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ソファベッド  作者: 中島 世期 seki
1章 猫にマタタビ:僕の憂鬱
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26話 使い捨てカイロ

「しかたがないな。動くなよ、すぐだから」


 天十郎が帯を持って回すと、びくとも動かない。帯締め、帯揚げ、帯枕、帯も深く食い込んでいる。


 よく見ると息も苦しそうだ。天十郎もその事に気がついているようで「息をすって、お腹を引っ込めろ」といいながら、帯を回そうと天十郎が力を入れるたびに、夏梅はギャーと声を上げ、天十郎が身を固くした。


 二階から着替えを持って降りて来た蒲は、その夏梅の叫び声を聴いて、にやりと笑った。


「おい蒲」僕は、声をかけた。蒲は僕の方を見ると不愉快そうに「わかってる」と答えた。


 玄関ホールでは、夏梅が「痛い!」と叫び天十郎は「おい、お腹を引っ込めろ、息を吸え、もう一度」を繰り返している。何度やっても同じである。


「天十郎、紐や帯の結び目を確認しろ」蒲が声をかけた。

「あ?帯?どうなっている?」

 改めて帯を見ると、深く食い込んだ帯紐、帯の結び目をワイヤーのようなもので固定している。

「なんだ?着物ってこうやって着るのか?」

「夏梅だから」

 蒲がそう言いながら、ハサミのようなものを持って戻って来た。


「なんだ」

「手芸工具のニッパー」

「どこにあったの?」

「洗面所の化粧台」

「何をするの?」

「手芸用のワイヤーで固定する事がね。時々、あるからさ」


 不審そうな顔をしている天十郎に、蒲はやさしく微笑みかけて頭をなでた。そして床で丸まってうめいている夏梅に向かって「動くなよな。俺がお前を傷つけたら塁にどんな目にあわされるかわからないからな」と僕を見た。


 僕は冷ややかに蒲を見つめた。蒲は僕をみながら、力強く夏梅を床に抑えた。その様子に「大丈夫か?」天十郎が不安げに蒲に聞いてくる「これくらい、こいつは平気さ」

 

 蒲は僕をみてニヤニヤしながら、ニッパーで帯の結び目の手芸用のワイヤーを切った。夏梅はもうろうとしながらも、ブツブツと「痛い!痒い!」を繰り返している。


 天十郎と蒲は、いくつか結んであるワイヤーを切りながら、帯を解き着物を脱がせると、肩からコットンのタオル、胸の下からバスタオルが出て来た。沢山のタオルに包まれて、その下から 使い捨てカイロが素肌に密着していくつも出て来た。


「なにこれ?着物を着ているというかタオルを着ている?まだ九月なのに、なんで使い捨てカイロが…」

「ああ、こいつはこれが普通」

 蒲は何事も起きていないように知らん顔だ。

「わからない奴だ」


 天十郎が肌襦袢を脱がそうとすると、腰にはコルセットを付けている。医療用のコルセットは固く、からだにフィットするようにいくつも留め具がついている。慣れないと取る事が難しく、天十郎は初めて見る医療用コルセットの取り方がわからず迷っている。


 コルセットの中にも、いくつかの使い捨てカイロが素肌に密着しているようだ。天十郎も色々触っているうちに、コルセットの中に使い捨てカイロが入っている事に気が付いた。


「おい、コルセットの中にも使い捨てカイロがあるぞ、怖いよ」

 天十郎の声が震えた。

「使い捨てカイロの所は火傷しているし、他も汗疹か、ひどい湿疹だ真っ赤に腫れた肌は擦り傷だらけだ。おい、風呂場に連れて行くぞ」

 


【お風呂場に】


 肌襦袢とコルセットを脱がさずに、天十郎が抱きそのまま連れて行くと

「擦り傷があるけど、このまま風呂に入れるか?」

 蒲が聞いた。天十郎は「それは、しみるだろ」と躊躇している。


「俺じゃないからいい」

「いくらなんでも可哀そうだろ、この帯のところは皮がむけている俺が無理して帯を回そうとしたからだ。それに使い捨てカイロって水につけて平気か?」

 天十郎は不安そうに独り言のようにブツブツ言って、動けずにいる。


「気にする必要はない」と今、起こっている事に動揺もせず、目が笑った蒲が天十郎の顔を見て固まった。

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