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異世界に聖女召喚(失敗)されたおじさん 婚約破棄された悪役令嬢と一緒に世界を救う旅に出ます  作者: 世界


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聖女で精霊使いなおじさん

ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。

 天児が下層への階段を駆け下りると、そこは厨房になっていた。ここで調理したものを中層と上層に運ぶ仕組みらしい。中層へはたった今降りて来た階段から、上層へは、直通の配膳用エレベータのようなものがある。そういえば、上層を調べていた時にも奇妙な箱があったが、これと繋がっていたようだ。


 足元にスイッチのようなものがあって、それを踏むとテーブルに置かれた食事などが運ばれていく。動力はおそらく、踏んだ人間の魔力なのだろう。天児が軽く踏んでみた所、ほんのわずかに体の力が抜けたような感覚があった。階段を昇って降りて来るよりはよほど疲れない、中々便利なものだ。

 しかし、火の気がありそうな厨房は煙こそ充満しているが、何かが燃えている様子はない。原因はやはり、貨物が積み込まれた隣室だ。


 天児はそっと厨房の奥にある貨物層への扉に近づいた。扉の下から煙が漏れ出ていて、中からパチパチという木の燃える音が聞こえる。試しに扉に触れてみると、すでにかなり熱を持っていて、この先が危険な状態である事は容易に想像できた。しかし、躊躇っている時間はない。


「バックドラフト…は、ないと思っていいな」


 バックドラフトとは、火災現場で起こる爆発現象である。密閉された室内で空気が燃やし尽くされると、一時的に火の勢いが弱まるのだが、そこへ新鮮な空気が流入すると、それをきっかけに一気に火勢が強くなり爆発を引き起こすという現象だ。天児が産まれる前に起こった大きな火災で発生した事があり、職場の危機管理マニュアルで嫌というほど教えられたので、よく覚えている。

 初めに外から貨物層を見た時に、すでに壁の一部に穴が開いてのを天児は確認していた。つまり、貨物層は現在密閉された空間ではないということだ。バックドラフト現象が起きる心配はなさそうだった。


「さっき爆発したような音がしたのは、危険な荷物が積まれていたって事、か?」


 普通、天児のよく知る現代日本の航空機であれば、爆発する恐れのあるような危険物を持ち込む事はできない。しかし、ここは異世界で、乗っているのは飛龍船という、天児にとっては未知の乗り物である。そこまで管理が徹底されているとは思えなかった。意を決して扉に手をかけ、天児は貨物層へ踏み込んだ。


「こ、こいつは…!?」


 貨物層に入った天児が目にしたのは、真っ赤に燃えた炎を身に纏った、大きな亀であった。元の世界にいたゾウガメよりもさらに大きく、額にはキラキラと光る宝石のようなものが見える。これもこの世界に存在するモンスターなのか解らないが、この亀が火元とみて間違いないだろう。亀は貨物層に入ってきた天児を見つけると、すかさず天児に向かって火炎を吐き掛けてきた。しかし、寸前でフレスヴェルグが猛烈な風を起こして炎を逸らしてくれたので直撃は免れる事ができた。


「うわっ!あ、ありがとう、助かったよフレスヴェルグ」


 逸れた炎は天児の周囲を焼き、扉までの退路も燃えてしまった。この亀をどうにかしない限り、逃げる事もできそうにない。炎を避けるように移動して亀と対峙していると、炎と荷物の合間から、ゆらりと幽鬼のように現れる人影があった。


「ヒヒッ…珍しい鳥型のモンスターだな…お前も魔物使い(テイマー)か?」


「誰だ?!」


「クヒヒ…人生の最後に、同じ魔物使い(テイマー)と技を競えるとは…やはりあの方の誘いに乗って良かった…キヒヒ!」


 炎に照らされて映し出された男の姿は、見るからに異様なものだった。背は高くボロボロの衣を身に纏い、顔はやつれて生気が感じられない。それでいて眼だけはギラギラと鋭い眼光を保っていて、酷く濁った瞳の奥には狂気に満ちた闇を感じる。天児はその闇に見覚えがあった。


