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終期超越 シドシワルワ  作者: 弥島真
第2章 歪みゆく日常
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5 「定め」はいつも足掻かれる

 トレーニング室に居たレナードとアンナは、警報により現在起こっている事態を知った。

「WSI? 何故だ」

「WSI……そういえば……」

「なにか知っているのか?」

「この前、WSIが勝手に作動したって、警備隊が調査していたのよ」

「そんなことがあったのか」

「ええ。結局、理由は分からず仕舞いだったらしいけど」

「今回の件となにか関係が……あるか」

「恐らくね」

 2人はトレーニング室を出て、辺りを見渡す。そこには、まだなにも変化を感じられる箇所は見当たらない。そこで2人は、同じ階にある展望エリアへ向かう。展望エリアに着くと、そこには、たくさんの人の亡骸が乱雑に転がっている中で、WSIが死の象徴の如く佇んでいた。

 2人は、咄嗟に身を隠す。どうやらWSIの方は2人に気づいていないみたいだ。

「惨いわね……」

「ああ……。艦内のWSIは、遠隔操作で強制終了出来るのではなかったか?」

「確かそのはずね。でも、まだ動いているということは……警備室とコックピットでなにかあったのかしら」

「行ってみるか?」

「でも、私たちが向かったところで、どうすることも出来ないと思うわ。私たちには、停止させる権限が無いし」

「だとしたら、このまま待機か、或いは……直接……」

「……どうやら、やれることは限られているみたいね」

「ああ。で、どうする? アンナ」

「貴方に任せるわ。レナード」

「……ルーカスから聞いたことがある。WSIの背中にあたる部分、そこにはWSIの武装状態を、強制的に解除させる機能を持つ隠しボタンが備わっている、と」

「確かなの?」

「今、確認してみるしかない。俺が囮になる。頼んだぞ」

「ええ。死なないでよ」

 レナードが、WSIの前に姿を晒す。人の気配を感知したWSIは、レナードの存在を確認すると、レナードの方にすでに出ている銃口を向ける。そして、レナードに対し、無慈悲に、機械的に、銃撃を開始した。

「来た!」

 レナードは姿勢を低くし、横に走り出す。WSIの銃口が、レナードの動きを追うように動く。レナードの動きを追うのに集中していたWSIは、背後から来る存在に気づく事は無かった。

「よっ……と」

 アンナが、3メートルはあるWSIの上に、ジャンプで手をつき、そのまま軽い身のこなしで背中部分に上る。

「どこかしら……」

 一通り一面を見るが、特に変わったところは見当たらない。そこで、アンナは上着のポケットから「甘い液体」を取り出し、中身をWSIの上にぶちまける。アンナは、甘い液体が捌けていない、ある一か所に目を向ける。

「ここかしら」

 甘い液体が溜まっている所に指を入れ、色々と弄ると、ハッチのようになっていることに気づき、それを開いた。そこには、1つのボタンが存在していた。

「えい」

 アンナがボタンを押すと、WSIの銃撃が止み、装備されていた銃が床に転がり落ちた。そして、WSIの動きが機械音のフェードアウトと共に、やがて止まっていった。

「大丈夫? レナード」

「問題ない」

「意外と簡単ね」

「いや、開けた場所が好都合だっただけだろう」

「それもそうね。で、これからどうするの?」

「まだこの階にもWSIがいるはずだ。とりあえず、残りのWSIの動きを把握して――ッ!」

 少しの間、沈黙状態だったWSIが突如起動し、レナードとアンナのところへ突っ込んできた。2人は咄嗟に身を翻し、WSIの突進をすんでのところで回避する。

「あら、あのボタンだけじゃ駄目なのかしら」

「……らしいな」

 WSIが脚部を曲げて姿勢を低く構える。そして、口の部分から長さが横に2メートルはあると思われる刃のようなものが出てきて、それを口の部分に装備する。

「次は刃物か……」

「さぁて、どうしたものかしら」



「回避!!」

 キアラが叫び終えるのと同時に、入り口にいるWSIが警備室の中に銃撃を開始した。床に伏せたキアラの上に、銃撃で壊れていくモニターの破片が降り注ぐ。

 第一波が終わると、キアラは直ちに部下に命令を下した。

「WSI上部の動作停止ボタンを押せ!」

 部下の1人が、急ぎWSIの上によじ登り、ハッチを開け、ボタンを押す。WSIは一時、その動きを止める。

「全員無事か?」

「はい、全員無事です」

「そうか、よし」

「隊長、遠隔操作で艦内のWSIを急ぎ強制終了させましょう」

「ああ、だが……」

 キアラは辺りに目をやる。先程の銃撃を受け、警備室内部は酷く損傷し、警備室のシステムもダウンしている。キアラは、それが簡単に復旧できるものではないと理解していた。

「これでは、復旧させるのにも時間がかかりますね……」

「ああ。強制終了の件は、艦長に委ねよう。今は、我々が直接WSIの動きを止めていくのが最善だろう。総員、武装準備!」

 キアラの命令で、警備隊が特殊な戦闘服を急ぎ身に纏う。各員、銃やシールド等を装備し、臨戦態勢へとなる。

「5つの班に分かれ、1階から4階に各2体ずついるWSIの動作を停止させる。各班がそれぞれ1つの階を担当、念のため地下にも1つ班を派遣する。いいな」

「「イエス、マム!」」

「作戦開始!」

 警備隊の各班が、警備室を一斉に飛び出す。……微動だにせず、全く動く気配がないWSIの横を通って……。



 前方と後方をWSIに塞がれ、退路を無くした俺は、どうすることも出来ず、死体と「同化」していた。現実を受け入れたくはないが、首が勝手に動き、後方の状況を確認しようとする。

