召喚…失敗?
本日のみ二話更新です、宜しくお願いします。
「おお…!!成功だ、聖女が召喚された…ぞ?!」
室内に輝く七色の光が落ち着くにつれて、歓声に湧いていた人々の声は、やがて困惑を孕んだどよめきへと変わっていった。
何故なら、召喚されたはずの聖女は、およそ伝説とはかけ離れた、見るからにひ弱そうな、ぼさぼさの頭をしたサラリーマン風の中年の男性だったからだ。
「ええ…?こ、ここは一体?僕は…」
魔法陣の中で倒れていた男は、頭を振って起き上がると、訳が分からないと言った様子で、きょろきょろと周囲を見回す。
石造りの壁と床、窓には色とりどりのステンドグラスがはめ込まれていて、外からの太陽光は、不思議な色合いを室内に浮かび上がらせている。
つい先ほどまで外を歩いていたはずなのにどうして室内にいるのか、そもそもここはどこなのか、自分を取り囲んで様子を伺っている人々は誰なのだろう。
いくつもの疑問が脳内に浮かび、彼は軽いパニック状態に陥っていた。
遠巻きにこちらを伺う人々は、見覚えのない服装をしている。ローブというのだろうか?彼が若い頃によく遊んでいたRPGに出てくるキャラクターのような出で立ちだ。少なくとも、今までの人生で実際にそんな恰好をしている人達には出会ったことがない。
少し考えて、もしかすると、ここはコスプレ会場なのかもしれないと思い至った。よく見てみれば、ローブ姿の人達に混じって、中世の騎士のような鎧を纏った人もいる。
だが、それならばいつの間にこんな所へ入り込んでしまったのだろうか?
つい先ほどまでは夜だったはずだが、見た所今は昼間のようだし、前後不覚になるほど酒を飲んだ覚えもなく、誓って怪しいクスリに手を出したこともない。
彼は一般的に、真っ当な人生を歩んできた人間だと自負している。座り込んで考える彼の元へ、一人の若い男が、数人の騎士鎧を着た男たちを連れて近づいてきた。
目前で立ち止まった若い男は、男性から見ても眉目秀麗と言える、細面の俗に言うイケメンで、短く切り揃えられた、燃えるような赤い髪が特に印象的だった。
「あのー…」と声をかけようとしたところで、赤髪のイケメンが拳を握り震えている事に気付く。恐る恐る顔を覗くと、男は青筋を立て、いかにも怒り頂点と言った状態だ。
なんだか上司が理不尽に激怒する直前に似ているなと警戒して、声をかけるのをとどまった。
「おい…!これは一体どういうことだ?」
「は…!恐れながら、召喚術が失敗したものと…」
「失敗だと!!馬鹿を言うな!これは女神より与えられし秘儀中の秘儀だぞ!?どうして失敗などをするというのだ!?」
赤い髪のイケメンは、横に立つ騎士を思い切り怒鳴りつける。怒鳴られた騎士を含め、並び立つ他の騎士達も顔面蒼白になって何も言い返せないようだ。
(召喚…失敗?もしかして、僕は彼らに連れてこられたのか…?)
些か信じられない話ではあるが、夢や幻にしては現実味があり過ぎるし、堅い床の質感といい、頭に浮かんだ突拍子もない事態を、否定しきるには材料が足りなかった。
「くそっ!聖女の召喚を成功させれば、民衆の心をまとめる絶好のチャンスだったというのに…よりによって、呼び出したのが聖女どころか、女ですらない男…しかも、こんな冴えない中年だと?!」
赤髪の男は指を嚙みながらずいぶんと失礼な物言いをする。確かに冴えない中年男性であると自覚はしているが、見ず知らずの相手にここまで言われるのは少々心外だ。
とはいえ、相手は若く地位もありそうなイケメン、さらに言えば激昂している状況である。今反発した所で、いい結果に結びつくとは思えなかったので、しばらく黙って様子を見る事にした。
すると、ローブを着た男たちの中から、一人だけ豪華な意匠を施された法衣を身にまとった。いかにも他の者たちとは毛色の違う老人が彼の横にゆっくりと歩み寄ってきた。
「王子…とりあえず、この場は一旦お引き下さい。私に考えがございます」
「む、バーロ法王か…考えとは?」
「それはこの場では…後程、人払いを済ませた上でお話し致します」
王子と呼ばれた赤髪の男は、バーロ法王の提案に、渋々従うことにしたようだ。
横に立つ騎士に目で合図を送ると、すかさず騎士達が中年男へ近づき、手枷をはめて立ち上がらせ、どこかへ連れて行くのだった。
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