貴都李
読んで戴けたら倖せです。
「あーあ、酷い目に遇った
お腹いっぱいにはなったけど」
食事が終わると聖詞は長椅子の端に座って本を読み始めた。
聖詞の隣に聖流、聖流の隣に貴都李が座って、暫くテレビを観た。
気付くと聖詞は疲れていたのか聖流に凭れ、本を抱えたまま眠っていた。
聖流は聖詞の頭を自分の膝に載せると長椅子の背もたれに掛かっていたブランケットを掛け、聖詞の頭を撫でながら話し始めた。
「聖詞の母親は、こいつが三歳の時に家を出て行って行方知れずなんだ
親父は母親が出て行ったって解ると、写真や服やらを残らず処分して、聖詞の母親の痕跡を消した
オレの母親はオレが三歳の時に病死していて、母親が居ない淋しさが痛いほど解るから、聖詞には、オレができる事は何でもしてやりたいとおもってる」
貴都李は眠る聖詞を見詰めて言った。
「聖流君を見てたら解るよ
凄く聖詞くんを大事にしていること」
「聖詞は自分のことを進んで他人に話したりしない
それを貴都李に話した
聖詞は、お前がそれに値する人間とみなしたんだろうな」
貴都李は足元に視線を落として言った。
「そうなら、嬉しいな」
貴都李は微かに笑った。
聖流はワザと無遠慮に言った。
「その身体の傷は親か」
貴都李は一瞬身体を強張らせ、それから膝を抱えて言った。
「母親の再婚相手と反りが合わなくて」
「児童相談所とかは行ったことは無いのか? 」
「時々考えるけど......面倒くさくて」
「面倒くさいって、自分の事だろう」
聖流は貴都李を見詰めた。
「そんな価値、ボクにあるのかな」
「価値が無い人間なんて居ないだろ
誰かと関わって生きていれば、関わった人には意味があるんじゃないか? 」
「どうだろ
勉強ができる訳でも、何か特技がある訳でも無いし」
「オレにはどうでもいいな、そんなこと
少なくても聖詞にはお前の存在は意味がある」
聖流は頭を背もたれに載せた。
貴都李は暫く黙った。
そして膝の上に顎を載せて、おもむろに口を開いた。
「ボクにとって聖流君は憧れなんだ
去年の学祭の時にキーボード弾いてる聖流君は、本当にカッコ良くて、釘付けになった
いつも自信に溢れてて、主張したい事がはっきり言えて、そんな聖流君を見てるだけで、なんだか倖せな気持ちになれるんだ」
貴都李の洗いたてのサラサラな髪が、綺麗な二重と長い睫毛に降りかかり、真っ直ぐに伸びた鼻筋とピンク色の丸い口唇を見え隠れさせた。
その横顔がどこか女性的に、聖流には見えた。
「ボク、帰るよ」
貴都李は立ち上がった。
「あのさ.....」
聖流は寝ている聖詞の頭をそっと膝から降ろすと立ち上がり、言いずらそうに腰を擦り、貴都李を見ずに言った。
「聖詞のこと、有り難うな」
「Sの聖流君にお礼言われると、何だか怖いね」
「お前、結構言うね
オレが珍しく礼を言ったんだ
有り難く貰っとけ」
貴都李は聖流に向き直ると言った。
「今日は本当に有り難う
美味しかったよ、本当に
それに凄く楽しかった」
貴都李はぼんやりとした笑顔で言った。
「友達か、聖流」
声の方を見ると戸口に父親の真聖が帰っていた。
「親父、お帰り」
「こんばんは、お邪魔しています」
貴都李はペコリと頭を下げた。
「ゆっくりして行くといい」
「親父、パスタあるよ」
「聖流の手作りか」
「そうだけど」
「今日は胃の調子が思わしくない」
そう言うと真聖は寝室に消えた。
「逃げたな」
聖流は片眉を上げた。
貴都李はクスクス笑った。
「笑ったってことは、やっぱり不味かったんだろ」
「そんなこと無いよ
美味しかったよ、本当に」
貴都李は慌てて否定した。
「正直に言え、不味かったんだよな
だから、笑ったんだ」
貴都李は興奮してオーバーアクションになった。
「違うよ!
本当に美味しかったってば! 」
聖流は吹き出して笑った。
「面白っ
そんなムキになるような事じゃ無いだろ
弄りがいのある奴だよな」
貴都李は、ホッとため息をついた。
「本気で怒ってるのかと思った」
「オレはそんな下らない事で本気で怒ったりしない」
貴都李は一瞬泣きそうな顔になった。
「どうした? 」
「何でも無いよ」
貴都李は聖流から顔を背けた。
「帰るよ」
貴都李は電話台の横に置かれた紙袋を持った。
聖流は貴都李の背中に言った。
「着てる服はやるよ」
聖流は玄関先まで貴都李を送った。
「気を付けて帰れよ
お前、なんかぼおっとしてるから見てて危なっかしいんだよ」
「大丈夫だよ」
貴都李はぼんやりと笑い、足早に歩き出した。
振り返って聖流が家に入るのを見届けると、貴都李の目から涙が伝った。
『こんな倖せな事って起こるんだ.......』
読んで戴き有り難うございます。
姐御こと、水渕成分様がお仕事の関係で一週間ほど、なろう活動を最低限に絞っているのですが。
淋しいです。
毎日届く応援感想が届かないのもそうですが、「異世界から来た女王蜂様は働き方改革を断行します」も今週末はお休みで。
姐御ーぉ、早く帰って来て下さい❗
ウサギは淋しいと死んじゃうんですよお、って。
お仕事終わらないと無理なのですが。
私はウサギと言うよりブタですね。笑