「また……銃口が……」

 俺を追っていたWSIの銃口が再び下がる。どうも、ヤツは俺を殺さないと気が済まないらしい。だが、逃げようにも足が動くことはなかった。もはや、自分の意思では動かすことが出来なかった。

「ああ……ダメだ……はっは……」

 死ぬ。

 今にも弾を発射する、その時。WSIの後方から丸いなにかが飛んできて、WSIの前方に転がった。

「なんだアレ……」

 そして、その丸いものは次の瞬間、凄い勢いで大量の黒い煙を吹きだした。

「みんなー聞こえるかー? しゃがんで移動ー! もしくは匍匐前進! 別になんでもいいけどさー」

 通路に、そう叫ぶ女性の声が響く。黒い煙は瞬く間に広がり、通路の上部を、丁度WSIの視界を塞ぐ程度までを覆う。

「とりあえず部屋の方まで逃げてー! なる早でー」

 女性の誘導で、生き残っていた人たちが自分達の部屋のある方へ急いで逃げる。その様子を見て、逃げ延びる事に精一杯で、頭から抜けていた本来の目的を思い出す。

「マリア……」

 俺は、逃げる人たちとは逆方向に移動する。WSIの動きが止まっている今のうちに、なにがなんでも健康管理室へ向かわなくてはいけない。そのため、一心不乱に階段を目指す。

 道中、転がる死体や、血痕に気を囚われながらも、黒い煙の甲斐あってか、階段へすんなり向かうことが出来た。階段を降り、2階へ向かう。2階へ着いた俺の目にまず映ったのは、そこらへ転がる死体だった。

「ここもか……」

 急ぎ、健康管理室へと向かう。だが、さっきとは打って変わり、WSIに遭遇することはなかった。


 健康管理室の中へ入ると、中には、WSIによって負傷させられた人々が何人もいた。奥へ進むと、怪我人の手当てをしていた第一健康管理室の医者、シアが部屋に入ってきた俺に気づく。

「ああ、アナタも? どこ、見して」

「いや、俺は怪我してるわけじゃ」

 本当は体が重い。照花に散々ボコられたからな……。

「包帯や止血剤をくれ! できるだけ早く!」

「分かったわ」

 シアは急ぎ包帯を2つ取り出し、俺に渡す。それと、注射器と、液体が入った瓶も渡す。

「基本的には包帯だけで十分だと思うけど、重症なの?」

「ええ。急いでるんで、それじゃあ」

 包帯や止血剤を受け取ると、俺は急いで部屋を飛び出し、1-Aに戻るべく走りだす。

「あ、待って、使い方まだ……。行っちゃった……」



 階段を上っている最中、突如床が激しく揺れだした。

「え? 地震? いや、んなわけ――わっ!」

 激しく揺れた影響で、立っていることが出来ず、勢いよく床に倒れてしまった。その反動で、手に持っていた包帯の1つを下に落としてしまった。

 揺れはすぐ収まった。急ぎ体勢を立て直し、階段を上り、3階へ出て1-Aへと向かう。

 黒い煙は相変わらず残っていた。好都合とばかりに急いで移動する。道中、あれほど脅威だったWSIの気配は感じることが出来なかった。おかげで、帰りはすんなりと部屋に戻ることが出来た。

 1-Aの部屋に入り、急いでマリアのところへ戻る。マリアのもとへ戻ると、卓ちゃんが懸命にマリアの傷口を押さえてくれていた。

「卓ちゃん! マリアは?」

「すごい……苦しそう……」

 マリアの額には汗が滲んでいる。呼吸も荒くなっている。

「とりあえずこれを!」

「え? う、うん」

 卓ちゃんに注射器と瓶を託す。傷口を押さえるのに使っていた服を外し、包帯をマリアの体にとにかく強くたくさん巻き付ける。

「いってぇっ……」

 あまりに強くし過ぎたせいか、マリアが苦悶の声を漏らす。

「あっ! 無事か!? マリア」

「巻き過ぎだっての……。加減してくれ……。卓ちゃん……それ貸して……」

「え、うん」

 マリアは慣れた手つきで注射器に薬をセットする。だがその薬を見て、少し訝しむ。

「てか、これなに? 打っていいやつ?」

「多分……」

「なんじゃそりゃ……。まあいいや」

 とりあえず、今のところは大丈夫そうでホッと胸を撫でおろした。


 ……だが、現実は、もはや非日常の域ですら超えようとしていた……。


 現在起こっている出来事に追い打ちをかけるかのように、ある、1つのアナウンスが、艦内に流れた……。


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