100 このチャンスを逃したくないので
ミッション・ベータディーが語られていく。
思ってもみなかった内容だが、アングレーヌはあらかじめ練習してきたかのように、短い言葉ながらわかりやすい。
アイーナの思いというのが気にはなるが、それが決してネガティブなものでないことは、アングレーヌの口ぶりから伝わってくる。
パリサイドの中には、こんなミッションが存在していたのだ。
アングレーヌは気負いなくさらさらと語っていくが、聞き入るイコマ達には、言葉も継げないほどの衝撃があった。
決して忘れていたわけではない。
ベータディメンジョンのことも、そこに今もいるであろう人々のことも。
チョットマだけでなく、ンドペキやスジーウォンや誰の目にも、一種の喜びさえ現れていた。
パキトポークの巨体をまた拝めるというだけで、嬉しいのだ。
あの声をまた聴きたいとは、誰しもが思うこと。
自分もそのミッションに、端役でいいから参加したいというのは、自然な気持ち。
イコマはある種の感慨を覚えて、アングレーヌの次の言葉を待った。
アングレーヌがチョットマに頷いた。
「そうですね。JP01が責任者に選ばれたのもそういう理由です。行ったことがあるから」
やはりそうだったのか。
ユウは、あの次元に行ったことがあったのだ。
アングレーヌはそのことを語ろうとはしない。
KW兄弟はユウの部下。きっと、彼らの死と関係してのことだろう。
全員の目がアングレーヌに注がれている。
しかし、とアングレーヌは視線を投げ返す。
「どんな協力をしていただけるか、私には判断できませんので、それは後日ということにさせていただいて、もう少し説明しましょう」
予定が変わって、地球からベータディメンジョンに移動し、調査することはできなくなりました。
しかし、その方法が全てなくなったというわけではありません。
実は、この宇宙船には、次元の扉を開けるだけの莫大なエネルギーが積まれてあるのです。
そのプラントもシステムも、先日ようやく構築完了となりました。
エーエージーエスを使ってオーエン氏が開いていた次元の扉の仕組みは、把握できていましたので。
「ただ、問題があります」
宇宙船に搭載したエネルギーが、調査期間中もつのかどうか。
環境調査自体は、短ければ数日程度で済むでしょう。しかし、カイロスという装置を調査したりメンテナンスしたりするには、数か月、あるいは数年単位の日数が必要かもしれません。
「これは私の推測です」
あそこに残された人々を、一旦はこちらに来てもらわねばならないと思います。
救出という意味もありますし、彼らの心身の状態を調べてみたいという意味もあります。
もちろん、彼らの意思次第ですけど。
「その移動に、どれほどの時間がかかるのか、これも不安の種なのです」
エネルギー切れになって、途中で次元の扉が閉じてしまっては、とんでもないことになります。
正直なところ、このミッションをパリサイドに着いてから準備を始める、という考えもありました。
しかし、地球離脱からすぐに準備を始め、パリサイド星域到着と同時に、つまり、地球から来られた方やミッションに関係のない人を降ろしてすぐに実行に移すことにしたのです。
この船内において。
それには理由があります。
アイーナは、このチャンスを逃したくないようなのです。
実は、ミッションには、反対者も多いので。
「焦りました。スミヨシが思いのほか早くパリサイドに到着するようなので。しかしなんとか、プラント構築を間に合わせることができました」




