20話 カバーガール候補
黒川氏の美容室で気まずい時間を過ごした数日後に、
黒川氏を通して、正式に夏梅の新製品のカバーガール候補の話が入った。どうやら、和樹が黒川氏の美容室に、天十郎とカバーガールに適した子がいたことを茂呂社長に伝えたらしい。二人のイメージポートレートの打診があり、天十郎と夏梅の、提出書類用のイメージポートレートの制作が、
【黒川氏の美容室で始まった】
「よく、この仕事引き受けたね」日美子さんが夏梅に尋ねた。
「黒川さんと日美子さんがついているし、あれも一緒で慣れているから」
「あれって、天十郎さんの事?他の人だったらやらない?」
「絶対、やらない」
「夏梅ちゃん、天十郎君の事が好きなの?」
「日美子さん、冗談がきついです。また塁の時のようになりたくない」
「そうだよね。そうだね」
日美子さんは慌てて言葉をしまった。夏梅はそんな日美子さんを見て申し訳なさそうに「ごめんなさい」と小さく言った。
「夏梅ちゃんが謝る事なんて、なにもしていないでしょ。やめてよ。それよりこの仕事の打診があった時に、我々を通さなければ彼女は受けないし、沢山の人がいる場所は難しいと言っておいたから、ポートレートを作っても、採用されるかわからないよ」
「それって、この作業が無駄になる可能性があるのですか?」
「いいのよ。夏梅ちゃんは大物俳優よりも厳戒態勢が必要だから、当たり前です」
「日美子さん可笑しい!」と、夏梅は笑い出した。
日美子さんは夏梅が笑い出したので、ほっとした様子を見せた。
「この企画は、立花編集長とメイクアーティストの和樹さんが、茂呂社長への提案企画と言う形で、採用されたのよ。立花編集長から、天十郎さんの所在がわからないようにして欲しいと、依頼があったので、今回は極秘に行われ、スタッフは私達と吉江さんといつものスタジオカメラマンだけだから」
「はい」夏梅はなぜかご機嫌だ。
【早速、ポートレートの作成だ】
今日は、蒲の釣り用のレインウェアを着こんでいる夏梅だ。巨人のように膨れ上がっている。カメラの前に立っても、レインウェアを脱ごうとしない夏梅に、天十郎が掴みかかった。
「今日は特大サイズだな?なんでだ?黒川さんこのままで撮るの?」
黒川氏が笑いながら
「釣りの時はいつもだよ。夏梅は後ろからの横顔だけのつもりだから、着替えなくても…いいかな」
「なんで?今日は釣りじゃないだろう。どうやったらこんなになる」
「ポケットだよ」日美子さんも笑いながら指をさしている。
「えっ?」
「ポケットに色々なものを詰め込むから、大きく見えるのだよな?」
黒川氏が夏梅に問いかけると、夏梅が小首をかしげ不思議そうな顔をした。夏梅は事態を把握していないみたいだ。
突然、天十郎が夏梅に向かって
「おい、ポケットから出せ」
「何?」
「早く出せ、おい、仕事を舐めているのか!」
「嫌だ」と口論を始めた。
日美子さんは心配して、蒲に聞いた。
「ちょっとあの二人大丈夫」
「うん、大丈夫じゃないの?」
「本当?」
「おお、なんか、あの二人はガキに戻るのだ。幼稚園で、女の子と男の子が虚勢を張りながら言い合いしているだろ。あんな感じだ。俺を取りあって喧嘩ばかりしているかと思えば、仲良くかばい合いをしている。よくわかんない」
「一種の幼児帰りだな」二人を見ながら、黒川氏がまるで評論家みたいだ。
「幼児帰り?幼児退行の事?あはは、そうかも。そのうち取っ組み合いの喧嘩すんじゃないの」蒲は自分を中心に夏梅と天十郎がいると思っているのか、満足げだ。
「まさか」
日美子さんが不安そうに見ていると、天十朗が夏梅を抑え込んでポケットに手を突っ込もうとしている。
「嫌だったら」夏梅も応戦を始めた。
「お前はバルーン人形か!風船に手足が生えているように見えるのは、ポケットにものを入れるからだろ」
「胸が目立つから嫌だ。嫌だ」
「ちょっと、放置していて平気?」
日美子さんは、さらに不安が増したようだ。本気で心配し始めた。
「ああ、とことんやらないとおさまらないから、放置していい。その間にお茶でもしよう。コーヒーある?」
「ちょっと蒲」不服そうに日美子さんは、蒲を見ている。
「蒲ったら、天十郎さんが芸能人だから人のいない時を選んだのではなく、こうなる事がわかっていたからなの?」
「ああ、あいつら一種の音害だからな」
蒲と日美子さんの会話に黒川氏は苦笑いをした。




