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ソファベッド  作者: 中島 世期 seki
1章 猫にマタタビ:僕の憂鬱
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54話 美術館の再現

【開場が始まった】


 入場前から夏梅は嬉しそうだ。

「漫画で見たことある。お嬢様に執事が二人ついているみたいだ」と大喜びだ。


 ステージ袖で直前まで、蒲が夏梅について歩こうとするのを、天十郎が夏梅を引き寄せ、蒲を睨みながら夏梅にからみつくように、ベタベタとマーキングし、それを蒲が引き離そうと三人で絡み合っていた。


「執事、歩けないだろ。どうでもいいけど、腰押しつけるな」夏梅も含め小競り合いをしていた。

「あの三人どういう関係な訳?」コソコソとあちこちから声がした。


 その声に立花編集長がボソッと言った。

「蒲と天十郎が、夏梅を取り合っているように見えるけど、違いますね。これが…」

 となりにいた和樹が「なにが違うのよ?」と聞いた。

「あの二人、昔の蒲と塁に似ている。いや、少し違うかな」

「意味が、解らないわ」

「まあ、気にしなくていいよ。和樹さんはストレートだってね。蒲から聞いたよ」

「立花編集長、業界あるあるは、内緒でお願いよ」お姉言葉を発しながら、目は真剣だ。


「わかっていますよ。台本とキャラクター。創られた、真実のない、やらせの世界です。お互い、利益のためですから」立花編集長は、穏やかに答えた。



【ステージに閃光が走った】


 急遽、カバーガールとして夏梅は、開幕と共にひとりで閃光のステージに立った。ステージの上で、振り向きざまに、まるで、美術館の続きをしているように甘ったるく燕尾服の天十郎をステージの中央まで踊るようにエスコートした。


 天十郎もまた再現をするように、優しく、いとおしそうに夏梅を見つめ、愛しい女しか目に入らない愚直な男を演じた。二人共、一斉に全注目を集め、フラッシュシャワーを浴び、あまりにも完璧な、二人のツーショットは、会場をどよめきと羨望の渦に巻きこんだ。


 和樹は圧倒され

「黒川氏うまいですね。最初に天十郎と夏梅の登場で興奮気味の会場は、嫌でも盛り上がりますよ。あの人、才能があるかも知れないですね」


 紹介されるゲストの衣裳は、広告主のプレタポルテの新規参入のメーカーの担当者の尽力があり、タイアップが可能になった。会場で配布された、黒川氏の作成したリーフレットには、衣装のみ掲載され、この衣装をコーディネートした人を、会場で見つけて欲しいというキャッチコピーがついている。


 当然、パーティの来場者はリーフレットを見ながら、リーフレットの衣装を身に着け、ヘアとメイクをコーディネートすると、どうなるのか?

 使用前、使用後を確認する。黒川氏夫婦の仕掛けは上々だ。短期間で効率が良く、パーフェクトだ。


 もともと、表面的には可愛いタイプの蒲が、おしゃれな燕尾服を身にまとい、さらに可愛さをアップさせた。その蒲が、会場内を歩きまわり、ゲストを探し出してスポットライトを当てた。


 会場内を蒲が歩き回るたびに、会場からは黄色い声と歓声、ため息が聞こえた。それだけで、十分来場者の注意を引いている。


 フェイスメイクに使う化粧品はもちろん、茂呂社長の化粧品だ。夏梅は化粧映えのしない顔だ。実際にはベースメイクもしていないし、眉毛を整えたくらいだが、ナチュラルメイク(薄化粧)としてズルをした。


 当初、茂呂社長は、久々に会う天十郎が、夏梅にぴったりくっついているので、不愉快な表情を露わにしていた。しかし、ステージが終わる頃には、黒川氏が断念すると思ったこの企画が、想像以上に、周囲の反響が良かったせいか、満足そうにしていた。


 利益が大きいければ、問題を回避できることは多い。



 【ステージが終わり】


 天十郎と蒲が、両側に座るように設定された席に、夏梅はつき、日美子さんが傍についた。

「夏梅ちゃん、ステージに上がっても、堂々として、素敵だった」

 日美子さんは興奮気味だ。


「照明がついたら、天十郎しか見えなかったから、何も怖くなかった」

 日美子さんは、会場の熱気とステージ照明の暑さに頬を紅潮させ、汗ばんでいる夏梅のうなじを、手元のハンカチにフレグランスをつけて拭いている。


 日美子さんはよく理解している。血行が良くなると、周囲を巻き込む困った状態になるのだ。しかし、こんなに汗ばんでフレグランスくらいで回避できるのか?不安だ。すでに、天十郎は控室に居る時から少し変だ。


 フリータイムには、来場者が、ゲストを代わるがわる褒める輪と、それとは別に、夏梅の周りには遠巻きに男達の輪が出来た。



【料理が運ばれてくるようになってから】


 天十郎と蒲に挟まれて座っている夏梅は落ち着かなくなった。「お願いだから、静かにしてくれ」蒲が気にして、夏梅の方を向くと、天十郎が夏梅の肩を抱き寄せ、首筋にしなだれるようにくっつき、小さな声で夏梅になにか話しかけている。


「だからさ、おとなしくしていろ、蒲が落ちつかないだろ」

「何が」

「おとなしくしてないと、暴露してやるぞ!」

「なにを曝露するのよ、芸能人相手に暴露大会なら負けないわよ。天十郎より私のネタの方が大きいのは、ご存じですか?」

「知っていますよ!」

「だったら、私に指図をするんじゃあないよ」

 

 今日の天十郎の絡み方がいつもと違う。蒲が、横目で天十郎を睨んでいる。まずいな…。まさか蒲まで…。雄をゆすぶられているのか?


「ふざけるな、大声で叫んでやるから」

「やってみろよ、俺のモノを食わせるぞ」

「ええよ、美味しくいただきます。私さ、歯は丈夫だから、よくかみ砕いて、会場を血の海にしてやるからな」

「お前、乳歯のくせして怖いな」

「何を今さら、乳歯ではありませんよ、執事殿。執事が雇い主を侮るな」


 ベタベタにくっつきながら、互いに耳元で愛の言葉をささやき合っているように見えるが、実際には危なすぎる会話だ。

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