89 スミヨシ・リペアセンター
書簡には、恐ろしいことがしたためてあった。
五人は外へ飛び出した。
「フライトを!」
スゥが叫ぶ。
「こちらです!」
アイーナの伝令が先に立って歩き出す。
「急いで!」
いままで何の変哲もなかった舗装に直径三メートルほどの円形模様が現れたかと思うと、一気に沈み込んでいき、ぽっかりと穴が開いた。
「早くして!」
「少々お待ちを」
伝令のパリサイドが言い終わらないうちに、鮮やかな黄色い円盤がせりあがってきた。
オープン座席の乗り物。ベンチが設えられてある。六人乗り。
「早く乗って!」
フライトは再び沈み込んでいき、真っ暗な空間でいったん静止した。
「バーをしっかり握ってください」
座席の回りにほんのり明かりが灯るやいなや、勢いよく飛び出した。
イコマは、握り締めていた書簡に再び目を落とした。
親愛なるチョットマへ
(ギー秘書官を遣わします)
本日一月二日十七時半ごろ、バルトアベニュー近くの一般住宅用建物のバリアから緊急反応が発報され、警察官が急行したところ、ドアが破られ、部屋の中に女性が倒れていた。
名はアヤ。
ニューキーツ市民。
女性は重傷を負っており、現在、スミヨシ救命リペアセンターにて処置中。
なお、加害者の行方は捜索中。
以上。
チョットマ、大変なことになってしまいました。
アヤさんの身元の確認に手間取り、連絡が遅くなってしまい、ごめんなさい。
急いで、スミヨシ救命リペアセンターに向かってください。
詳しいことは明日にでも。都合のいい時間に来てください。
二千六百三十一年一月二日 パリサイド中央議会代表議員 アイーナ
読み返す間もなく、フライトは停止した。
「こちらへ!」
浮上したフライトの目の前に、大きな黒い金属の壁がそそり立っていた。
街外れのようだ。
目立たない小さなゲートがある。
見覚えのある景色ではない。
いつも目印にしている街中央の塔もここからは見えない。
ゲートを潜ると小部屋があり、その先はスキャンエリア。
伝令のパリサイド、秘書官ギーが先を進み、大方のスキャンを解除してくれている。
五人はなだれ込むように通り抜けた。
「こちらです!」
すぐに広い廊下に出た。
三車線ほどの幅があり、天井も五階分ほどもある。床壁天井が光を発している真っ白な巨大廊下。
街の外周、つまり宇宙船の外縁部を回っているのか、どこまでもまっすぐで、遠く、エリアによって、赤や緑や黄色など様々に発光している。
人影はない。
冷たく微かな風が吹いていた。
「スミヨシ救命・リペアセンター」と記されたドアがあった。




