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婚約破棄されたので普通の生活を目指します。なお私は剣聖らしいのですが自覚はありません  作者: 翡翠


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第32話 大会に出たいと言っただけなのに、なぜか王都の安全対策が最大レベルになりました

 午後のティータイム。


 穏やかな空気の中で、リリアーナがふと口を開いた。


「ねえ」


 二人の視線が向く。


「どうした」


「なに?」


「剣術大会って、出られるのかしら」


 沈黙。


 完全な沈黙。


 エリシアが、ゆっくりと瞬きをする。


「……はい?」


 レオニードは、数秒間動かなかった。


 思考が停止したわけではない。


 ――整理している。


「理由を聞く」


 短く言う。


「少し興味があるの」


 リリアーナは自然に答える。


「皆がどんな風に剣を使うのか、見てみたいわ」


 それは純粋な動機だった。


 悪意も、意図もない。


 ただの好奇心。


 だが。


 それが最も危険だった。


「……」


 エリシアが額を押さえる。


「ちょっと待って」


「なに?」


「それ、どのレベルで考えてる?」


「どのレベル?」


「うん」


 一拍。


「“普通の人として参加”って認識でいい?」


「ええ」


 即答。


 エリシアが天を仰ぐ。


「ダメだこれ」


 レオニードが口を開く。


「結論から言う」


 一拍。


「不可だ」


 即断。


 リリアーナは首を傾げる。


「どうして?」


「影響が大きすぎる」


「剣を振るだけよ?」


「それが問題だ」


 即答。


 エリシアも頷く。


「お姉様の“だけ”は信用できない」


「そうかしら?」


「そう」


 断定。


 強く。


 絶対に。


「……」


 リリアーナは少し考えた。


「でも」


 一拍。


「私、そんなに強くないわよ?」


 沈黙。


 エリシアがゆっくりと笑う。


「それが一番ダメ」


 レオニードも同意する。


「認識が一致していない」


「え?」


「お前の“普通”は、他者の“異常”だ」


 静かに言う。


「……そうなの?」


「そう」


 エリシアが頷く。


 だが。


 それで納得する相手ではない。


「見てみたいの」


 リリアーナがもう一度言う。


 少しだけ、真剣に。


 その感情。


 ――“興味”。


 強くはない。


 だが、無視できない。


 レオニードは目を閉じた。


 数秒。


 思考。


 そして。


「……条件付きで許可する」


 エリシアが顔を上げる。


「本気?」


「完全拒否は逆効果だ」


「……確かに」


 興味が持続すれば、別の形で発動する可能性がある。


 ならば。


 ――管理下に置く。


「条件は三つ」


 レオニードが言う。


「一、全力を出さない」


「二、長期戦を避ける」


「三、観測可能な範囲で動く」


 リリアーナは少し考えて。


「よく分からないけれど、分かったわ」


 素直に頷く。


 エリシアが小さく呟く。


「分かってないやつだこれ」


「問題ない」


 レオニードは即答する。


「分からせる」


 ――王都、剣術大会運営本部。


「出場申請だと?」


 担当官が書類を見る。


「アルヴェイン公爵令嬢」


 沈黙。


 空気が変わる。


「……本気か」


「はい」


「止めろ」


「不可能です」


 一拍。


「本人の意思です」


 担当官が天を仰ぐ。


「……安全対策を引き上げる」


「どの程度まで」


「最大」


 即答。


 それしかない。


 ――大会当日。


 観客席は満員だった。


 剣術大会。


 年に一度の大イベント。


 だが。


 今年は違う。


「……本当に出るのか」


「ああ」


「相手、どうなるんだ」


 ざわめきが広がる。


 名前が知られている。


 詳細は知られていない。


 だが。


 “何かおかしい存在”だと。


 全員が感じている。


 リリアーナは、静かに立っていた。


 剣を持つ。


 構える。


「……綺麗」


 エリシアが呟く。


「無駄がない」


 レオニードが分析する。


 対戦相手が前に出る。


 騎士団所属。


 実力者。


 だが。


 ――震えている。


「はじめ!」


 合図。


 次の瞬間。


 試合が終わった。


 音は、一度だけ。


 金属音。


 それだけ。


 誰も理解できなかった。


 何が起きたのか。


 相手は、剣を落としていた。


 構えすら維持できない。


「……え?」


 観客席から声が漏れる。


 リリアーナは首を傾げる。


「今の、終わりでいいのかしら?」


 審判が固まる。


 数秒後。


「……勝者、リリアーナ・アルヴェイン」


 ざわめきが爆発する。


 だが。


 それは歓声ではない。


 ――理解不能。


 それだけ。


 エリシアが小さく呟く。


「やばい」


 レオニードも同意する。


「観測が始まる」


 王都全体が。


 この瞬間から。


 ――“見てしまった”。


 そして。


 リリアーナだけが、いつも通りだった。


「思ったより簡単ね」


 その一言で。


 すべてが決定した。


 ――この大会は。


 “普通の大会”では終わらない。

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