77 インタフォンに手を伸ばし
もし、ウイルスに負けたとして、その後、その人はどうなっていく。
気がふれてしまう、とユウは言ったが、どういうことなのだろう。
記憶を無くしてしまうことを指してそう言ったのか、それともこれからもっと悲惨なことが起きるのか。
「確かなことは分からない。個人差はかなりあるみたいだから」
悪い方に考えても仕方がない、と思おうとした。
建物の中は予想していたより、整然としていた。
「案外、きれい」
廊下も階段にも、ゴミひとつ落ちていない。
明かりは煌々と灯され、空気も循環している。
ただ、かすかな機械音がするばかりで、人が住んでいることを示す物音も声も聞こえなかった。
隊員に、一旦下に降りていてくれ、と帰してから、イコマは改めて周りを見回した。
樹脂製の白いタイルが敷き詰められた廊下。
ブラケット照明も十分な光を発している。
突き当りには絵が掛けてある。
それなりに設えられてある住宅用ビル。
五階には十ばかりのドアが並んでいた。
アヤが入ったという部屋には、確かに五〇一というプレートが張り付けてあった。
その下にはどこででも見かけるインタフォン。
青く塗られた金属製の扉には不釣り合いなほど大きなドアノブ。センサーが仕込んである一般的なもの。
扉の枠にも、明らかにそれと分かるスキャナーが組み込まれてあった。
「どうする?」
なんの物音もしない。
もともとどんな部屋でも、完全に防音され、電波の類も遮断されている。
静けさが痛いほど鼓膜に伝わってきた。
「呼び掛けてみるしかないな」
ンドペキがインタフォンに手を伸ばした。




