第2章 完結 第14話 ドレスと恋の、のんびり休日
◆ドレスと恋の、のんびり休日◆
バンダーム家出身の私は、いまや王都じゅうの憧れ――きらり王子ことルマンド王国第三王子、ウイリアム=ルマンド=グランフォード様と、晴れて夫婦になりました!
ピンク色の髪にちょっぴり天然な私、エリーゼ・バンダーム=グランフォードは、魔法学院も無事卒業し、いまは公爵家の屋敷で毎日ラブラブ新婚ライフ中。夢にまで見た結婚生活……とまではいかなくても、そこそこうまくやってる気がする今日この頃です。
「……ねぇ、ウイリアム。今日、ほんとに予定ないの?」
窓辺のクッションに腰掛けながら、私はウイリアムの膝枕状態で横になっていた。ふわふわの金髪がさらさらと落ちてきて、思わずくすぐったくなる。
「もちろん。今日はふたりの休日だ。外もいい天気だし、予定は“のんびりする”ことだけだよ」
そう言って、王子はまた例の“きらん☆”笑顔で私を見下ろした。ま、まぶしい……っ! その笑顔、王都中の乙女の視力を奪うって有名なのよ!?
「な、なによその顔……! もしかして、また何か企んでる?」
「ふふ、どうかな?」
「ぜったい企んでる顔でしょそれぇぇぇ!」
「そんなに言うならヒントをあげよう。今日は“エリーゼ感謝デー”だ」
「なにそれ!? どこの記念日!?!?」
「僕の心の中にだけある記念日だよ。君が、ファクトリーのドレスショーを頑張ってくれたご褒美の日」
あの華やかなショーを思い出して、私は少しだけ顔が熱くなる。ドレスを着て、みんなの前を歩いて……ウイリアムと手をつないで、まるで夢の舞台だった。
「ふふっ……あのときは、ほんとに緊張したんだから」
「うん。でも君、すっごく綺麗だったよ」
そうさらっと言って、ウイリアムは私の髪をすくって口元にキスを落とす。えっ、待っ──その照れさせ方は反則!
「ば、ばか……!」
「君の照れ顔を見るのが、僕の一番の癒やしなんだよ?」
どんなナルシスト王子だってば。それでも……私はこういう彼の甘さに、ずるずる負けてしまう。
◆
しばらくふたりでだらだらしていたら、執事のカーヴィルが紅茶を持ってきてくれた。背筋ピンの老紳士で、まさに“完璧なる執事”といった風貌。
「旦那様、お嬢様。レモンバーベナのハーブティーでございます。お菓子はナナルカが焼いたフィナンシェを」
「わーい! ナナルカの焼き菓子、大好き!」
「エリーゼ先輩、今日のはちょっと秘密のレシピなんですよ♪」
にこにこと笑うナナルカは、学院時代の後輩で、今はメイド見習い。ふんわりした栗色の髪に、ふわっとした空気。まるで子ウサギみたいな後輩ちゃん。
「秘密って?」
「えへへ、ウイリアム様から“エリーゼ様の笑顔が一番映える味を”って注文があったので……」
「ちょ、ちょっと!? 何そんなこと勝手に──」
「それに“食べたときに、可愛さで三回くらい転びたくなるくらいの甘さに”って」
「誰が転ぶのよっ!!?」
「僕の心が三回転んだだけさ」
「回数重ねるなーっ!!」
ウイリアムの甘さは、ドレスよりも破壊力がある。私は紅茶でごまかすように一口飲んで……ああ、ナナルカの焼き菓子、ほんとに美味しい。甘さの中にちょっとした塩気がきいていて、気づけばもう一個手に取っていた。
「……もしかしてこれ、魔法使ってる?」
「さすがエリーゼ先輩! ちょっとだけ、幸せ気分を高める魔法粉を混ぜました♪」
「合法なのそれ!?」
「公爵家御用達のですからご安心を。副作用は、ほっぺがゆるんでにやけるくらいです」
「十分すぎる副作用じゃない!」
◆
お茶を楽しんだ後は、ちょっとお庭でお散歩。
公爵家の庭園は広くて、花壇には初夏の花が咲き誇っていた。ラベンダー、マリーゴールド、バラにペチュニア。どれも職人さんたちが丁寧に育ててくれている。
「やっぱりこのドレス、ラベンダーと相性いいな……」
「えっ、何その急なファッション評論家みたいな声」
「実際、君が着てるワンピースがまた可愛いんだよね。袖のレースとか、襟の刺繍とか」
「ウイリアム、どこ見て……あー、胸元は見るなーっ!」
「目が勝手に……!」
「いや、わざとでしょーっ!!」
軽く彼の胸をぺしっと叩いたら、彼はそれすらも嬉しそうに笑って、私の手を取った。
この人はたぶん、毎日がイベントでも平気なタイプ。そして私は、そういう人に巻き込まれながら、なんだかんだで楽しんでしまうタイプなのかもしれない。
「……でも、ありがとう」
「うん?」
「こうして、なんにもない日を、君と一緒に過ごせるの。すごく、しあわせ」
ウイリアムは一瞬驚いた顔をして、それからふわりと私を抱きしめた。
「僕こそ。君がそばにいるだけで、世界中の宝石が色あせるくらい眩しい」
「そ、それはちょっと言いすぎ──」
「君の笑顔は、僕の人生の最上級だよ」
「……言いすぎ通り越して、もはや犯罪級……」
でも、そんな彼の腕の中は、まるで陽だまりみたいにあたたかかった。
◆
そして夕方。金の光が庭に差し込み、空が茜色に染まり始める頃。
「今夜は、星が綺麗に見えるらしいよ。バルコニーで、ふたりで見る?」
「……うん、見る」
私は彼の手をぎゅっと握り返した。
ドレスショーが終わっても、王族の行事がなくても、特別な式典がなくても。
こうして、ふたりで過ごす普通の一日が、何よりも――
「きらきらしてるね」
「うん。恋とドレスの魔法は、まだまだ解けそうにないな」
ふわりと吹いた春風に、私の髪と、彼のコートが軽やかに揺れた。
王都の片隅で、きらきらが続いていく。
これからもずっと。
第2章 完結
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新連載始めました。こちらも良かったらよろしくお願います。
【婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの復讐劇が今、始まる! 】




