させる。

 そうすると数百トンもある巨大な塊は、重力を無視するよう浮かび上がった。


 何回も使っているが、この浮遊の魔法は大地に引き付けている重力をゼロにし浮かばせているイメージしている。

 これなら持ち運びが楽なので使っているがデメリットとして、術者が絶えず魔力を使って浮かべるイメージを続けなければならないので大変だ。


 そうして2つの塊を家に持って帰るのだが、途中である木の表皮から流れ出た白色の樹液が垂れて固まっているのを見つけた。

 何だろうと? と思い手で引き剥がしてソレを調べてみる。


 「まさか……ゴム……なのか? こんなところに? でも胡椒みたいな物もあったし、もしかしたら……」

 「なんじゃ? その白い物は? 食べるのかえ?」


 アルフィーナからは、俺が見つけるモノ全て食べ物に関するものに見えているようだ。


 まあ、半分は当たっているが……。


 「いえ、ゴムと言ってこんな感じに伸縮するんですよ」


 俺はアルフィーナの前で手に持っている白い樹脂を伸ばしたり縮めたりして見せる。


 「なるほどのう、しかし何に使うのじゃ?」

 「うーん、一言では言い表せないのですね。 色々な物に使われますから。 一例としては、この靴底の部分がゴムで出来ています。 歩いている時の地面の衝撃を吸収してくれるんですよ」


 自分が履いている靴の裏面をアルフィーナに見せる。


 「あとは、粘着剤の材料にもなりますね」

 「ほーなるほどのう、色々と便利な物なのじゃな」


 アルフィーナは感心しながら俺の持っている樹脂を取り同じく伸縮させて頷いていた。


 「ゴムだとは思うんですが、とりあえず集めておきましょう」


 すぐに魔法で数本の木の表皮に斜《なな》めの切り込みを入れる。

 いわゆるタッピングという作業であまり切込みが深くならないように注意して切らねばならない。

 次に切込みの一番下の部分にロートを作り、流れる液が樹皮の表面から離れた位置に滴下する様にした。

 最後に滴下する先に魔法で樹脂を貯めるための桶《おけ》を設置すれば終わりだ。


 「ん~、思ったより樹液の出が良いな」


 本来のゴムの木ならば夜が明けない内からタッピングを行なって午前中で樹液を回収する。

 日が出ていると葉っぱから水分が蒸発して樹液が出にくいのだ。

 しかし、この世界の木は日中でも樹液の出が良いように見える。


 どの位の量が取れるか分からないので明日の朝にでも確認しに来てみるか。


 「まあ、どのぐらいの樹脂が取れるかは、コレは明日にしましょう」

 「ふむ、しかしこの樹液を集めて次はどうするのじゃ?」

 「ゴミ等を取り除き、酸と言う薬品を入れれば固まるんですが……酸はどうしよう?」


 たしか、鞄の中に疲れ予防とか色々と便利だからってクエン酸が入っていたはず。

 アレを使えばいけるかもしれない。

 アルカリ性の樹液に酸性の物を入れればゴムが作れるはずなので問題ないと思う。


 「ふむ、まだまだ手間が掛かるようじゃな」

 「ええ、他にも性質によって薬品も使い分けなければいけませんし……まあ今日中には、どうにも出来ませんから帰りましょう」


 ゴムは明日以降の課題だな。



 家に到着するとガラスの塊を建築現場の近くに置く。

 炭酸ナトリウムは塊なので湿気を気にする必要もないのだが、一応石の容器を作りその中に密閉した。


 一通りの作業が終えると、太陽がずいぶん傾いている事に気付いた。


 「だいぶ日が傾いたので今日の家作りは、この辺で終わらせて罠の確認に行ってきます」

 「うむ、もちろん私も付いていくぞ!」

 「えっ、来るんですか? 罠を確認するだけですよ?」

 「もちろんじゃ!」

 「まあ、アルフィーナさんが、それで良ければ構いませんが……」


 ただの罠を確認しに行くだけなので一人で十分なのだが、なぜかアルフィーナも一緒に行くことになった。


 何か面白い事でも起こる訳でもないのに……。


 森の中に入り落とし穴を設置した場所を一箇所一箇所確認していく。

 次々と確認するが、今のところ何も掛かっておらず地面は平のままだ。


 すべて空振りに終わると思ったが、最後の罠に近づいてみると見事に穴が開いているじゃないか!


