42 部屋の主はいずこに
「大丈夫?」
レイチェルの気遣いに、チョットマは首を振って、続けて、と意思を示した。
イコマはユウを振り返った。
今聞いた話によれば、二十日足らずでパリサイドの星に到着するのだが、ユウは知っていたのだろうか。
無表情だったが、イコマにだけわかるように目の隅で笑った。
それが彼女の仕事にどんな影響を及ぼすのかわからないが、後で聞いてみよう。
イコマはまたレイチェルに向き直った。
「船長からはプリブの行方について、なにも得られなかった。次の人もそう。でも、彼女のことも知っておいて欲しいから話すわね」
レイチェルが次に会ったのは、市民代表議員主席、パリサイド中央議会議長、アイーナという女性。
「実は私、失敗をしでかしたみたいなの」
母船に移乗してから、アイーナから面会の申し出が来ていたという。
「落ち着かれたら来て欲しい、って書いてあったから、私、悠長に構えていた。それに、地球人類の代表みたいに書かれてあったから、それにも抵抗があって」
レイチェルはニューキーツでの出来事に翻弄され、しかも死にかけたこともあって体調も悪く、長官であり続けることに疲れていた。
今でこそ、気持ちを奮い立たせているが、つい先日までは、ことあるごとにンドペキやスジーウォンやコリネルスに代表者の役割を替わって欲しいと言っていたのだ。
「それにね、こう言うとなんだけど、なんだか高飛車な感じでね」
そういってレイチェルは、私の失敗、という言葉を繰り返した。
「面会といっても、彼女が一方的に喋るばかりで……」
秘書官に案内されて議長の執務室のドアが開いた時、まず目を引いたのは、その部屋の異様さだった。
光沢のある白い猫脚の調度品が整然と並べられ、大きな花柄のファブリックが大小、いたるところに積み上げてあった。
天然木らしき床板は磨き上げられ、可憐なデザインの照明器具が天井からぶら下がっていた。
窓のない部屋だが、明るい雰囲気がして、いい香りがしたが、大量の大きなクッション類のせいで窮屈な印象だった。
中央には、とてつもなく大きな丸いクッションが一つ。
花柄の模様が美しい白いクッション。
その脇のコンソールテーブルには、クッキーやプチケーキがピラミッド状にきれいに盛り付けてあった。
部屋に一歩入り、レイチェルは立ち止まった。
ここで待てばいいのだろうか。
秘書官は扉をバタンと閉めて出ていった。
と、声がした。
「何の、ご用?」
美しいが甲高い声に、濁りの混じった波長。
そして、
「面会時間は三分」
あ。
巨大クッションが動いた。
が、部屋の主はいずこに。
どちらに向かって話しかければいいのか。
レイチェルは迷って、「あの、アイーナ議長ですか」などと、間の抜けたことを口にしてしまった。
話は、クッションを転がして、アイーナが現れてからだ、と言わんばかりの口調で。
「ふん、失敬な」
「え」




