90 あれじゃ、出てこれない
ユウが口を開いた。
「だめだったよ。あの方法も」
「試した?」
「うん。仕方ない。ノブやンドペキには、もう少し黙ってたかったんだけどな」
「なんだ?」
「どういうことや?」
「あの方法?」
「うーん、それは……」
かなり逡巡してユウが言ったこと。
「前にちょっと話したと思うけど……」
パリサイドの中には、己の肉体をパウダー状に変えることができる者がいるのよ。
その能力を持っているのは、一握りのパリサイドだけ。
私はそのうちの一人。
微粒子の霧となって、瞬時にして相手の皮膚から浸透していく。
たちまち肉体の隅々にまで入り込み、自分の記憶や意識を送り込むことができる。
精神を乗っ取ったり、同期することも可能。
スゥと同期したときは、その方法を取ったのよ。
「恐ろしい」
イコマの反応に同感だ。
ただ、ユウが化け物じみているわけではない。
まだ知らないことがある。それだけのこと。
「そう言うと思った。あまり話したくなかったんだけどね」
武器として備わったものだし、使用許可が必要だから、普段、使用することはないという。
「スゥの時は、部隊の誰にもばれないように、私だけ先行して海に潜って準備して。ま、そんな話、今はいいよね」
「ああ。聞きたいけど、次の機会に」
「だよね」
スゥが言いたかったこと。
パウダーになってアヤの部屋に入り込むことさえできたら、顔を合わせて話し合うこともできるのでは、というわけだ。
しかし、ダメだったという。
「あの扉、一粒子たりとも侵入できなかった。まあ、そうだろうとは思ってたけど」
船内のプライベートな部屋は、すべてその仕様になっているという。
この部屋も例外ではないそうだ。
「そうだったのか。残念。会って話せば、突破口が開けるかもしれないのに」
「ユウの顔を見れば、何か……」
イコマはそう言うが、もう先ほどから目を閉じている。辛いのだ。
「なあ、ンドペキ。やっぱり、隊員は引き上げてもらった方がいいかもしれない。あれじゃ、アヤは出てこれない」
ただそうなれば、建物ごと見張らねばならなくなる。
出入り口は正面の一か所だけのようだが、確実ではない。
それに万一、裏をかかれたり見失ったとき、取り返しのつかないことになるかもしれない。
もう二度と、会えなくなる恐れが。
ンドペキもスゥも、そしてユウも、その提案に簡単に首を縦に振ることができないでいた。




