船内突入
ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。
「気をつけろ、その場で飛ばずに尾の方に向かって助走をつけて飛べ!」
バハムートの指示を受け、天児とマリアロイゼを乗せたフレスヴェルグはタンタンと跳ねるように走って、飛んだ。そのおかげで風の抵抗を受ける事なく、逆に追い風を受けて勢いよく空中へ飛ぶことが出来た。そのまま高度を落としつつ、旋回して飛龍船の方向へ向かっていった。
天児はリヴァイアサン戦で一度その背に乗っているので勝手が解っているが、マリアロイゼはフレスヴェルグの背に乗るのは初めてである。思ったよりもずっと座りがいい乗り心地に驚きながらも、天児の背に抱き着くようにして掴まり、バランスを取っていた。それでもかなりのスピードの為に、勢いよく風が当って少し肌寒いほどだ。
「ロゼさん、飛龍船の搭乗口はどこにありますか?」
「あのタイプの船なら、中層のはずですが…煙で見えなくなってしまっていますわ!」
マリアロイゼの指差す場所は、客船部分の真ん中ら辺に位置しているが、火の手はどうやらその下から上がっているようで、離れた場所からそれを把握するのは困難だった。だが、仮に近づけたとしても、空中でフレスヴェルグから乗り換えるのは不可能に近い。
「他に入れそうな場所を探すしかないか…」
そうしている間にも、ワイバーン達に異常が伝わってきたのか、徐々に飛ぶ足並みが狂い始めているのが見てとれた。ああなると船はかなり揺れて、中はパニックになっているかもしれない。速度の落ちた飛龍船に近づくにつれて、窓から慌ただしく動く数名の人々の姿が確認できた。
マリアロイゼの説明によると、飛龍船は三層に分れており、一番下が荷物を載せる貨物層と乗組員の作業室。中層上層が客室になっているらしい。船を引くワイバーン達は全部で六頭編成になっており、前方、中央、後方に各二頭ずつで支えている形だ。煙が上がっているのは、中央右側の下部、貨物層の部分である。その煙は中央と後方の右翼を支える二頭にかかっていて、煙を避けようとする二頭の動きに引っ張られて、他のワイバーン達に影響が出ているようだ。
「仕方ありませんわね…船の屋根に穴を開けましょう」
少し離れた場所を飛びながら様子を伺っていると、マリアロイゼがそう提案した。中の状態が不安ではあるが、幸い、高度もかなり下がってきているし、他に手は無さそうだ。天児はフレスヴェルグに指示を出して、ワイバーン達の合間を縫って、船の屋根部分に降り立った。
「私が先に降りて穴を開けますので、テンジ様は後からおいでくださいませ!」
「解りました。ロゼさん、気を付けて!」
マリアロイゼは屋根上に降りると、風圧で飛ばされないように片膝をついてしゃがみ、左手で屋根を掴んだ。船の屋根は外側が鉄板になっており、その下には木材を組み合わせた素材で出来ているらしい。ふうぅ…と小さく静かに息を吐いて、右手に魔力と力を込める。ギリギリと弓を引き絞るように、マリアロイゼの右腕に力が漲り、筋肉と骨が軋む音が聞こえてくるようだ。
「ていっ!!」
力が臨界に達した瞬間、マリアロイゼは掛け声と共にその拳を屋根に落とした。拳は一撃で貫通し、今度は続けてその周囲に拳を入れた。その後は大きくひしゃげた部分に両手を入れて、無理矢理に穴を広げていく。とんでもない怪力だ。リヴァイアサンの加護を受けてから、元々剛力だったマリアロイゼのパワーは、さらに恐るべきものに進化していたのだった。
そうしてわずか数分で、鉄板に人一人分ほどの開けた穴を広げたマリアロイゼは、その下の組み上げられた木材を蹴破って、いよいよ船内に突入した。
「これは…?」
マリアロイゼに続いて、天児も屋根の上に降り立つ。揺れもあって少し危ういが、立っていられないこともない。
「よし、僕らも行こう。フレスヴェルグ、いつもの大きさに戻ってくれ。一緒に来て欲しい」
クルル…と小さく唸ったフレスヴェルグは天児の顔に頬擦りをしてから、いつものサイズに戻って天児の肩に乗った。同時に風除けが無くなった為に、一気に強烈な風を受けることになった天児は、危うくバランスを崩しそうになって、慌ててマリアロイゼの開けた穴に飛び込んだ。
「いったた…!って、ロゼさん、無事ですか?!」
天児が立ち尽くすマリアロイゼと共に見たのは、異様な状況であった。満席の客席には、人々が意識を失ったまま座っている。手をかざしてみると、皆息はあるようだが、異常なまでに深い眠りに就いているようだ。マリアロイゼが屋根や天井を破壊した際には、かなりの音がしたはずなのに、誰一人気付かずに眠っているというのは、やはり普通ではない。よく見ると、乗務員達までもが自らの席に座って眠っていた。
「皆眠ってる…というより、眠らされている?」
「そのようですわね。魔法で眠らせたのかしら…それにしても、これだけの人数を同時に眠らせるなんて」
ざっと見ただけでも、100席はあろうかという客席は、しっかり満席だ。この上層部分は現代の航空機でいうビジネスクラスであり、中層部分より座席数は少ない。ちなみに、飛龍船にはタイプがいくつかあって、上級クラスの大型船にはファーストクラスも用意されている。天児達が乗り込んだ船は中級クラスの船になるので、ファーストクラスはない。また船のデザインも箱型で、いかにも大量輸送が重視された造りのようだった。
それにしても、100人以上もの人間を同時に眠らせるというのは、いくら魔法を使っても相当難しいものである。集団を眠らせて行動不能にする魔法もあるにはあるが、それも精々10人に満たない数を対象に取るものだ。これが複数犯でないのなら、尋常でない力が必要な芸当であった。
そして、もしこの状況が何者かの手によるものであれば、この火災は事故ではないということになる。乗客の誰かを狙った犯行なのか、或いは、大量殺人を狙ったものか、どちらにせよ只事ではない。天児とマリアロイゼは、知らぬ間に恐るべき魔の手の中へ飛び込んでしまったのだった。
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