表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

78/200

78 嘘を言いました!

「皆さんの中には、私たちがみんな空を飛んで、宇宙線や光や、様々な粒子からエネルギーを得ることができるとお考えの方もおられるとか。全然、違うんですよ」


 半数くらいでしょうか。

 どうでしょう、イコマさん。アイーナ市長にはできるでしょうか。


 突然振られて、イコマは応えに窮した。

 あの身体で……。


「答はノーです。私にもできません。空を飛ぶことはかろうじてできますけど、それで食事代わりにすることはおろか、宇宙空間に出ていくこともできません。高度一万メートルがやっとです」



 質問の手が挙がった。


「さっき、再生されたことがないって言ってたけど、それはつまり、父親と母親の遺伝子を持っているってこと?」


 質問の主、中年の男性に、女性たちから激しいブーイングが起きた。

「なんて失礼な!」

「恥知らず!」

「いやよね。デリカシーのない人って」

 男性は構わず質問を続けた。

「サワンドーレがお父さん。で、お母さんもいるんだよね」



 キャンティが応えようとする。

「えっと、父と母の生殖行為によって、いわゆる……」

「応える必要なんかないんだよ! そんな質問に!」

 女性たちが口々に叫び、キャンティは笑ってごまかすことに成功した。

「ちょっと、焦りましたよ」と。



「母ももちろんいます。会うことはあまりありませんけどね」

 女性たちのブーイングが、同情の溜息に変わった。


「離婚でもしたのかい」

 また、先ほどの男性だ。

「いい加減にしな!」



 これにはキャンティは、きっぱりと答えた。

「違います! というか……」

 とたんに口ごもってしまう。


「あの……、なんていうか、地球での風習と違って、パリサイドでは結婚という概念がないので……」



 地球にはまだ結婚の概念は残っているが、かなり薄れてきていることも事実だ。

 それに、異性を好きになるということ自体に関心がない者が多い。

 そういう意味では、パリサイドの方が健康な思考を持っているのかもしれない。



「あ、でも父は、子供は私だけって、とっても大切にしてくれます」

「そりゃそうだよ!」

「一夫多妻制とか?」と、また男。

「ふざけるんじゃないよ!」と、女性陣。



「いいえ、あの、私はよく分からないのですが、誰もがとても長く生きているので、その都度好きになった人と一緒になるというか……」

「もう、無視しなさい!」

「いいんだよ。そんなに頑張って話さなくても」

「あいつを摘み出せ!」

 女性たちの剣幕に、とうとう質問者も黙ってしまった。




 笑っている者が多い。

 特に男性たちの目はキャンティに釘づけだ。

 楽しいハプニング。

 和やかなムードが満ちていた。


 キャンティは、楽しそうに次々と話を繰り出す。

 季節なんてないはずなのに、私の住む大陸では最近になって高温続きで、まるで熱帯地方になったみたいだとか。

 最近見たコンサートがどうだった、とか。

 サッカーの選手で誰がお気に入り、だとか。



 聴衆が感嘆符の付くトーンに変わったのは、この場面。


「あっ、すみません。私の仕事のことを話しますね。自己紹介の時にしなくちゃいけなかったのに」

 また感嘆の声が上がった。

「まだ十五歳なのに」

「偉いわねえ!」

 この時ばかりは、キャンティも少し自慢そうな顔をした。


「仮想装置で遊ばれたこと、ありますよね。ここでいうと、オペラ座がそうなんですが。私、そのプログラムを作っているんです」

「へえ!」

「すごいわね!」



「今ちょっと、嘘を言いました!」と、キャンティが笑う。

 まるで、人を好きになる魔法の粉を振りまくように。


「たくさんのコンピュータが自分で勝手に作ってくれるんです。私はそれを実際に体験して、チェックするだけ」



 十八基の巨大なコンピュータが、人類の歴史が始まって以来の膨大で様々なシーンや物語などから、人々が喜びそうなものをアトラクションとして組み立てるらしい。

 複数のコンピュータにやらせるのは、思想的に偏ったものにならないようにするためだという。


「大昔から、そういう方法で作られていたみたいです。だから私はそれを体験してみて、楽しいかどうか、おかしな点がないかどうか、あまりに長すぎたり短すぎたりしないか、そんなことをチェックするんです」

「ほおお!」

「キャンティ、すごいね!」



 ふと隣を見ると、チョットマの目じりに小さな涙が光っていた。

 イコマは何も言わずに、チョットマの腕に自分の腕をからませた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