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ソファベッド  作者: 中島 世期 seki
1章 猫にマタタビ:僕の憂鬱
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68話 蒲の変化

【黒川氏は深刻な顔をしながら答えた】


「お医者さんは、親友が死んだ事を、認められないのだろうという話だった、と思う」

「そんなに繊細な奴だったかな?」天十郎は頭を傾げた。

「ショックだったのではないの?」日美子さんも難しい顔だ。


「それで、入院中に突然に蒲が、高校生の時に亡くなった、父さんの遺産を利用して、蒲の家を賃貸に出して、夏梅の家のリフォームをして欲しいって、蒲から依頼があった。蒲と夏梅が入院している間に、そのリフォームが済み。退院するときに迎えに行ったら、蒲は夏梅の家に行くっていうし、夏梅も黙って受け入れてね」


「そうよね。正直、夏梅の家に二人を帰すのは考えちゃったわ。夏梅を一人で帰すのも迷うのに、蒲と二人で不安は大きかったのよ。でも、帰ると事故現場に固定されたソファベッドがあって、夏梅には心地よい専用のスペースが出来ていたのよ。まるで塁みたいな気の配り方で驚いたわよね」


 日美子は黒川氏に同意を求めた。


「ああ、蒲は自宅を賃貸に出し、そのお金で夏梅に家賃を払って、残りは自分の小遣いにすると言っていたな」

「あれには驚いたよね。自分達の生活まで考えているなんて、蒲らしくないわ」

「そうだな、丁度、からだと心が入れ替わるっていう映画やドラマがはやり出して、きっと蒲に塁が乗り移った。と話をしていたよ。本当にそんな感じだった」

「それは、ないな」天十郎は言い切った。僕は少し気分が良くなった。


 みんなの想像とは違うが、確かに、やらせたのは僕だから。人はこちらが思うほど、興味がないと思っていたが、結構、良く観察しているものだ…。


「隣の塁のご両親は、塁がいなくなって、夏梅の家に蒲が来た時点で、家を売却してどこかに引越をしてしまった。今は連絡も取れないの。少なくとも塁の両親は、夏梅の事も、蒲の事も、認め、許す事が出来なかったのでしょうね。

 一か月のうちに、夏梅の頼る人が一人もいなくなった上に、蒲と一緒の生活が気になっていたのよ。それに事故から半年もたたないうちに、天十郎君が同居して、一年後には入籍して引越する事になって、日咲、禾一、玉実、叶一と出来て、あっと言う間にお母さん」日美子さんは感慨深いようだ。



【黒川氏は】


「それぞれが何をどう思っているかは、本人達に聞いてみないとわからないが、俺は今回のような事があると、あんなに必死になっていた塁に申し訳なくて」

「そうね、私もそう思うし、残された夏梅にとって今の状態が良いのか悪いのかまったくわからない。今日みたいな事があると、泣くことも出来ず、ただひたすら我慢をしているような気もするしね」黒川氏を日美子さんが見た。黒川氏は頷きながら


「俺らはね。説教をするつもりはないよ。ただ、夏梅のおかげで関係が順調な蒲パパと天ママは思う通りに、生活が出来ているのではないか?」

「そうね。私もそう思うよ。実際には違うのかもしれないけれど、あなた達にとっては、夏梅はただの子供を産むための道具のような気がする事があるのよね」

「いや、それは…」

「女性のすごいところは出産という、人類の起源に出会うこと。どんなに頑張っても、あなた達男性に出来ない事の一つでしょ」

「そうなんだけど」天十郎が言葉に詰まった。



【どうせ、今回の仮面夫婦の報道も】


「蒲が仕掛けたのだろうと、思っているのよ」日美子さんはつらそうに言った。

「えっ」天十郎が驚いた。

「蒲って、真剣じゃないっていうか、人を利用するようなところあるでしょ。それに、この間、気になる事があって」

「なにかあったのか?」黒川氏が不安げに言った。

「夏梅は、ぷよぷよでしっとり吸い付くような肌で、天ママが抱き枕のようで好きだと前に言っていた話をしたら、蒲の顔色が変わったのよ」

「日美子それはまずいよ。蒲がまた嫉妬して、夏梅壊しが始まる。ああ、そうか、その可能性はあるな」


 黒川氏が頭を抱えた。そういえば、僕も蒲を刺激したのだった。黒川氏夫婦の話に、すっかり忘れていた自分の浅はかさに、背筋が寒くなった。


「最終的に、この件に関して、晒し者になり、集中攻撃を受けるのは夏梅ひとりでしょ。どう考えてもタイミングがね。偶然すぎるよね。夏梅が、持ちこたえてくれるといいな、って思っている」日美子さんが不満げに言った。

「そんな事…」天十郎は動揺を隠しきれないように、目が泳いでいる。

「俺も、そうは思いたくないのだがね、実際には色々あってね」黒川氏の顔も暗い。

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