 「お!」


 期待を込めて穴に近寄り覗き込むと、中には体長が120cmほどの猪っぽい生物が掛かっていて口から泡を吹き激しく鳴き声を上げていた。

 その動物の見た目は猪《いのしし》のそれであるが、耳が若干垂れ下がり豚のようでもある。


 「猪……いや、イノブタのようだな」

 「ほう、かかっておったな!」


 俺が穴に落ちた動物を観察していると、アルフィーナも近寄って穴を覗き込む。


 「アルフィーナさんは、この生き物を知ってますか?」

 「いや、すまんのう。 あまり出歩くことが無かったので魔界の生き物については詳しくは知らんのじゃ」


 アルフィーナが魔界に辿り着いた頃には、もう食を必要としていなかったので自身で狩猟をする必要が無くこの辺の生態系には疎《うと》いようだ。


 「いえ、気にしないで下さい。 俺の知っている動物に近い様なので問題ないと思います。 あとはコイツを生け捕りにしますね」

 「うむ、で、どうするのじゃ? 生け捕ると言うのじゃから殺すのではないのじゃな」

 「大丈夫です! こうします」


 生け捕る方法について聞いてくるアルフィーナに笑顔で答えると、手をかざして魔法を発動させる。

 すると周囲に群生する蔦から繊維だけを取り出し結って太めの荒縄に形態を変化させた。


 それと落とし穴の近くに手頃な大きさの木が生えていたので、出来た荒縄を太い枝に半周させ片側を持つ。

 荒縄のもう片方に輪を作りイノブタの後ろ足に引っ掛けて強く引くと、荒縄はイノブタの後ろ足を締しめ上げて行動を制限した。

 後は木と自分の体重を利用してイノブタを吊り上げてしまう。

 吊り上げた状態で残りの足を纏めて縛り上げると、イノブタは一切抵抗できない状態で鳴き声を上げるだけだ。


 落とし穴を魔法で接地しなおした後、イノブタの縛り上げた足の間に肩を通し持ち上げる。

 90kgは有るだろうか、なかなかのサイズの獲物なので腰に気合入れて持ち上げる。


 「よいしょっと、じゃあ帰りましょうか」

 「うむ、そうなのじゃが……」

 「? どうしたんですか?」


 アルフィーナは、俺の事を不思議そうに見ている。


 思い当たるところが無いが、いったい如何したのだろう? 何か聞きたい事でもあるのかな?


 「うむ、のうマサキよ……」

 「はっ、はい!」


 初めてアルフィーナに名前を呼ばれたので声が裏返ってしまった。


 「うむ、お主魔法を使えるじゃろ?」

 「ええ、使えますけど」

 「何故その生き物は、魔法で運ばずに自力で持ち上げて運ぶのじゃ?」

 「ああ、これですか!」


 名前を初めて呼ばれたので、いったいどんな質問が飛んでくるのか身構えていたがすぐにその疑問を理解する。


 「これはですね、昔、祖父母から怠《なま》けるな! 出来る事は自分でする! と言われていたので自力で出来る事は自分でやろうと思いまして……何か魔法ばかりに頼るのは怠けている様に思えて、この程度の重さなら自分で運べますので魔法を使わないんですよ」

