97 もう、時間がない
二日後の夜。
宇宙船の中は、気候も変わらなければ街の人通りも普段と変わらない。
プリブの行方も、アヤの様子も、進展はない。
それぞれがそれぞれの場所で、思案にくれていた。
イコマは自分の小さな部屋でひとり、机のシミを見るともなしに見ていた。
アヤの部屋の前で、沢山の思い出を話して聞かせた。
出会ったときのことから、彼女が大阪にやって来たときのこと。
中学生だった頃のアヤ。
大学の受験勉強に勤しんでいたころのアヤ。
離婚したアヤが戻ってきて、また三人の暮らしを始めた後の、楽しい中にもどこか無理をしているような会話の数々。
そして、ニューキーツで再会したときのアヤ……。
聞いているのか、いないのか分からないまま、話し続けた。
涙声にならないよう気をつけながら。
固く閉ざされたままのドアの向こうに、アヤがいることを信じて。
そして聞こえていることを信じて。
もう一つ、胸を占めていることがあった。
ユウのこと。
浮かない顔をしていることが多い。
彼女の悩みはアヤのことだけではない。
仕事のこと。
自分の任務のこと。
はっきりと言ってはくれないが、おおよその予想がつく。
任務の具体的な内容は知らないが、パリサイドの星に意外と早く到着することが、ユウの予定を狂わせたのだろう。
今のところアヤに話しかけることに時間を割いてくれているが、それが終われば一目散にどこかに出かけてしまう。
帰ってきても、疲れた体をすぐにバルトアベニューに運び、今後のことを話し合う間もない。
アヤをそのままにして、今後のこともなにもあるはずがないが、それでもイコマはユウと話しておきたかった。
パリサイドの星に着いた後のことを。
大阪で過ごした時のように、幸せの続く家庭を作ろうということを。
アヤはンドペキとスゥの家族として。
もし、アヤの記憶がすぐには戻らないとしても、身近なところにいて欲しい。
そのためにはどうすればいいのだろう。
これもユウに聞いておきたかった。
もう、時間がない。
手だてを講じないまま星に着けば、離れ離れになってしまい、二度と会えなくなる恐れもあるのではないか。
そんな不安が頭から離れなかった。




