49話 色目と表沙汰
【吉江の住まいの玄関ドアをぶち破る、派手な立ち回りは】
近所の住人、および通行人の多くの目撃者を集めた。僕らが帰った後、警察が介入し、この件が表沙汰になった。
天十郎は事件以来、無口になり二階の部屋に引きこもっている。そして蒲は一人雄弁になった。構ってくれない天十郎の代わりに、蒲は、僕に話しかける。
「おい、酔った男達が飲み仲間の女性を襲った事件として、話題を呼んでいるよ。俺も天十郎も警察に呼ばれているけれど、あれだけ大暴れしたから目撃者も写真も多いし、タダで使える、お人よしが僕らの無実を証明してくれる。ありがたい世の中だ。ネットの住人は使い方によっては、美味しいな」
「そうか」
「おお、どの写真も夏梅の顔は出てないな。相変わらず夏梅はミステリアスだな」
一時期は、天十郎と蒲にも容疑がかかり警察に呼ばれたが、多くの目撃者の証言のおかげで、倒れている夏梅を連れて、蒲とすぐに出たことが証明され、吉江の強姦事件とは一切無関係が証明された。
【夏梅は事件の翌朝に】
やっと天十郎から離れたものの、その後は昼夜かかわらずに、夢うつつの状態だ。テレビでもインターネットでも、報道されるような事態になって来た。
蒲が打った球を、吉江が、夏梅に向けて打ち込んだが、それが跳ね返って自分が打ち負かされた格好になって、吉江が哀れだが仕方がない。仕掛けた張本人は、吉江との関係を認めないだろう。
「おい、世の中は、夏梅の話しで盛り上がっているぞ」蒲は愉快そうに僕に話しかけた。
「なぜ、夏梅の話が出る。実名が出たのか?黒川事務所の同じモデル仲間と言う事ではなかったのか?」
「天十郎の元カノ、美来だよ。美術館で会っただろ?どうもネットの上の写真を見て、吉岡というフリー記者の暴露記事に乗ったみたいだ。まだ実名は出てない」
「その吉岡って奴は…」
「ご想像通り、事件と同時に茂呂社長から、助けて欲しければ、茂呂社長のところの専属モデルになるように、黒川氏を通じて依頼が来ていたのを断ったからな、天十郎を追い詰めているのだろ。どうする?」
「どうするって、夏梅はパーツモデルしかしてないから、顔や名前が露出する事はない。誰かがまた仕掛けなければな」
僕は冷たく言い放った。蒲は不敵な笑みを浮かべると
「俺も天十郎が可愛いからな」
「だったらやる事はわかっているだろ。それに、このまま夏梅がうつ状態から抜け出せなくても、結果は同じだ」
「わかっているよ。お前に天十郎を取られたくないからな」
記事を見ると、確かに夏梅をターゲットにして来た。フリー記者の吉岡は、姿が見えない天十郎の彼女を、ミステリアスに仕立て、報道を過熱させていた。
茂呂社長の魂胆は見え見えだ。大切だったら守ってみろ!と、天十郎に安易に伝えていると同時に、今まで憶測でしかなかった天十郎のマジカノの存在を、確かめたいのだ。
和樹と立花編集長、黒川氏、蒲との話し合いには参加していないが、きっと対応策に頭を痛めているに違いない。
【蒲は、引きこもり気味の天十郎に】
「やはり、天十郎の戸籍に夏梅を入れて、同じ敷地内にマネージャーと住んでいる設定にしないか」入籍の話を持ちかけ始めた。天十郎はなにを考えているのか、黙ったままだ。
僕は、何度も同じことを天十郎に話しかけている蒲に
「おい、このまま天十郎が、夏梅達と一緒に住んでいる事がわかると、収拾がつかなくなる。天十郎に馬鹿な事を言ってないで、天十郎が一人、夏梅の家から出ればいいだろ」
「冗談じゃない。塁!俺の計画を邪魔するのか?」
「蒲は天十郎との生活を守る為に、夏梅を婚約者と言う設定にして、どうあっても、入籍の方に話を持って行きたいのか?まったくお前の身勝手にも程がある」
「ここに天十郎が住めなくなったら、お前のせいだからな」
「そうか?お前が吉江さんをたきつけなければ、こんな事にならなかったのだろう?」
「たきつけたなんて、人聞きの悪い」
「蒲、間違えるな。ここは夏梅の家だ。天十郎がいなくなっても、お前以外に困らない。そして忘れるな。お前は俺の物だ」
「クッ」
蒲が苦痛に満ちた声を上げた。夏梅は、きっと、どんなことがあっても、両親との思い出のあるこの家を手放す決断をすることはないだろうと僕は思う。