 「ほう、確かに怠けるのは良くないのう。 しかし、私は魔法も自力だと思うがのう」

 「そうですね。 でも、この獲物の運搬ぐらいは自分で運ぼうと思いました」

 「なるほどのう。 うむ、良く分かったのじゃ」


 どうやらアルフィーナは、俺の答えに満足してくれたようで数回深く頷いて笑顔を見せる。


 「では、私も手伝うのじゃ!」

 「えっ!」


 驚いてアルフィーナを見る。

 ありがたい申し出だが、アルフィーナの細い腕と体ではそんなに力があるとは思えない。


 「い、いえ大丈夫です。 これくらい自分で運べますから」

 「む、そうか……」


 アルフィーナの手伝いを断りイノブタを持ち上げて今度こそ帰ろうと


 「ん?」


 イノブタを担ぎ帰ろうとする進行方向の木の下、藪《やぶ》の暗がりの中に真っ白く大きなものが目に入る。

 何だろうと思い目を凝らすと、なんとその白い物は俺の身長ぐらいありそうな巨大で真っ白の狼? 見たいな生き物だった。


 「うわぁ、大きいな……」

 「ん? どうしたのじゃ?」


 こちらを窺《うかが》うように佇《たたず》むソレの大きさに感想を漏らすと、アルフィーナも何事かと近づいてきた。


 「ええ、アレなんですが……何ですかね?」


 あんなに大きな狼を見た事がない。

 先ほど生態系には疎いと言っていたアルフィーナだが、もしかしたら知っているかも? と聞いてみた。


 「ほお、聖獣ではないか! こんな所に現れるとは、めずらしいのう……」

 「聖獣ですか?」


 初めて聞く単語にアルフィーナへ聞き返す。


 「うむ、普通の獣と違い魔力を宿す獣と言われている。 詳しくは分からんのだが、その体躯《たいく》は大きく色々な特徴能力を持っており魔法も使えるそうじゃ。 私が知っているのはドラゴンなのじゃが、この辺にもいると聞いておる」

 「へー、ドラゴンがいるんですか」


 俺の中で、魔法もある異世界なんだから龍ぐらい居るでしょう! と理由もない確信していた。


 「うーん、でも何でここに居るんでしょうか? こいつの臭いで寄って来たんですかね?」

 「いや、どうもあやつは、お主に興味がある様じゃぞ。 聖獣は魔力を宿しておるから大方《おおかた》お主の魔力に引かれたのじゃろう」

 「私の魔力ですか?」


 もう一度、聖獣の方に目を向けると確かに俺の事をジッと見ていた。


 「ふむ、じゃあちょっと行って来ます」


 アルフィーナにそう言いイノブタを地面に下ろすと、聖獣の方に向かって歩き出す。


 「おっ、おい! 無闇に近づくなっ!」

 「ん~、たぶん大丈夫だと思いますよ」


 アルフィーナの注意に笑みを作りながら返事をする。


 なぜか確信しているのだが、この狼から殺気と言うか拒むような気配が感じられない。

 それと俺自身も不思議と狼の事が怖いと思っていないのだ。


 「どうした? 俺に何か用があるのか?」


 ゆっくりとした動作で聖獣の前に立ち右手出してゆっくりと聖獣の顔に近づける。

 聖獣は出した俺の手をスンスンと匂いを嗅いで何かを確認しているようだ。

 その行為は警戒している訳でもなく嫌がってる訳でもないので、俺はそのまま右手を聖獣の頬に当てて優しく数回撫でるとそのまま頭へ移動させて同じように優しく撫《な》で上げる。


