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20 アラビアのお姫様

 イコマとチョットマがようやく座る場所にありついたのは、かれこれ一時間も経ってからだった。

 衣装選びに時間がかかったこともあるが、会場が大混雑だった。


「どうよ、これ」

 イコマは、真っ青なローブに太くて赤いベルトを締め、こってりした装飾のある長剣を挟む。

 頭には特大の羽飾りの付いたカウボーイハット、顔面を覆う白銀の仮面。

 ブーツやグローブも動員し、パリサイドの体を覆い隠す。

「ハハハ、似合うともなんとも……」

 チョットマはニヤニヤし通しだ。


「チョットマは似合ってるよ」

「そう?」

「かわいいアラビアのお姫様、そのもの」

「うふ」

「今日は、ラクダに乗ってお出掛けかい?」

「ラクダ! そだ、今度、動物園に行かない?」




 楽団がワルツを奏でている。

 白いマーブルの巨大な円柱が天使画の描かれた壮大なアーチ天井を支え、吊り下げられた馬車ほどもあるシャンデリアが音楽に震えて煌めいていた。

 壁にはメモリアルなシーンが描かれた絵や、誰かの肖像画がすまし顔、威嚇顔。


「ほら、あれ。梁の上」

 高さ十メートルはあろうかという人形。

「ふうん。悪魔だね」

 痩せた黒い体を折り曲げている。やけに長い腕は銛を握り締め、今にも広間に打ち落とそうとするかのように構えている。

「動くんだね」

 目は煌々とし、耳まで裂けた口からは赤い舌が覗いている。

 ギクシャクした動きだが、首から上がギリギリと回り、人々を見下ろしている。



「わー、仮面舞踏会ぃー!」

「手が込んでるね」

「わ! 泡吹いているよ」

「煙か炎のつもりだよ、きっと」

 時々、咆哮も上げている。

 それもたちまちホールの喧騒にかき消される。



「さ、レモネード飲んだら、ひと回りしておいで」

「えっ、ひとりで?」

「踊りに来たんだろ」

 こんなところで踊るなんて、気が引ける。しかもこんな格好で。

「僕は、ワルツなんて踊れないよ」

「なんだあ」


 シチュエーションがどうあれ、どんな格好でいようが、そして誰といようが、尻込みしてしまうのは己の性分である。


「こんな隅っこで座ってちゃ、だれも声掛けてくれないぞ」

 と、チョットマをけしかけるのみ。


 そんならちょっくら誘われてやるか、とチョットマはカーテンをたくし上げて出て行った。

 姿が見えなくなると、急に寂しさが募ってくる。



 腰を落ち着けたのは、ホールをはるか下に望む三階廊下の小ブース。ホールに突き出した特等の貴賓席。

 さすが、バーチャルだけのことはある。

 何もかもが、至れり尽くせり。

 チョットマにも、きっとすぐに素敵な男性が声を掛けてくれるのだろう。



 ボーイが先ほどから何やかやとご馳走を運んできてくれる。

 ケーキや珍しい果物。クッキーやチョコレート。

 そしてなぜか卵料理。

 どこの国の青年か、抜群の美形。ボーイである印、トレーをいつも抱えている以外は、騎士の格好が板についている。



 目が合った。

 と、イコマのグラスにシャンパンを注ごうとする。


「いや、別のものを」

「かしこまりました」

 ボーイは、たくさんの酒の名を上げたが、それがワインなのかブランデーなのか分からない。

「ビールは?」


 はっ、とボーイは直立してから出て行ったが、中世のこんな豪華な舞踏会にビールなどあろうはずもない。

 追い出してやったのだ。

 常にかしづかれていては、肩が凝る。

 ふうっ、と息をついて、イコマは心置きなくフロアに身を乗り出し、ごった返す人々を眺めた。


 チョットマはどこにいるかな。

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