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70 これを人は、愛と呼びます

 曲が終わった。


 ホールからそそくさと立ち去る人々の上で、光が激しく渦巻いていた。

 不吉なほどに。



「私たちも離れましょう」

「何が起きるんですの?」

「存じません。さ、早く」



 EF16211892は慌てているようだ。

 引っ張られるように、ホールから出た途端、後ろで激しい破壊音がした。

 悲鳴が上がった。


 シャンデリアが!


 床に叩きつけられたシャンデリアはものの見事に砕け散り、辺りには一瞬にして暗闇が襲ってきた。

 落ちたシャンデリアの上で悪魔が咆哮し、炎を吐きだす。



「皆様、ご安心ください」

 ホールボーイや掃除係が一斉に松明を掲げた。

「危険はございません!」


 係員達は笑みをたたえている。

 人々の悲鳴は次第に収まり、人騒がせな演出だよ、という声も聞こえた。


「まだ、十分にお時間はございます。ゆっくりとご準備ください!」

「お帰りの際には、宮殿入口にてご案内を差し上げます。どうぞ、そのままの姿でおいでくださり、一言お声掛けくださいませ!」



 一陣の風が吹いた。

 宮殿の扉が開いたのか。

 チラチラしたものが巻き起こした風か。

 微細な粒子がそれぞれに光っているように見えた。


「本日はご来宴、まことにありがとうございました!」



 EF16211892は、三階の貴賓席まで送ってくれた。


「姫、ひとつ、わたくしとお約束をしていただけませんでしょうか」

 途中、手を離さない。

「はい。なんでしょう」


「お互いに理解し合おうと努力すること。これを、人は、愛と呼びます」

「は、はい……」

「次にお会いするときには、もう少し、わたくしのことを」



 この男は最後まで、こうやって気分を盛り上げてくれる。


「そうですね。喜んで」


 仮面舞踏会が完全に幕を閉じ、オペラ座のあのペア用ブースに戻るまでは、姫君になりきっていようと思った。

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