91 推理というのもおこがましい
チョットマの部屋。
ンドペキ夫婦、イコマ、チョットマ、ライラ、スジーウォン、コリネルス、スミソ、そしてレイチェル。
イコマが呼んだのだ。
狭いが、案外、皆が集まりやすい場所にある。
プリブが連れ去られてから約一週間、アヤが連れ去られてから二日。
いくつかの情報はあるが、所在はまだ分からない。
「意見を聞きたい」
ユウは今晩も帰ってきていない。
できれば一緒に。だが、仕方がない。
昨日今日と、手分けして、アイーナ市長、イッジ警察省長官、ミタカライネン治安省長官、キョー・マチボリー船長とは会っている。
現時点で彼らから得られた情報は限られているが、それを披露するという意味合いもあった。
実際は、ユウの知識を持ったスゥから得た情報が主になっているのだが。
「今の我々の状況を整理しておきたいので。その上で、今後のことを話し合いたい」
イコマはそう言って、話し始めた。
「キョー・マチボリー船長にこう言われた。もっと大きく捉えた方がいい。プリブのことも、社会の様々な大きなうねりの中で、たまたま目に見える形で現れたさざ波のひとつ、だと」
イコマだけが、議長役といった格好で椅子に座っているが、他の者は床に尻を付けている。
飲み物やスナックが配られ、長期戦の構え。
時刻は午後九時を回っている。
イコマにはひとつの考えがあった。
それを図るには、もう今晩しかない。
明日にでも、パリサイド重力圏突入モードに入り、その準備のために、この部屋のプライバシーもなくなる。
話すのはアヤのことだけではない。
キョー・マチボリーに言われたように、アヤの件もプリブの件も、チョットマのウイルスも、すべてどこかで繋がった出来事ではないか。
まだ答はおろか、思い付きレベルの推論さえ見えてこないし、推理というのもおこがましい。
ただ、一旦ここで、整理しておきたい気持ちがあった。
「一連の事件はプリブの拉致から始まった」
単刀直入に、自分の考えを語ろう。
様々な推論を並べ立てたところで、意味はない。
「最初、プリブは警察に捕まったのだと思った。原因は、あのオペラ座のマスカレードで起きた事件」
イコマとチョットマがマスカレードで遊んだ夜、三階の貴賓席で一人の女性が殺された。
ヴィーナスという中央議会の女性議員。
プリブはその容疑者。
警察省長官のイッジが、こう言っている。
プリブを一刻も早く見つけ出そうと努力を続けている、と。
その時のニュアンスは、言われるまでもなく探していますよ、というものだった。
しかし、それ以上のことは分からない。
警察がその捜査状況を、初めて会うチョットマがいる席で話すとは思えない。
たとえ、すでに拘束していたとしても、そうとは言わないだろう。
「しかし、その線はない」