「瘴気…」


「ほう、解るか?そうだ。この腐った世界を創り替える為に、あの方が下さった力だ。この力さえあれば…ヒヒヒ!」


「あの方というのは、魔女の事か?」


「魔女…?ヒヒ、言い得て妙だな。そうだ、聖女という下らぬ存在のカウンターとなるあの方は、魔女と呼んで差し支えなかろう…だがな!」


 やつれきった男は、両手を掲げ声高に叫ぶ。頬は痩せこけ、とても健康とは言えない顔色をし、この距離からでも解るほどに体が震えているその様は、どうみても満身創痍だ。それでも尚、恐ろしい程に男の意気は高い。


「誰も彼も、死ねばあの方の力になれるのだ!そう、この俺も…ヒヒヒッ!そうだ、心安らかに死ぬ必要などない、皆瘴気となって、永遠を共に歩めるのだ!」


「そんな…」


 天児は絶句した。生命が天寿を全うせず、魂が瘴気となって漂う苦しみを、この男はまるで救いであるかのように崇めている。これまでに何度も相対し、それを祓ってきた天児には、あんなものが救いであるなどとは到底思えない。そして、今の発言で男の目的がはっきりと解った。この男は、盛大な無理心中を図ろうとしているのだ。哀れな瘴気となる魂を増やす為に、事故を起こそうとしている…なんと悍ましい話だろうか。


「そんな事の為に、この船に乗っている人達を巻き込もうっていうのか!?」


「フヒヒ、当然だ…あの方はもっと力を、瘴気を欲している。たくさんの命が必要なのだ。俺とこのフレア・タイマイで焼き殺してやってもいいが、一人でも多く確実に殺す為には、この方が手っ取り早いからなぁ」


 男は、乗員乗客の反撃や抵抗の恐れがないように仕向けているつもりだったのだろう。だが、天児達が乗り込んできた時点で、その目論見は既に崩れている。それでもこの男がそれを止めようとしないのは…


「仮に失敗しても、お前は瘴気になれる…ということか」


「察しがいいな、ヒヒ!そうだ、どの道、俺はもうすぐ死ぬ…俺だけではない、ゾゴスもそうだ!」


 男が嘲笑ったその時、上の階で激しい物音がして、天井から黒い靄が染み出してきた。それは目の前の男の元へ漂い、そして飲み込まれるようにして消えた。恐らく先程の怪物をマリアロイゼが倒したのだろう。しかし、それすらも、男の計画の内だったようだ。


「ゾゴス、死んだか…クヒヒ。見ろ、こうして瘴気となれば、あの方のお力になれるのだ!さぁ、味わってみるがいい!」


 男は取り込んだばかりの瘴気を、脇に立つフレア・タイマイと呼ぶ亀に流し込んだ。フレア・タイマイはビクンと大きく身体を震わせた後、全身に禍々しい気配を纏っていく。美しく輝いていた額の石はどす黒く変色し、操る炎も紫色に変わり始めていた。そして、その紫の炎は弾丸となって天児目掛けて発射される。

 

「水の精霊よ、頼む!」


 天児は咄嗟に魔力の込められた右手を突き出し、水の精霊に呼びかけた。すると、厨房にあった飲料用の水が、樽から流れ出て天児の前に水の壁を形成する。水の壁は、見事に炎の弾を防いだものの、水の量は明らかに減ってしまっていた。これを繰り返していては、今燃えてしまっている荷物の火を消すことができなくなってしまう。天児は内心で焦りながら、攻略法を必死に考えていた。


「精霊、だと!?き、貴様、魔物使い(テイマー)ではなく精霊使いエレメンタル・マスターだとでも言うのか?!フ、フヒッ…そ、そんなはずはない…精霊を操るなど、そんな…」


 一方、男は精神を病んでいるのか、追い詰められたような口振りの中でも、気味の悪い笑いを浮かべている。狼狽えながら男はさらなる力をフレア・タイマイに送り込んでいった。