 「クーン、ワフッ!」


 聖獣は撫でられるのが気持ち良いのか嬉しそうに目を細めて尻尾をブンブンと振りまわしている。

 そして、急に立ち上ったかと思うと、今度は撫でてくれたお礼とばかりに大きな舌で俺の顔を舐め回しした。


 「おっぶぷぅ、よ~しよし、分かった分かったから! アルフィーナさん大丈夫みたいですよ」


 聖獣に特に問題が無さそうなのでアルフィーナを呼ぶと、アルフィーナはどこかホッとした表情で近づいてくる。


 「まったく心配させおって」

 「すいません。 別に警戒している感じじゃなかったので」

 「そ・れ・で・も、じゃ!」

 「はい、今度から気を付けます」


 俺は危険はないと判断したのだが、アルフィーナ違っていたようで柳眉を逆立てて怒っていた。

 たしかにアルフィーナの言う通りだと、すぐに頭を下げる。


 「さて、どうしましょう? この子」


 聖獣は俺が撫でると嬉しそうに尻尾を振る。


 「どうすると言われてもな、本人に聞いてみればよかろう」

 「聞く?」


 アルフィーナの言葉が理解できずに聞き返す。


 「うむ、聖獣は高い知能を有しておるから言葉を理解しているのじゃ。 もっとも喋れるかは分からんがのう」

 「頭良いって事何ですね」


 なるほど聖獣とは魔法も使えるし知能も高いらしい。


 「えっと、じゃあ、俺に何か用かな?」

 「キューン」


 とりあえず頭を撫でながら聖獣に用を聞いてみる。


 けれど言葉は理解しているようだが喋る事は出来ないようだ。

 自身の意思を伝える事が出来なく尻尾が地面に落ち耳が垂れて悲しい表情をした。


 「うーん、分からないな……」


 聖獣と何とか意思の疎通《そつう》が出来ないかと試《こころ》みたが難しい。

 さて、どうしたものか。


 「おい、もうだいぶ日が傾いておるぞ!」


 アルフィーナの言葉で意識を戻すと、たしかに太陽が夕日に近い位置まで移動している。


 「あー、もう、こんな時間ですか、ゴメンな、もう帰らないといけないから明日にでも俺のところに来てくれるか?」


 聖獣の頭を撫でながら明日来るように言うが、聖獣は撫でられ嬉しいようで一向に帰る気配がない。


 「じゃあ、アルフィーナさん帰りましょうか」

 「う、うむ、良いのか?」

 「う~ん、また、明日にでも聞いてみますよ」


 仕方が無いので聖獣とは、今日はここで別れ家路を急ごう。

 イノブタを持ち上げようと振り向くと、聖獣がノシノシと歩き出して俺の脇を過ぎイノブタの所まで進んで行く。

 その様子を見ていると次にイノブタの足に巻かれた縄を器用に咥え持ち上げていた!


 「あーちょっと待って! 持っていっちゃダメだよ」


 俺は慌てて聖獣を止めようとするが、聖獣はイノブタを持ち上げた状態で俺を見つめたまま微動だにしない。


 「うん? もしかして持ってくれるのか?」


 聖獣はイノブタを咥えているので吠《ほ》えずに頷いた。

 どうやら肯定らしい。


 「そうか、ありがとな」


 お礼を言い優しく頭を撫でるやと、嬉しそうに尻尾が勢い良く振られる。


 危険な存在じゃないようだし家に連れて行っても問題ないだろう。


 「それじゃ、行きましょうかアルフィーナさん」

 「ん? 何じゃ連れて帰るのか?」

 「ええ、ここに一人じゃ可愛そうですから」

 「ふむ、まあ、その辺はお主に任せるのじゃ」


 アルフィーナは俺に判断を一任してくれた。



 「では、帰りましょう」


 出発の言葉とともに2人と1匹を連れて木の家の方に向かって歩き出す。



 家に到着すると早速イノブタの処理をする。


 「それじゃ、その獲物はこの上に置いてね」


 聖獣に調理台の上にイノブタを載せてもらう。

 どうもイノブタが大人しいと思ったら聖獣を見て泡を吹いて失神していたようだ。


 「どれ、さっさと解体しますか」


 木の家の荷物から包丁を持ってきて腕を捲りイノブタの解体を始める。

 祖父母の家に居た頃、近所にマタギの爺さんが暮らしていて祖父母とも交流があり俺をよく一緒に猟に連れて行ってくれた。

 その時に獲物の解体の仕方も教わったいるので解体できる。


 まずは、魔法でイノブタを逆さにして首の動脈を風魔法で切りつけると、血が勢い良く噴き出した。

 血も食材なので桶に全て受け止めて血が固まらないように掻き混ぜて泡立ててる。


 血抜きが終了したら次に包丁で表皮を掻き取り念のため毛が残らないように火の魔法で表面を軽く炙《あぶ》る。

 その後、逆さに吊るしてお腹に切り込みを入れ内臓を取り出す。

 あとは風の魔法で一気に縦方向に真っ二つにした。


 うん臓物はそのまま焼いても旨そうだ。

 けどソーセージの材料に使うので全部は使わずにある程度残しておかなきゃ。


 お肉は皮や油それと骨の部分を切り離し部位ごとに分ければイノブタの解体終了だ。

 普通は半日以上かかるほど大変な仕事なんだが、魔法を使った事により全然時間がかからなかった。


 解体も終わったので次はソーセージ作りだ。


 ソーセージに入れる調味料は、塩と砂糖、それと……胡椒

 そうだ! 胡椒使うならアレを試してみよう!


