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06

「先生、今日は無理を言ってすみませんでした。あまりお役にも立てずに申し訳ありません」


 道中でジェイドがテレサに声をかけると、行きと同じで先を歩いていたテレサは振り返って笑顔を向けた。


「いーえ。それにしてもセシリアがエルザと知り合いだったなんて驚いたわ。彼女、あまり外出できないから、また話し相手になってあげて。ドリスもいるし」


「……はい」


 それからエルザの症状について、ジェイドとテレサがあれこれ話すのをセシリアは遠巻きに聞いていた。


 テレサの自宅に戻ると、彼女は部屋に入らず倉庫へと足を向ける。


「ワインの発酵具合でも見に行くわ。少し中身を揺すらないと」


「おひとりで持てますか?」


「大丈夫よ。雑菌が入らないように中身をいっぱい入れているけれど、一つひとつは小さい樽を使っているから」


 心配無用と言わんばかりのテレサにジェイドも強くは申し出なかった。彼女が年齢の割に逞しいのをジェイドもよく知っている。


 お馴染みの荷車に薬草などをいっぱいに詰めて引いている姿を何度も目にした。


 セシリアもテレサにお礼を告げ、また顔を出す旨を告げる。セシリアとジェイドだけになり、ややあってからジェイドが口火を切った。


「気にするなよ」


 なんのことか、と考えを巡らせるほどでもなかった。あえて言わないのはジェイドなりの優しさなのだろう。


「詳しい事情は知らないが、どんな理由であれ決めたのは本人たちなんだ。おまえが自分を責める必要はない」


 気にしていませんよ、と返すつもりだったのに、あまりにもはっきりとした言い分で続けられ、セシリアは苦笑してしまった。


「……ありがとうございます」


 素直にお礼を告げる。やはりジェイドはどことなく兄に似ている気がした。


「で、ドリスの件、お前はどう見た?」


 本題に入り、セシリアは頭を切り替える。


「やはり、なにかあると思います。もしも食事制限や運動など一般的なものでしたら、あそこまで動揺したり隠したりはしないでしょう」


「だな。やはりなんらかの特別なことをしているんだろう。綺麗になったというのも世辞にはとらなかった。本人に自覚があるんだ。それだけのなにかをしているという話になる」


「あと、ひとつ気になりました。『先生には簡単なことよ』というのはどういう意味なんでしょうか」


 ジェイドがさりげなく美容法について尋ねたときに言いこぼしたドリスの台詞だ。ジェイドはおもむろにこんからがる思考を整理するかのごとく頭を掻く。


「あれな。俺も鎌をかけたつもりだったんだが……なんの話だ?」


 まるで見当がつかない。もう少しドリスとは距離を縮める必要があるのかもしれない。とはいえ、ドリスはアスモデウスの存在は全否定していた。


 ひとまず今日は解散の流れとなる。セシリアとしても雨が降りだす前に城に戻りたい。馬を預けている夜警団の屯所近くまでジェイドはセシリアを送っていく。


「今日はわざわざ悪かったな」


「あまりお役に立てずに申し訳ありません」


 セシリアの謝罪にジェイドは軽く首を傾げて否定した。


「いや。お前のおかげでドリスと次に会う機会は得たからな」


 ドリスから頼まれた用件を思い出し、セシリアはわずかに視線を落とした。


「……一応、あの人に聞いてみます」


「下手に気を回すなよ。本人同士が望んだわけでもないんだ。会わないなら会わないでそれを伝えに行けばいい」


 間髪を入れずにフォローされ、セシリアはかすかに笑みが零れた。


「はい。こちらもなにか情報を掴んだら報告します」


「よろしく頼む。にしても、セドリックが妹のお前をよく気にかけていた気持ちが、今ならなんとなくわかるな」


 苦笑してジェイドは呟く。急に兄の名前が出され、セシリアとしては意味がよく掴めない。ジェイドはなにげなくセシリアの頭に触れた。


「気を回し過ぎるところがあるから心配になるって話だ。察しがいいのは褒めてやるが、相手は上官とはいえ四つも年上の男なんだから、もう少し素直にぶつかってもいいんじゃないか」


 どうしてここでルディガーが出てくるのか。セシリアは混乱するも考えをまとめ上げる。


「……部下としてではなく、たまには妹分として接しろって話ですか?」


 ルディガーが不意に自分を愛称で呼ぶのはそういうことなのか。セシリアの返答にジェイドは虚を衝かれた顔を見せた。ややあって遠くの方を見つめる。


「これはなかなか手強いな」


 尋ねようとするも、さっさと行けと手の甲で払われ、彼らはそこで別れることになった。

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