「フフヒヒヒ…そうだ、お前もどうせここで死ねば瘴気になる、瘴気になってあの方の力になるのだ。だが、その前に俺とお前のどちらが上か、はっきりさせておかなくてはなぁ…ギヒヒ…!フレア・タイマイ、やれ!」


 男は立つ力さえも注ぎ込むように、フレア・タイマイに力を与えている。再び紫色の炎が撃たれるかと思った瞬間、フレア・タイマイの額から、強烈な熱線が放たれた。


「え、マズいっ!?」


 天児は咄嗟に横っ飛びをして荷物の間に飛び込んだ。熱線は天児の足を掠めて鉄製の壁に大きな風穴を開けた。まるでビームのような、凄まじい威力だ。


「くっ…!」


 わずかに掠めただけだと言うのに、ふくらはぎの肉は外側が焼かれ、消し飛んでいる。とてもではないが、少量の水で防げるものではない。かといって、飛龍船の中には大量の水などない。水の入った樽はまだあるだろうが、あの熱光線を防げるほどの量ではなかった。素早く動いて避けようにも、この足では、それも不可能だろう。


「ヒ、ヒヒヒ…どうだ…?例え精霊を操ろうとも…俺、には敵うまい、ヒヒ…」


 ゼエゼエと息をする男も相当に消耗しているのが解る。今のような攻撃は何度も撃てないだろうが、奴の目的は自分が死ぬことにある。このまま死なれてしまえば、瘴気を浄化することも出来ず、多くの人が犠牲になるだけだ。


「あの攻撃を防ぐにしても、火を消すにしても、水さえあれば…」


 そう呟く天児視界に、たった今開けられたばかりの大穴が目に入った。その先の空には月明かりを受けて浮かぶものが見える。


「…あれだ!」


 天児は足の痛みを堪えて、壁に開けられた大穴の脇に立った。そしてありったけの力を精霊達に明け渡し、叫んだ。


「水の精霊達よ、力を貸してくれ!あの雨雲を…呼び込め!」


 天児の叫びに呼応するように、無数の水の精霊達が集まって歌声を奏でていた。リヴァイアサン曰く、精霊の祝福は歓喜の歌声である。精霊達は天児の想いと力を糧に、全力で歌う。祝福した存在に頼られ、力を貸す事は精霊達の歓びでもあるからだ。その歌声は大きな力となり、精霊を感じ取ることができないはずの、目の前の男の耳にもはっきりと聞こえるほどであった。

 

「な、にぃっ…なんだこれはっ!?」


 驚愕の声を上げる男の目に、さらに信じられない現象が飛び込んできた。天児の叫んだ通りに、壁に空いた穴の外から、高速で大量の雲が流れ込んできたのだ。雲とは水蒸気が集まって出来た水の粒である。一つ一つは小さな水の粒だが、空を覆う雨雲の塊ともなれば、それは尋常でない程の水量だ。瞬く間に貨物層は水浸しになり、燃えていた火は消えて貨物層はまるで水槽のように水で溢れかえっていた。


「し、しまった…!?フレア・タイマイは泳げない…!お、俺も…!」


 瞬間的に水中になってしまった為に、男とフレア・タイマイは完全に動きを封じられた。その一瞬の隙を突いて、天児は泳いで男の元へ向かう。


「お前の中の瘴気、浄化させてもらう…!」


「浄化、だと!?や、やめろぉっ!」


 水中で抵抗できない男の額に触れて、天児は浄化のスキルを使った。精霊達の祝福により、一時的に強化された浄化のスキルは、一気に周囲の水そのものを浄化し、清らかな聖水に変えた。こうして、男とフレア・タイマイは浄化され、事態は収束した。

 

 なお、浄化が終わった後、壁に空いた穴から大量の聖水が流れ落ちた為か、その周辺一帯はしばらく異常なほど清浄な空気を感じるパワースポットになったという。

お読みいただきありがとうございました。

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