 午前中に閉まって置いた実を取り出して少し砕《くだ》いて舐《な》めてみる。

 ピリッとした刺激と鼻腔《びこう》をくすぐる香り。


 「うん、やっぱり胡椒だ! まさか、こんな気候で胡椒が育っているとは思わなかったな」


 思わぬ発見に喜ぶ。


 「よし! 残りの実も砕いてソーセージに使ってみよう!」


 適当なお肉をミンチにすると塩と砂糖と黒胡椒を入れて練《ね》り合わせる。

 練り合わせた物を今度は魔法を使って、イノブタから取り出した腸《ちょう》に詰め込んでいく。

 この時、腸が裂けない様に新調に詰め込んで行かなければならない。

 あとは等間隔で巻いていけば、日本でよくイメージされるオーソドックスなソーセージの完成だ。


 同じ様にイノブタの膀胱《ぼうこう》にも肉を詰め込む。

 これは日本ではあまり見ないハムの様な大きさのソーセージだ。


 心臓と腎臓を細かく刻んだ物に血を混ぜてイノブタの洗浄済みの胃袋に詰め込む。

 こちらも日本人には、あまり馴染みの無い血のソーセージになる。


 あとは鍋で煮込むのだが、手持ちに深鍋が無かったので魔法でお湯を作りその中でソーセージと胃袋を煮込んでいく。

 ただソーセージは、すべて煮込まずに後日のためある程度は残して燻製などにしよう。


 モツは一度煮込んだ後にラードを引いたフライパンで炒《いた》めて塩で味付け

 肝臓は同じくラードを引いたフライパンでよく炒め醤油とみりんと砂糖で作ったタレを絡め甘辛くした。

 少量だが各部位ごとに塩胡椒で炒めたものを用意してみた。

 これはイノブタのどこの肉が旨いか味見も兼ねている。


 余った肉は、熟成させるためソーセージと一緒に冷蔵庫の中に入れて置いた。

 熟成させるとうまみ成分のアミノ酸が数倍になるのでコチラも楽しみだ。


 パンの代わりに昼と同じ様にナンを焼き上げたので木の家に運ぼうしたが、外に置いておいたガラスの塊がちょうどテーブル代わりになりそうだ。


 「今日はまだ明るい、どうせなら外で食べよう!」


 木の皿に盛り付けた料理をガラスの上に並べる。

 俺とアルフィーナだけでは可愛そうなので、聖獣にも大きい皿を用意してその中に纏めて盛ってあげた。


 「なんじゃ、今日は外で食べるのか? しかも聖獣と一緒に?」

 「はい、まだ明るいですし、この子……えーと……」


 ああ、そう言えばこの子の名前を知らないや。


 「なあ、名前は何ていうんだ?」


 ガラスのテーブルの前で行儀よくチョコンと座っていた聖獣に前を聞く。

 案の定意思疎通が出来ないと思ったが、どういう訳か首を傾げたあとに左右に首を振って答えた。


 「う~ん……もしかして名前無いのか?」

 「ワン!」


 どうやら正解らしくこの聖獣には名前が無いようだ。

 これでは、呼ぶ手段がなくて固有名詞が無いのは可愛そうだ。


 「アルフィーナさん、どうしましょう?」

 「どうしましょうと言われてものう……お主が連れてきたのじゃ。 名前が無いのなら、お主が付けてやるのが良かろう」

 「えっ! 俺?」


 アルフィーナの提案に驚いたが、たしかに俺が連れてきた以上責任を取らないといけない。

 さて、どうしたものか……。


 「俺が名前を付けても良いかい?」

 「ワン!」


 聖獣は一鳴きすると嬉しそうに尻尾を振り俺を見つめてくる。

 どうやら承諾のようだ。


 「じゃあ、どうしようかな……」


 顎に手をやり聖獣の名前を考える。


 名前、名前……どうしよう、ポチは他に使われている様な気がするし、性別が分からないから安易なに付けられないぞ。


 考えながら聖獣の全体を眺める。

 一方の聖獣の方は、座って尻尾を振りながら俺が名前を付けるのを待っているようだ。


 しかし、白いなー真っ白だ……ん! まっしろ、ましろ、真白!


