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78 選ばれたパリサイド、あるいは特権階級

 その頃、チョットマはアイーナ市長の執務室の前にいた。

 頬を撫でて緊張していないことを確かめると、秘書官に「ドキドキするね」などと言って、反応を確かめた。


 秘書官は、ニッと口元を歪めただけで、アイーナの機嫌がいいも悪いとも言ってくれはしなかった。

「では、開けますよ」という言葉だけで察しろ、というように。


 スミソをドアの外に残し、チョットマは執務室に入っていった。

 部屋はレイチェルから聞いた通りで、窮屈だがいい香りがした。


「失礼します!」

 張り切って声を張り上げた。

 部屋の中央に大きな花柄の白いクッションがある。


 あれだな。



「初めまして。チョットマと申します。レイチェル長官は、仲間の急病に立ち会っていますので、私が代理として参りました。レイチェルのクローンです!」


 すらすらと言葉が出てくる。

 調子がいいぞ、とほくそ笑んで相手の反応を待った。



 それにしても、なんて趣味の悪い部屋。

 これじゃ、市長としての執務もできっこない。

 それとも、これは応接のための部屋?

 なにかのまじない? 積み上げられたクッションの山。

 一杯、埃が立つんじゃないかな。

 そんなことを思いながら、言葉を待った。



「ふうん」


 やっと声があった。

 確かに、中央の大きなクッション。

 顔がどこかわからない。目のやり場に困る。

 しかも、声はそれきり。



 アイーナはパリサイド。

 人の姿を取ることができる部類。

 選ばれたパリサイド、あるいは特権階級ということになる。

 なのに、この姿とは。


 人の姿を取ることができるパリサイドはおおむね、素敵な容姿を持っている。

 誰も好き好んで、いまいちの姿をとることはしない。

 中には、元々の自分なのだろう、はっきりそれとわかる顔をしている者もいるが。ユウお姉さんのように。


 それにしても、この巨大な丸い体は。

 アイーナがパリサイドになる前の本来の姿であるはずがないし。


 かなり上位のパリサイドであれば、いくつもの姿をストックしておけると聞いたことがある。

 だとすれば、彼女にはどんな事情があるのだろう。

 この姿を見せていることに。

 とても意志の強い人だということになるし、少し同情してあげなければいけないのかもしれない。


 それにしても、いつまで待たせるのよ……。

 観察はまだ終わらないの?



 もうひとつ、言っておこう。

 大事な用件。


「プリブの件で、なにかお分かりになったことを、お伺いしてきなさい。そう言われてお邪魔しました」

「ふうん」


 また、それだけか。

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