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71 かわいこちゃんが聞いているんだよ!

 パリサイドの社会がどのような構成になっているのか、実際のところはどうなのか。

 例を挙げて話してもらえると、少しは理解できるのではないか。

 先ほどキョー・マチボリーから聞いた話が念頭にあった。


 しかし、レイチェルの返事は違っていた。


「普段、どんなものを食べているのか、どんなところで眠り、一日中何をしているのか。どんな仕事に就いて、どんな楽しみと、どんな義務があって。そんなことが気になります」



 虚を突かれたような気分だった。

 確かにこの宇宙船の中では、普通の食事が供されている。

 パリサイドの市民も、地球の街でするように日常を送っている。

 しかし、パリサイドの本拠ではどうなのだろう。


 確かに、彼らの肉体で消費するエネルギーは、宇宙空間で羽を広げることによっても獲得することができる。

 おいしい食事をしているとは限らない。


 なるほど。

 この宇宙船で見る光景は、地球での暮らしに順応するための準備だったのかもしれないのだ。



 アイーナにとっても意外な質問だったようで、一瞬ぽかんとしたが、すぐに、

「そこから話さなくてはいけなかったのか」と、膝らしきところを打った。

「しかし、そんなことから話すとなると、長い話になる」

 レイチェルは平然として、視線をチョットマに当てた。

「どう思う?」


 チョットマの返事は明快だった。

「市長、たとえ何日もかかる話でも、そうしてください」



 人々は、パリサイドを化け物か何かのように思ってはいないが、同じものを食べ、同じ言葉を話す人類、つまり自分たちの未来形のひとつだという実感はない。

 いわば自分たちとは違う特殊な人型生物なんだと考えている人さえいる、と言った。



「わかった。そうする」

 と、アイーナはチョットマの緑色の髪に触れた。


「我々には多くの亜種がある。というより進化の度合いが違う。誰もが空を飛び、宇宙線からエネルギーを摂取しているわけではない。そういうことも説明しよう」

 地球に降り立った者だけを見て判断するのは早計だという。


「しかし、これだけは理解しておいて欲しい。我々はれっきとした人類、だということを」

 敵か味方かという以前に、人として生きてきた者なのだ、と力を込めた。




「さて、この話はここまで」

 アイーナが宙を睨む。


「キョー・マチボリー。この方々に、プリブの件は話したかい?」

 声が返ってきた。

「ああ、したよ。しかし、あんたが期待しているようなことじゃない。それは、あんたの部下、軍の総帥トゥルワドゥルー、あるいは治安省長官ミタカライネン、ないしは警察省長官イッジ、彼らを配下においているあんたの仕事だからだ」

「ふん。水臭いね」

「当たり前だ。私は私の仕事をするだけで満足だ」

「そういうもんかね。関わり合いになりたくないだけだろ」



「それで、分ったことがあれば、ぜひ」

 イコマの問いに、アイーナがまた腕を広げた。


「進展はない。オーシマンの船の名簿にプリブの名がないということだけ」

「えっ、どういうこと?」

 チョットマが飛び上がった。

「言葉どおりの意味さ」



「他の船には?」

 アイーナは応える代わりに、また宙を睨んだ。

 そして大声をあげた。


「どうしたんだい! キョー・マチボリー!」

 声は返ってこない。




 そうか、その調査がある。

 イコマはにわかに、アヤの名があるのかどうか、気になってきた。


「その名簿、見せていただくわけにはいきませんか」

 しかし、アイーナの返事はがっかりするものだった。

「さあね。私には答えられない」

「しかし」

「乗船許可は、船のキャプテンの専権事項」

「……」

「全員に許可が出るはずのものだし、それなりに配慮された船に乗ることになる」

「そうなんですか。では、船長!」



 キョー・マチボリーはまるでそこにいないかのように、沈黙したまま。


「機密事項かどうか知らないけど、あんたしか分からないことだろ! かわいこちゃんが聞いているんだよ!」

 アイーナに促されてようやく声がした。


「ない」

「そんな! まさか」


 チョットマが息をのむのが分かった。

 死んだっていうんじゃ……、という言葉と共に。



「アヤの名前はありますか! あるいは、バードという名は!」

 イコマは叫んでいた。

「教えてください! 私の娘なんです!」




 しかし、それきりキョー・マチボリーは一言も発しなかった。


 アイーナは、ちらりと気の毒そうな表情をしたが、すぐにそれを消すと、自分の仕事に取り掛かった。

 レイチェルに話さなければならないこと、そして相談しなくてはいけないこと。

 調べられることは調べて伝える、とは言ってくれたが。



 イコマは苦々しい気持ちと不安で、鞭打ち症になったかのように、聞いてはいるが深くは考えられなくなった。

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