 「よし! お前の名前は真白だ!」

 「ワン!」


 真白は名前が気に入った様で尻尾をブンブン振りながら俺に身体に身を擦り付けてくる。

 それと同時に今度は顔面を舐めまわす。


 「よしよし、分かった分かった」

 「ふむ、真白と付けたのじゃな。 何と言うか安直じゃな」

 「えっと……ダメですかね?」

 「ふふふ、まあ良いではないか。 そやつも気に入ったようだしのう」


 そう言ってアルフィーナは微笑《ほほえ》んでいたので俺は照れくさくなり

 「さあ、食事にしましょう」

 アルフィーナを席に促した。


 ちなみに俺とアルフィーナの椅子は魔法で作った物で、四角い形に木組みの椅子だ。

 中学時代に工作室に置いてあった椅子のイメージで作りだした武骨な四角い椅子だ。


 アルフィーナと俺が椅子に座ると、真白は地べたにそのまま座る。

 真白は大きいので地べたに座ってもテーブルの上にのる食事でも問題なく食べれるだろう。


 「さあ、食べましょう」

 「「いただきます」」「……ワフッ!」


 アルフィーナと俺が食事前のいただきますを言うと、真白は一瞬驚いた表情を見せるが食事の前の挨拶とすぐに理解したようで短く吠える。


 食事が始まると各々思い思いに肉を取って口に運んで行く。


 俺もまず始めにソーセージと、箸で取り口に入れた。

 パリッと小気味良い音と共にソーセージから熱々の肉汁が飛び出す。

 そのままソーセージを咀嚼すると、胡椒の良い匂いと辛味、それに塩のしょっぱさが良い塩梅で口の中に広がっていった。


 「うん、美味しい」


 大学で作った以来の久しぶりのソーセージ作りだったが、臭みも無く美味しいソーセージが出来た。


 次に他の肉や内臓に箸を移す。

 どれもこれも噛む度に肉汁が溢れ味付けも丁度良くて旨い。


 アルフィーナと真白も無言で肉を口に運んでいる。

 2人とも美味しくて喋っている暇が無いようだ。


 一通りの料理をお腹に納めた俺は、大事な事に気がつく。


 「……野菜が足りない」


 そう、野菜が圧倒的に足りないのだ。

 申し訳ない程度に野草の炒め物が添えはいるが、肉が料理の大半を占めていて全体的に茶色。

 どうせなら料理と言うのは彩色豊で、野菜にお肉それにお米とバランスの良い食事が食べたい。

 こんな茶色で埋め尽くされた料理を見ると、美味しいは美味しいのだが残念で仕方がない。


 「アルフィーナさん」

 「ん? なんじゃ?」


 出された料理をすでに完食して大満足といった表情でお茶を飲むアルフィーナに話しかける。


 「料理を見て気付いたんですが、野菜全然足りないんですよ」

 「ほう、野菜とな?」

 「ええ、ですから家を作ったあとで畑を作りたいと思います」

 「ふむ、畑のう……」


 俺が畑作りを提案すると、アルフィーナは顎に手を当て何か思案しだした。


 何か思うところが有るのだろうか?


