71 ソーダ水のストローを舌で弄んでいる
イコマは、イチジクを頬張るチョットマを見て思った。
よかった。あの番組に連れて行って。
大仕掛けで時代がかったプログラムだが、こんなにチョットマは楽しんでくれていたのだ。
うれしかった。
そう。
チョットマは頬を紅潮させて貴賓席に戻ってきた。
パパ! ただいま! 楽しかった! と抱きついてきたものだ。
いい青年みたいじゃないか。
などと言って、アラビアの姫をからかったものだ。
もちろん、EF16211892は実在の人物ではない。プログラムが作り出したチョットマ好みの男。
チョットマを喜ばせるシナリオをなぞっていくバーチャルな存在。
しかし、チョットマは何とも言えない顔で、がっかりもしていた。
貴賓席に戻って抱きついてきたそのすぐ後、通路を覗いたが、すでにEF16211892は影も形もなかった。
オリジナルプログラムは終了。お役御免というわけだ。
わかってはいるが、なんとなく寂しい気持ちがしたのは仕方のないこと。
あれほど持ち上げられた後では。
チョットマは話し終えて、余韻に浸っているように、ライラが口元で持ってくれているソーダ水のストローを舌で弄んでいる。
もっと話をさせる方がいいのだろうか。
違う話でも。
たどたどしい話し方で、かなりの時間、話し続けていた。
疲れているだろう……。
ユウを見たが、ユウの口は、うん、今はこのままで、と動いた。
スジーウォンが、戻ってきた。
チョットマを見舞いに。
そして報告に。
イコマと目が合うと、首を横に振る。
アヤはまだ見つからない……。
しかし今、チョットマの前でアヤの名を口にするべきではない。
誰もが今の楽しい話を繰り返し口に出しては、チョットマの楽しさを少しでも持続させようとしていた。




