87 初恋だから
それは唐突だった。
チョットマがベッドから飛び起きた。
「だ、大丈夫か!」
聞き耳頭巾のショールを頭に掛けてしばらくは、何の変化もなくチョットマは不安そうな顔をしていたが、急に瞳を輝かせたかと思うと、笑い出したのだ。
「なんだ! そういうことだったのね!」
周りの者が不安がる中、チョットマは朗らかに周りをぐるりと見回すと、ンドペキに目を止めた。
「頭の中で木霊している声が、何を言ってるか、やっと分った!」
「おお! そうか!」
「簡単なことだった!」
「うん!」
「ンドペキのこと!」
「なんだ? わかるように言え」
ンドペキが、心底ほっとしたように微笑を見せた。
イコマの胸にも安堵が訪れ、思わずチョットマの細い体を抱きしめた。
「パパ! やったよ! ウイルスの意図が分かった!」
「みたいだな。聞かせてくれ」
「うん!」
「あ、いや、今じゃなくていい。もっと元気になって」
「ううん! 今したい!」
「そうか? じゃ」
「ンドペキのことをどう思うのか。なんてことを言ってるのよ!」
お前はンドペキを好きなのか。
愛しているのか。
ンドペキのことを想うとき、どんな気持ちになるのか。
スゥと一緒に暮らしていることをどう思うのか。
憎くはないのか。ンドペキやスゥを。
ンドペキに自分の気持ちを伝えたのか。
伝えるなら、どう伝えたいと思うのか。
ンドペキを好きになる前と、今とでは、お前の気持ちはどう変わったのか。
ンドペキのことを想うとき、体や精神に変化はあるのか。
いつもいつも、ンドペキのことを考えているのか。
イコマに対しての気持ちと、ンドペキに対する気持ちは違うのか。
違うのなら、どう違うのか。
プリブやスミソについてはどうだ。
ンドペキに対するのと同じように、想っているのか。
だって。
チョットマは次々と言葉を繰り出した。
「質問好きなウイルスみたい」
ふと考える顔になって、
「もしかして、自分で自分に問いかけてる?」
と、中指を頬に突き当てた。
「違うよね。そんな声が確かに聞こえたもの」
そして、チョットマはンドペキを見つめた。
「ん」
「応えなくていいのよ、ンドペキ。私に対する質問だから」
「ああ、まあ、そう、みたいだな」
「応えてくれてもいいけど」
と、チョットマらしいさわやかな笑顔を見せた。