 「ダメですか?」

 「うん! ああ、いや畑作りは構わんのじゃ。 構わんのじゃが、ちょっとな……いや、何でも無いのじゃ。 存分に作るが良い!」

 「ありがとうございます。 じゃあ、明日から作ってみようと思います」


 アルフィーナの答えに少し歯切れの悪さを感じたが、すぐ承諾してくれたので気にしてもしょうがない。

 みんな食事が終わったので食器を洗うため席を立つ。


 「ふむ、どれ私も手伝うのじゃ」

 「え!? アルフィーナさん、洗い物を手伝ってくれるんですか⁉︎」

 「うむ、食べさせて貰うばかりでは心苦しいからのう」


 食器を洗うのは特に手間ではなかったが、せっかくアルフィーナが申し出なのでありがたく受けておこう。


 「分かりました一緒にやりましょう」


 食器を洗い終え乾燥させると、日はとっくに暮れて夜になっていた。


 「もう夜か……昨日の湯浴みの場所はどうしたのじゃ?」

 「ああ、あそこは朝早くに元に戻しておきました」


 昨日作った風呂は、朝の内に壊して元の地面に戻しておいた。


 「ぬ、そうなのか、今日の湯浴みは無しか……致しかたないのう」


 アルフィーナは風呂が気に入ってくれたようですごく残念そうにしている。


 「すいません。 そうですね……私もお風呂に入りたいですから明日新しい物を作ってみます」

 「うむ、よろしく頼むのじゃ!」


 明日、風呂を作ると言うとアルフィーナは満面の笑みで喜んだ。


 「どれ私は、もう寝るのじゃ」

 「はい、俺も顔を洗ったら寝ます」

 「うむ」


 俺の返事に頷くと、アルフィーナはスタスタと木の家に向かって歩って行く。

 俺も水で顔洗い濡れタオルで体を軽く拭くと、就寝のため木の家に向う。

 すると何か気配が後ろにある事を感じとる。


 「ん?」


 見るとそこに尻尾を振りながらこちらを見ている真白がいた。


 ずっと付いていたのか……存在を忘れていたよ。


 「さて真白をどうしよう……」


 木の家の入り口は真白が入るには幾分狭い。

 もし入れたとしても真白の巨体では、大きすぎて部屋の大部分が埋まる。

 だからといって外で寝ろと言うのも忍びない。


 「んー……、お前の体の大きさが普通の狼位ならあの家に入れるんだが……」


 頭を巡らせて考えてみるが良い案が思いつかなく、つい愚痴ぽくなってしまう。


 「ワン!」


 俺の言葉に反応して一声鳴き声をあげると、真白の身体がうっすらと光り急激に縮んでいく。

 あっと言う間に縮んでいき、真白の大きさは動物園とかで見る狼の大きさとなっていた。


 「おぉっ、すごいな、真白大丈夫か? 窮屈じゃないか?」

 「ワン!」


 真白の大きさの急激な変化に若干心配になったが、どうも杞憂だったらしく真白は尻尾を振りながら元気良く吠えた。


 「そうか偉いな」

 「クーン」


 俺が真白の頭を撫で上げて褒めると、真白は嬉しそうに目を細める。


 「それじゃ中に入ろうか!」

 「ワン」


 木の家に向かって歩き出すと、真白も俺の後ろに付いて歩き出した。


 木の家の入口まで来ると、魔法で入口を開け真白と一緒に中に入る。


 「今日も色々有ったけど明日はもっと忙しいから今日はもう寝よう」


 真白を一撫ですると昨日と同じ様に床にタオルを敷いて荷物を枕代わりに、ジャケットは自分の体にかけ腕時計のアラームを昨日と同じ様にセットする。

 すると真白は俺が寝ようとしている事を理解したようですぐ隣に伏せて体を預けてきた。


 「ん?一緒に寝るのか?真白」


 真白の意図を確認すると、嬉しそうに尻尾を振り返事を返す。

 どうやら体をくっ付けて温めてくれるらしい。


 「ありがとな、真白……おやすみ……」


 真白に礼を言って目を閉じる。


 ……暖かい。


 真白の体温を感じながら俺は深い眠りに落ちていく。

 新キャラクターもふりの登場にケモナー大歓喜!

 しかし、次回は今回以上に長文になっていて投稿時点でいまだに終わらず……大丈夫かな?

 あと、次回も新キャラが登場?いや、作中には、すでに登場済みなんですが……。


 平成30年8月23日

 内容の修正及び加筆しました。

 読み易くなっていれば幸いです。

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