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ソファベッド  作者: 中島 世期 seki
1章 猫にマタタビ:僕の憂鬱
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66話 ウェディングドレス

 僕は、黒川氏夫婦が、昔話を始めたのには少し驚いた。夫婦で口を閉ざすはずだったのに、天十郎の興味が蒲から夏梅に、シフトしているせいか?いや、たぶん自分が知らされていない再婚に、天十郎の憤りを読み取ったのかもしれない。



【僕は、避けられないかも、しれないと思った】


 いつか、天十郎も僕を見つけるだろうか?「塁か…」天十郎は、少し上ずった声をだした。明らかに、感情を揺すぶられている。


「少し、つらい話だけどな、夏梅が大学を卒業する直前。三月の初めに、両親が事故で亡くなって、それはとても突然で。交通事故だから仕方がないが、夏梅が一人になった。

 葬式が終わって、すぐだったか、塁が、僕らの元に尋ねて来て、夏梅と結婚するから、婚姻届けの証人になって欲しい、と言う。前々から、男に追い回される夏梅を一番かばって来たのが、塁だったし夏梅も塁の傍を離れないし、なにより夏梅が塁に対して従順だった。塁の言う事ならなんでもきいた。

 二人の仲は、傍から見ていても、愛おしいほど互いを必要としているように見えた。塁は一人になった夏梅を法的にも保護をしようとしたのだな。きっと…。

 すでに就職は内定していたが、昼間、夏梅が起きている時は、夏梅にぴったりくっついていたが、夜 夏梅が寝るとバイトをしていた。無理する事はない。と言ったのだが、昼間の仕事に出るようになったら、会える時間がなくなるし、夏梅は一人で外に出ることは出来ないから、うちで仕事ができるように、仕事内容なども考えなくちゃいけない。と言ってさ。

 本人が望めば、勉強も仕事も出来るように準備をするのだとね。立花編集長にも、色々と頼み込んでいたみたいだ。さすがに、立花編集長に頼んだと聞いた時は、気が早いと笑っていたのだが…。あんなことになって、後から考えると抜群のタイミングだったような気がするよ」


 そっぽを向いている天十郎の方を見た黒川氏の目は、潤んでいた。胸に詰まったように、言葉も震えている。日美子さんも、泣いている。

「もう、なにもかも夏梅が中心で考えていたわね」


 僕は、あらためて他人から、自分がどう思われているのか知った。こそばゆい気がした。夏梅中心か…。どちらかと言うと、蒲との戦いが中心と言った方が、近いかもしれない。



【黒川氏は深くため息をつき、思い切ったように】


「あの日、夜、蒲から電話があった。三月も終わりで大学も卒業して、婚姻届けを出した日だった」日美子さんが黒川氏に

「そう、塁に頼まれたウェディングドレスの最終チェックをしている時だったわ…」

「そうだったな、シンプルな真っ白なウェディングドレスだったな」


「塁は、双方の両親だけで結婚式を挙げるから、何も用意しないけれど、せめてウェディングドレスくらいはって言うから、私が用意したの」黒川氏の様子に、うんざり感を隠し切れない天十郎は「両親って…」不審そうに聞いた。黒川氏夫婦は、そんな天十郎の様子を気にすることもなく、続けた。


「お葬式で使った夏梅のご両親の遺影写真と、塁のご両親だけでね」

「ああ」余計な質問をしてしまったと思ったのか、天十郎は言葉を濁した。


 急に思い出したように日美子さんが

「ほら、茂呂社長の記念式典の時に来ていたドレスあったでしょ。あれは翌日の結婚式で着る予定のドレスだったの。良いタイミングでパーティがあったので、せめて一度くらいは着せてあげたくて、丈を短くして刺繍入りのピンクとグレーのオーガンジーを足して。すごく可愛かったでしょ」


 僕は頷いた。何を着ても、夏梅は可愛いが、初めてのドレスがまばゆかった。ウェディングドレスを着せてあげられなかったのも、僕の心残りだったので、日美子さんの心使いにはとても感謝した。


 天十郎も頷いている。思い出したか…。


「話がそれてしまったが、夜、二人で、夏梅の家に行くと、今、夏梅のソファベッドがあるところに、一面、血の海があって、その中に塁が倒れていた。急いで救急車を呼んだけど、すでに息はなくて…。三月の初めにご両親に続いて終わりには、塁がいなくなった」黒川氏は天十郎を見た。


 先ほどまでの恋話に、うんざり感でそっぽを向いていた天十郎が、振り返り黒川氏を見つめた。


 一瞬の間があって「えっ」驚きの声を上げ天十郎は聞き返した。

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