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9 運動神経がなくて

 同じ頃。


 イコマの部屋。

 ユウが戻ってきた。

「おう。久しぶりだな」

「なに、その嫌味な言い方」


 イコマは今、ユウを妻だと公言して憚らない。

 かつて、六百年以上も前、大阪の福島のマンションで暮らしていた時には感じなかった安らぎがあった。

 妻という言葉に。

 あの頃の、あいまいで頼りないふたりの関係。

 それを打ち破る勇気がなかった時を思えば、今はなんとすがすがしいことか。


 妻なら妻らしく、なんてね。

 などと、言える。

 もちろん本心であるはずがない。

 ただの戯言。

 あるいは、甘えたいという意志の表現。

 ユウもそれを分かっていて、

 ごめんなさい、お父さん。などと返すのだ。



「で、今度の任務は?」

 ユウの仕事について、まだ深くは知らない。

 パリサイド軍勤務とはいうが、大幹部というわけでもなさそうだ。

 一将校。

 そういや、ニューキーツで再会した時、中間管理職、なんて言ってたな。


 地球に帰還したパリサイドのうち、約一割は軍人。

 それ以外は公募で選ばれた普通の市民。

 地球に向ける望郷の念が、とても強い人達だという。



 パリサイドの多くは、とても後悔しているのよ。

 あの教団に心を奪われてしまったことを。

 身体は変わってしまったけど、地球という星、人類という種、そしてその社会に深い思慕の念を注ぎ続けてきた。

 どんな境遇にあっても。


 ユウは、何度もこの言葉を使って、パリサイドを理解させようとする。


 地球人類をこうして救出するより、できることなら、地球にまた住みたいと思っていたのよ。

 もちろん地球人類と共に。




 ただ、パリサイド数十億人すべてがそうかというと、そうでもないらしい。

 頭のいかれた連中、とユウは吐き捨てるが、いまだに神を信じるものがいるらしい。

 かつての神の国巡礼教団がでっち上げていた神ではなく、別の存在を信奉し始めたらしい。

 少数派だから無視していいのかもしれないけど、危険な存在、とユウは顔を曇らせるのだった。




 それにしても……。

 パリサイドによる地球人類救出作戦。

 その撤収タイミングは、致し方ない事情もあったようだ。

 ユウの言う制限時間というものが何なのか、わからないが。


 結局、私たちの誘いに応じなかった人も多いし、探し出せなかった人もいるだろうし。

 と、ユウは少しだけ悔しそうな顔をする。


 まあ、仕方ないさ。パリサイドは充分なことをしたさ。


 うん。ま、私は最大の目的を完璧に達成したしね。

 と、うれしそうに表情を一変させるのだった。


 イコマとアヤと再会すること。

 そのためにユウは、帰還するパリサイドの本隊が地球に舞い降りる前から、海に潜行し、イコマやアヤの行方を追っていたのだった。


 約束も果たせたし。

 と、抱きついてくる。

 新婚夫婦のように、何度も同じことを言って。




 ユウとキスするとき、イコマは恥ずかしい思いがする。

 パリサイドの身体で、表情の乏しい顔。

 長大な腕も、まだ意のままに操れるわけではない。

 違和感は否めない。


 ぎごちない抱擁。

 ユウは決してムードを求める女性ではないが、それでも申し訳ない気がするのだ。




 パリサイドの身体を得たスミソは、空を飛べるようになり、水に潜れるようになったが、体を変化させる、つまり、人らしい姿に変身することはまだできない。

 爆発的なエネルギーを生み出すこともできないし、広げた翼でエネルギーを得ることもできない。

 元々不器用で、しかも六百年も電脳の存在として生きてきたイコマが、そのどれも会得していないのは当然のことといえた。


 すまないな。運動神経がなくて。

 なにが?

 空は飛べなくていいから、早く自分の身体を取り戻したいよ。せめて顔だけでも。

 焦らない、焦らない。私たちがこの身体をそこそこ使いこなせるようになるまで、それこそ何年もかかったんだから。

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