はじまり
「ダメだ。あんたはここを通すわけにはいかない」
響く冷静沈着な声。
それに旅人風の男は血相を変える。
「は、はぁ!? しょ、書類に不備はないはずだ!! なのになぜ通れない!!」
「ダメなものはダメだ。次」
「くっ、お、お前」
歯軋りをしながら、男は立ち去っていく。
だが、アレンの表情は崩れない。
そんなアレンに、階級が下の兵士が声をかける。
「あ、アレン様」
「どうした?」
「なぜ今の男の通過を拒否なされたのですか? み、見たところ。普通の旅人のように見えたのですが」
それにアレンは答えた。
兵士を見つめ。
王国に忠誠を。
この命。王国の為に。
「随分と忠誠心がある」
声を発する。
兵士は目を丸くする。
っと、そこに。
「伝令! アレン様ッ、王がお呼びです!! 今すぐ城へとお戻りください!!」
響く声。
それにアレンは頷き、城へと向かっていったのであった。
〜〜〜
「よって貴様を追放する」
は?
頭が真っ白になった。
玉座の間。
俺はついさっきまで、いつも通り“仕事”をしていただけ。
王都東門――王国最大の要所。
その門番として、入国者を審査する。
ただ、それだけ。
「聞こえなかったのか? お前は“無実の民を不当に追い返した罪”で、門番の任を解き、王都から永久追放とする」
「異議は?」
険しくなる、王の顔。
周囲の側近たちもその顔には蔑み笑み。
「ありません」
片膝をついたまま、応える。
どうせ言っても無駄だ。
俺の力は理解されない。
俺には【心眼】がある。
相手の心が読める。
ただそれだけのスキルだ。
証拠も残らない。
説明もできない。
当然、信じてももらえない。
だが。
(あーあ……終わったな、この国)
ちらりと周囲を見る。
王。側近。騎士団長。文官。
その全員の“心の中”が見えていた。
(門を通った連中、ちゃんと潜伏してるな)
(次は南区画を燃やすか)
(王城の警備、ザルすぎて笑える)
おいおい。
今まで俺が門前払いしてた連中、普通に入り放題じゃねぇか。
「何か言いたそうだな?」
王が不機嫌そうに睨んでくる。
「いえ、別に」
(言ったところで信じないだろ)
だったら、もういい。
「では、本日中に王都から出ていけ」
「了解しました」
あっさりと頭を下げる。
引き止める奴は、誰一人いなかった。
〜〜〜
そして、その日の夜。
俺は王都の外にいた。
「まあ、いいか」
肩の力が抜ける。
もう門を守る必要もない。
怪しい奴を見抜く必要もない。
全部、終わりだ。
その頃、王都では。
「報告します!! 南区画で大規模火災!!」
「なにっ!?」
「さらに密輸品が市場に流通! 正体不明の武装集団も確認されています!!」
「ば、馬鹿な……なぜ急に!?」
〜〜〜
その頃。
「アレン様。お、お城のほうで煙が」
側で響く、赤髪の同行者の声。
アレンと共に城を追放された関所の女責任者の一人。
アレンを信用した罪。
だそうだ。
「その、大丈夫。でしょうか?」
その問い。
それにアレンは答える。
「あの城には優秀なお方がたくさんいる」
「すぐにどうこうなるとは思えない」
「それは、確かに」
頷く、セシリア。
「今は今日の宿を探すのが先決」
「野宿は嫌だしな」
「それも、確かに」
セシリアの口元が緩む。
王国は、これから崩壊していく。
スパイ、暗殺者、狂信者。
俺が弾いていた“異物”が、一気に流れ込んだからだ。
でも。
俺はもう門番じゃない。
「行くぞ、セシリア」
「は、はい」
縛るものは何もない。
力も、知識も、経験もある。
しかも。
(心、全部見えるしな)
そう内心で呟き、アレンとセシリアは踵を返しその場を離れていったのであった。




