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62 奴隷にされたくない!

 振り返ったンドペキの目に映ったものは、その声の主であろう老女に突進していくひとりのパリサイド。


「おい! やめろ!」

 部屋の中は騒然となった。


「いやだ! 私は行かない!」


 浮足立った人々がパリサイドから逃れようとしている。

 スジーウォンや数人の隊員が、押し合う人々を掻き分けて女の元へ向かおうとしている。


「やめろ! いやだ!」

 女はなおも叫んでいた。

「奴隷にされたくない!」



 ンドペキもその女の元へ行こうとしたが、数歩も行かないうちに、女の声は消えた。



 パリサイドが放ったフィルムに瞬時に巻き取られ、あっという間にパリサイドに抱えられてしまった。

 数人の市民、それに東部方面攻撃隊の隊員が追いすがる。

 しかし次々に現れたパリサイドに一蹴され、フォルムにぐるぐる巻きにされた老婆は連れ去られた。


「おい! 待て!」

「なにをする!」


 ンドペキはパリサイドを追って部屋を出たが、もうそこには誰もいなかった。




「なんだ! これは!」




 部屋では、サワンドーレに詰め寄る人々がいた。

「説明しろ!」

「どういうつもりだ!」

「これがお前たちのやり方か!」

「俺達をなんだと思っている!」


 しかし、サワンドーレ自身が驚いているようで、まともに返事もできないようだった。



「サワンドーレ!」

 レイチェルの声が響いた。


「サワンドーレ! よく聞きなさい! あなたが答えられないのであれば、答えられる人に伝えなさい!」


 レイチェルの声に、人々の声が静まっていく。


「こういう行動しかできないパリサイドを、私達にこういう扱いをするパリサイドを、今後、友人だとは思わない! 明快、かつ私たちが納得できる説明がない限り、あなた方に従うことはない!」




 サワンドーレが、大きく息を吐いた。

 そして、額に手をやると、瞳を閉じた。

「レイチェル……」


「なんです! あなたに説明できることがあるのですか!」

「レイチェル長官。私自身、驚いています。こんなことが起きるなんて……」


 そしてサワンドーレは、人々に席につくように身振りで示した。

「皆さん、落ち着きましょう。お願いです。どうか……」


 そんなサワンドーレの声に、浮足立った人々の心に少し余裕ができた。


「講義は中止します。でも、これだけは聞いてください」

「説明できるのことがあるのなら、説明しなさい!」



 まだくってかかる人もあったが、サワンドーレは静かで穏やかな様子で席につくように促し、レイチェルもそれに従った。


「皆さんに申し上げます。これが私達の流儀かということですが、断じて違います」

「それなら、今の件、どう説明する気だ!」

「あの女性を連れ去ったのは、他でもない、この宇宙船の乗組員だと思います」

「船の? キョー・マチボリーの部下ということか!」

「私の目にはそう映りました。ああいうことを言われて、きっと、神経質になったのでしょう。パリサイドへの帰還が迫っている時期ですから」



「どこに連れて行った!」

 ンドペキはサワンドーレを怒鳴りつけた。

 神経質になっているで済まされてはかなわない。

 それに、もうこの男を信用していない。

 それどころか、強烈な不信感を持っている。


「それは存じません。ですが、無事に着陸すれば解放されるのだと思います」

「解放、だと!」

「ふざけるな!」

「言葉が不適切であったのなら謝ります。あの女性がどのような扱いを受けるのか、私にはわかりませんが、万一、船の航行に支障があってはいけない、ということなんだと思います」

「ここでは、反対意見をあのような形で封じ込める。そういうことなんだな!」

「違います。実は、今日お話ししようとしていた講義は、我々の社会における意思決定機関であるパリサイド中央議会の仕組みについて、でした。現在の地球よりはるかに民主的なシステムです」

「それなら、この宇宙船の中はその例外、ということだな!」

「それも違います。ただ、船長には船長としての責任があり、それに見合う権限が認められている、ということです」

「一般市民を問答無用で連れ去る権限! あるというのか!」




 ンドペキにもレイチェルにも、部屋にいた人々すべてに、やり場のない怒りが渦巻いていた。

 あの女性が何をしたというのだ。


 彼女はああいう方法で、正直に自分の、そして大方の人々の気持ちかもしれないものを表現しただけではなかったのか。


 渦巻いた怒りは、なんとか大きくならずに済んではいるが、早い時期にきちんとした説明が必要だ。

 そうしなければ、今の女性のような行動に出る人が続出する。

 あるいはもっと危険な行動に。



 サワンドーレも、察したのだろう。

「今すぐ私は戻ります。今あった出来事を市長に伝えます。そして、状況が分かろうが分かるまいが、ここに戻ってきて、皆さんにご報告します」


 立ち去りかけたサワンドーレは、立ち止まり、

「講義後に残ってくださいと申し上げた対象者の皆さん。いや、全員です。明日同時刻に、急ではありますが、補講をします。その時に、今起きたことのご説明をします」


 そう言って、額の汗を手の甲で拭いながら足早に去った。

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