87話 隠れていたもう一つの事実
【夏梅と叶一、俺と三人がリビングに残された】
俺の興奮は続いている。夏梅と出会ってから、隠れてSEXやキスをしてそれなりに刺激的な生活ではあった。
カーテンがいつのまにか閉まったりしていたが、まさか本当に塁が実在をしているなんて微塵も思わなかったし、本心からいえば、俺は、はじめから夏梅に騙されていると思っていた。
蒲を含め周囲に話す事と俺に話す事とは全く違っていたからだ。これが全容だとすれば、夏梅は蒲や塁を非常に雑に騙し続けて来たことになる。あいつらまったく気が付かなかったのか?気が付いてないよな…。
取材で夏梅と出会い、その瞬間に惹かれ、その日のうちに家に行った。そうなんだ。初めから蒲の異様な行動から逃れるための「俺には見えない塁がいる」という夏梅の可愛い嘘に付き合っていたつもりでいた。
二人になれる時間が少ないという夏梅。俺の目を見ない時は塁がいるという合図だったし、蒲を中心とした小競り合いなら、不審に思われないと、言うので、絡みあっている時に、こっそり内緒話をした。だから、話があるときは、わざわざ騒ぎを起こしていた。
だらり帯の時に、塁が憑依したから、俺がいなくなったと思って、絶望して泣いたと言われても、実感はない。俺が塁に乗っ取られるのは我慢が出来ないという夏梅。だから蒲にも塁にも二人で示し合わせている事がわからないように、わざと目薬をさした。
目にみえないものを信じることは難しい事だ。そうか夏梅は俺だけは騙さなかったのか…。腕に抱えている夏梅の温もりが伝える安ど感を実感していた。
【叶一は、塁が去った方を見た】
「母さん、塁は蒲を探しに行ったみたいだよ」
「あーよく寝た」夏梅は目を開け起きた。
「ほんと、当事者がのんびりしてるよな」叶一はあきれている。
「父さんがいるから、安心をしているのよ」
俺と夏梅は何事もなかったように「手と足がしびれた」と、のびをしながら立ち上がった。
「奥様、どっか怪我しなかった?蒲の奴、叩きやがった」
「うん、大丈夫。今までの怪我に比べたら、楽勝でしょ。それより蒲になぐられたんじゃないの?」
「うまく、かわしましたよ。しかし、よく我慢しているよ」
顔が腫れてきている。保冷剤を持ってきて冷やすと俺と夏梅は互いの体を見回した。
「結婚二十年目の古びた夫婦にしては、いちゃつくな」
俺は、まだいたのか?というような顔で叶一を見ると
「まああ、人間、共通の敵がいると団結するものさ。お前もよくやった!」と、褒めた。
「あー、疲れた」叶一は、座りこんだ。
「俺も、疲れた。初めて塁の姿を見たから、焦ったぜ」
「父さん、おれも、帰ってきてからの、シチュエーション は、焦った」俺と叶一は笑った。
【どうして、ああなったの?】
「父さんの焼きもち」夏梅が笑い、俺の顔を見ながら
「塁は、男性オンリーだから気にしないで、言いたい放題いえるのに…。まったく父さんたら、いつも、父さんの嫉妬で話がこじれてしまうでしょ」
「知っていても、あんな風に言われたら、我慢が出来なくなるだろ。お前、わざとやってるよな」夏梅がウフフと小さく微笑んだ。いつも俺の事を塁に置き換えて話しているはずなのに、どうしようもなくムカつくのだ。
「塁って、男性オンリーなの?」叶一が驚いたように聞いた。
「そうよ、唇にキスは、絶対にしてこないし、私がすると、ものすごく嫌な顔をする」
「蒲は?」
「蒲は…。塁だけじゃないの?俺、蒲と寝たことないから、しらないよ」
「寝たことないのか?」
「俺さ、昔は遊んだけどな、夏梅と出会ってから夏梅だけ。男も女も寝てない」
「へえ~。だけど、よく蒲から回避できたな」
「あいつは、俺に絡んで来るけれど…。俺のことは眼中にないよ。俺もない」
「はじめは台本とおり、塁に現実を見せるために小芝居をしていたのに、父さんったら、蒲が来たら取っ組み合いを始めちゃうんだもの」
「しょうがないだろ、ついな…。そんな、こんな、していたら、蒲が突然に帰って来て乱入して、こうなった」
【あー、それで蒲は?】
「見ろ、母さんを殺そうとして、出て行った」
俺は、夏梅の半分腫れた顔を叶一に見せた。叶一は怒りがこもった声で
「またなの?まだ、殺したいのか…」
「危険な奴だからな…」
「これから、どうするの?」
「塁は自分たちが、不要だとわかっていたみたいだな。これで、うまく蒲だけを連れて出てくれると、いいのだけどな」
「塁や蒲に、母さんと父さんが初めて出会った時に、母さんから、助けを求められたという話をするの?」




