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第12話 ウイリアム王子の父、王様視点の話

【ウイリアム王子の父・国王視点】

「きらり王子と私の、とんでもない結婚」別視点版


私は王だ。

この国を束ね、未来を切り拓く責任を持つ者。

だが同時に、家族を持つひとりの父親でもある。



その朝、書斎に報告が届いた。

息子ウイリアム、第三王子が——結婚相手を見つけたというのだ。


思わず手に持っていた書類を落としかけた。

早い。あまりにも、早すぎる。


まだウイリアムは二十歳。

恋の噂も、華やかな社交界での浮き名も立たない、まるで少女漫画に出てくるような"完璧すぎる王子"だった。


その彼が、突如「結婚したい」と言い出した。

しかも、即決で。


——相手は、バンダーム家の令嬢。


貴族とはいえ、辺境に住まう小さな家門だ。

王家の姻戚としては、正直、やや格落ちといっていい。


だが、私は即座に反対できなかった。

ウイリアムの目が、本気だったからだ。


「父上。僕は彼女と生きたいのです」


その言葉は、疑いようのない決意を帯びていた。

王としてではなく、男として。

一人の人間として。


それを前にして、私はただ静かに頷くしかなかった。


——そして、怒涛のように準備が進んだ。


宮廷の貴族たちはざわつきながらも、すぐに「素晴らしいご縁だ」と掌を返す。

辺境の財政難を救うこともできるし、バンダーム家を取り込めば、北方の治安維持にも繋がる。


政治的な利害を考えれば、悪くない選択だった。

むしろ王家にとっても得るものが多い。


だからこそ、私は考える。


——これは本当に、ウイリアム自身の意志なのか?

——彼は何か、隠しているのではないか?


疑念は拭えなかった。

だが、父親として、王として、今は見守るしかない。



そして迎えた、結婚式当日。


王都の教会には、各国の使節が集まり、礼服に身を包んだ貴族たちが列席していた。

ウイリアムは、いつもの完璧な笑みをたたえ、花婿衣装に身を包んで立っている。


その隣に——エリーゼ嬢。


初めて正式に対面した時、私は少し驚いた。


彼女は、地味だった。

煌びやかなドレスに包まれてはいたが、どこか浮き足立っている。

宮廷の空気に慣れていないのが、ありありとわかる。


だが。


それでも、ウイリアムは彼女だけを見ていた。


その目に、偽りはなかった。


式が始まり、神父が問いを投げる。


「ウイリアム=ルマンド=グランフォード王子よ、

 汝は、このエリーゼ・バンダーム嬢を、永遠の愛を誓う妻とするか?」


ウイリアムは迷いなく、強く、はっきりと答えた。


「誓います


私はその声を聞きながら、目を細めた。

ウイリアムの未来が、いまここで、確かに動き出したことを感じたからだ。


指輪の交換。

誓いの口づけ。


花びらが舞い、教会中が拍手に包まれる。

貴族たちが沸き立つ中、私は静かに、ただ見守っていた。


王としてではない。

父として、だ。


だが。


披露宴が進むうち、私はふと気づいた。


——エリーゼ嬢は、笑っていない。


にこやかに微笑んではいる。

礼儀正しく、王族や貴族たちの言葉に応えている。


けれど、心からの笑顔ではない。


まるで、突然嵐に巻き込まれた小鳥のように。

必死に羽ばたこうとしているように、私には見えた。


ウイリアムは、気づいているのか。


彼はエリーゼ嬢に優しく微笑みかけ、気遣う素振りを見せていた。

彼なりに、支えようとしているのだろう。


だが、それでも——何か、ほんのわずかだが、違和感が拭えない。


夜、披露宴が終わり、私はひとり静かに考える。


ウイリアム。


お前は、誰を見ているのだ?

目の前の彼女か。

それとも、もっと遠く、別の何かを——?


かつて、私も恋をした。

身分や家柄を超えて、心から愛した人がいた。

だが、国のために諦めた。


ウイリアムには、同じ思いをさせたくなかった。


だから私は、この結婚を許したのだ。


だが、それでも、父として願わずにはいられない。


どうか。


どうか、エリーゼ嬢が、ただの「政治の駒」ではありませんように。


どうか、ウイリアムが、本当に彼女を愛してくれますように。


窓の外には、静かな夜空。

月が、まるで遠い未来を照らすように、冷たく光っていた。


私はそっと、目を閉じた。


まだ道は始まったばかりだ。


王として、父として——私は、この二人の行く末を、最後まで見届ける覚悟だった。


——それが、王の責任であり、

そして、父の愛だったから。

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