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婚約破棄されたので普通の生活を目指します。なお私は剣聖らしいのですが自覚はありません  作者: 翡翠


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5000PV突破記念SS 父親と母親から見たリリアーナ


 ――アルヴェイン公爵邸、夜。


 珍しく、二人だけの時間だった。


 執務室の灯りは落とされ、

 窓から月明かりが差し込む。


「……落ち着いているな」


 公爵が言う。


「ええ」


 夫人が静かに頷く。


「今は、とても良い状態」


 一拍。


「均衡が取れているわ」


 公爵は、グラスを傾ける。


「お前が来てからだ」


「そうね」


 否定はしない。


 事実だから。


「……最初から分かっていたのか」


 低い問い。


 夫人は少し考える。


「ある程度は」


「ある程度か」


「ええ」


 一拍。


「確信したのは、もっと後」


 公爵は目を細める。


「いつだ」


「五歳の頃」


 静かな答え。


「剣の稽古よ」


 公爵の動きが、わずかに止まる。


「……レオニードか」


「ええ」


 夫人は微笑む。


「あの子、よくやったわ」


「何がだ」


「全部よ」


 一拍。


「止めて、褒めて、勘違いさせた」


 公爵が小さく息を吐く。


「……意図的か」


「半分はね」


「残りは」


「本能」


 それが答え。


 公爵は沈黙する。


 理解しているからだ。


「リリアーナは」


 夫人が続ける。


「“正しく育てれば危険”だった」


 一拍。


「だから、ああした」


 公爵が低く言う。


「弱いと思わせた」


「ええ」


「結果は」


「成功」


 即答。


 迷いはない。


「……あれでか」


 公爵の視線は、庭の方へ向く。


 リリアーナが、静かに月を見ている。


 何も知らない顔で。


「ええ」


 夫人も同じ方向を見る。


「あれで、よ」


 その意味を、公爵は理解している。


 完全に。


「……本来なら」


 一拍。


「どうなっていた」


 夫人は少しだけ考える。


「簡単よ」


 そして。


「世界が壊れる」


 静かな断言。


 誇張ではない。


 事実。


 公爵は、目を閉じた。


「……そうか」


 それだけ言う。


 否定はしない。


 できない。


 ――沈黙。


 しばらくして。


「お前はどう見る」


 公爵が聞く。


「何を」


「リリアーナだ」


 夫人は、迷わず答えた。


「優しい子よ」


 一拍。


「とても」


 公爵は、わずかに笑う。


「それは知っている」


「でしょう?」


「問題はそこではない」


「ええ」


 夫人は頷く。


「“どこまでが優しさか”ね」


 公爵の目が細くなる。


「境界がない」


「ええ」


「だから危険だ」


「そう」


 一拍。


「でも、それでいいの」


 夫人の声は穏やかだった。


「なぜだ」


「制御しようとしたら、崩れるから」


 それが結論。


 公爵は黙る。


 反論はない。


「私たちの役目は」


 夫人が続ける。


「方向を決めることではない」


「……維持か」


「ええ」


 一拍。


「“普通”を」


 その言葉に。


 公爵はゆっくりと頷いた。


 ――庭。


 リリアーナが、月を見上げている。


「綺麗ね」


 ぽつりと呟く。


 それだけ。


 何も起きない。


 空も変わらない。


 影も落ちない。


 ただの夜。


 ただの月。


 ただの感想。


 それが成立している。


 それだけで。


 十分だった。


「……あれが答えだ」


 公爵が言う。


「ええ」


 夫人が頷く。


「あの子が、何も考えずにそう言える状態」


 一拍。


「それが最適」


 公爵は静かにグラスを置く。


「維持する」


「ええ」


「何があっても」


「ええ」


 二人の認識は一致している。


 完全に。


 ――リリアーナを変えない。


 世界を変える。


 それが、この家の結論。


 夫人が最後に言う。


「大丈夫よ」


「何がだ」


「このままなら、壊れない」


 一拍。


「まだね」


 公爵は、小さく息を吐いた。


 その“まだ”の意味を理解しているからだ。


 だが。


 それでも。


 今は――


 リリアーナが笑っている。


 それだけで、十分だった。

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