見据える強さ
スズ婆ちゃん、怖いよ。 怒ると、怖いよ。
スズ婆ちゃんは手を後ろに組んで、ゆっくりと僕達の方に歩いてきた。凄い怖い顔をしている。
昔、僕が投げたボールが夏奈子の鼻に当たり、夏奈子は鼻血が飛び散った。それを見たスズ婆ちゃんの怒りの顔と同じだった。いやそれよりも怖かった。
「何だこのババア!」と運転席の青白い目付きの悪い男は失礼な事を言った。
「近所迷惑だよ。あんたら、昨日の夜中に来た奴等だね。深夜に迷惑だよ。そこに倒れているハゲバカを連れていきな。邪魔だよ。五人とも、お家に帰ってお母さんのおっぱいを吸い直す所からやり直しな。くそガキ」とスズ婆ちゃんは捲し立てて言った。
スズ婆ちゃんは口喧嘩が強い。僕もその血を引いている。
「こっちは仲間が他にいるんだぞ! 婆さん、これが一体どういう意味か分かっているのか?」と青白い目付きの悪い優男は言った。
「知らん。早く帰りな。あんたらさぁ、命が、惜しくはないのかい?」とスズ婆ちゃんも負けずに見たこともないほどの冷酷な顔をして五人組に言った。
「夏奈子さんの友達なんですよ。お願いですから会わせてくださいよ」と青白い目付きの悪い優男は薄ら笑いを浮かべて言った。
「うちの子達は、あんたみたいなバカな友達はいないよ。あんたら変質者でしょう?」とスズ婆ちゃんは睨みを効かせて言った。
「人聞き悪いことを言わないでくださいよ。分かりましたよ。今日の所はこの辺で。また、来ますよ」と青白い目付きの悪い優男は言い捨てて、倒れているスキンヘッドの男を起こして車に乗せると、ライトバンのバンパー辺りに座り込んでいる、堅太りの臭い男を起き上がらせて車に乗せた。
「夏奈子さんに宜しく伝えてくださいよ」と青白い目付きの悪い優男は言って車に乗りニタシの方面へ走り去った。
「詩音、ありがとう。顎と首は大丈夫か?」と僕は言って詩音に駆け寄った。
「大丈夫。少し痛むだけだから」と詩音は言って首を擦った。
「詩音くん、家に来て冷やしていきなさい」とスズ婆ちゃんは言って玄関に向かった。
家の中に入ると夏奈子は起きてテレビを見ていた。外の騒ぎには気付いていたようだ。
「夏奈子ちゃん、お邪魔します」と詩音は笑顔を見せて言った。
「あっ、詩音くん、いらっしゃい!」と夏奈子は言ってテレビを消した。
「夏奈子、今、家の前で乱闘騒ぎがあったよ。乱闘を起こした奴は、昨日の深夜に家に来た不審者たちと思われる人物だ。奴等は、夏奈子に会いたがっていたけど、心当たりある奴等なのかい?」と僕は落ち着いた声で話した。
「うん。実は、先日、ライヴをした時に、来ていたお客さんの中に、しつこい人がいたのよ。『迷惑だから止めてください』と何度も言ったんだけど。全然聞いてくれなくて。
学校にも来て、校門の前で車を止めて待っていたりもしていたのよ。先生や友達に相談したんだけどね。皆も困り果てていて。警察に相談をしようかな、と思っていた矢先だったのよ」と夏奈子は泣きながら言った。
「何で僕たち家族には相談をしなかったんだ?」と僕は静かに話し掛けた。
「家族にも、迷惑が掛かるからと思ったら、なかなか言えなくて」と夏奈子はうつ向いたまま言った。
静まり返った茶の間は時が止まったように感じた。
スズ婆ちゃんが夏奈子の隣に座ると夏奈子の頭を撫でながら優しく言った。
「大丈夫よ。私がなんとかしてあげるからね。明日にはすべて解決するからそれまで待っているんだよ」と言った。
僕と詩音はお互いに見つめて首を傾げた。
「うぇ〜ん」と夏奈子は泣きながら、スズ婆ちゃんに抱きついた。
「竣、俺、帰るわ。じゃあ、またね」と詩音は言ったが、僕は無理やり詩音を台所に連れていくと、冷蔵庫から氷を取り出してビニール袋に入れて縛り、詩音の首に当てた。
「冷たーい」と詩音は言って肩を上げた。
スズ婆ちゃんは「ゆっくりしていきなさいよ」と詩音に言うと自分の部屋に戻っていった。
夏奈子は涙をティッシュペーパーで拭くと自分の部屋に引き下がった。
僕と詩音は話し合った。
詩音は前に南弐梦山に行って洞窟で二手の分かれ道があった時、追っ手を巻くためにジャンプをして足跡を消す作業をした時に足を挫いてしまった。まだ、完全には回復をしていなかったので、今日みたいな飛び蹴りは一か八かだったとのこと。
僕らは争いは好まないけれど、何もしないで一方的な防御の姿勢ではいられないし、不審者が鉄の棒を振り上げた事実は注目に値すると確認をした。つまり僕らは正当防衛に値する事をしたまでだという事だ。
「何とかして、夏奈子を守るようにしよう」という意見で一致した。
柔道部の皆の顔が一瞬頭に過ったが、大会が近いから無理は言えない。
となれば「スズ婆ちゃんが言った、先程の一言に期待を込めるしか今は道がなさそうだ」という話も出てきて、僕と詩音は同意をした。
「竣、僕の友達や知り合いの中に腕のたつ奴や、強い奴がいるから連絡をしてみる。ある人にも今回の一件について話をしてみる」と詩音は力強い言葉を僕に言ってくれた。
「ある人って?」と僕は聞き返した。
「ある人だよ」と詩音は返事をして笑った。
「ヤバイのはダメだよ」と僕は念を押して言った。
「大丈夫。連絡をしてみるだけだから」と詩音は言った。
「もう良くなったよ」と詩音は言って氷の入ったビニール袋を僕に渡すと自分の家に帰っていった。
スズ婆ちゃんが茶の間に戻ってきた。
「竣、たぶん今晩、不審者、変質者が、また来ると思うから、私の方で手筈は整えたからね。和雄爺ちゃんにも事情を話したら、和雄爺ちゃんの知り合いにも連絡をしてもらったから」とスズ婆ちゃんは言って、夏奈子の部屋に行った。
「朝早くから展開が早いとさ、時空に歪みができたりするかもね」と僕は独り言を呟いていた。
まだ、朝の7時半。「とりあえず昼過ぎまで寝るしかないな」と僕は思った。
今日1日の計画はこうだ。
この後、2度寝をして、昼過ぎに起きてから、ご飯を食べて、夜に備えるために、また、3度寝をするしかないなと思った。
僕は、腹が減ったので、冷蔵庫にあるサンドイッチを食べた。
プロティンを飲みたかったので、プロティンをコップに入れて牛乳を混ぜようと思い、あるはずだと強く思い込みながら冷蔵庫を開けた。
牛乳がない。
そうだった。さっき、牛乳を買いに行った記憶と、スキンヘッドの頭にぶちまけられた牛乳の記憶がない交ぜになっていた。
「スキンヘッドの野郎!」と僕はスキンヘッドの男を強く憎んだ。もう1度、ニタシに行く気力はなかった。
僕は水で混ぜたプロティンを持って自分の部屋に戻ると、ジョンとミッシェルは眠っていた。
疲れが一気に吹き飛ぶこの可愛いさ! キュートな姿! プリティーすぎる可愛いさ! 胸がキュンキュンするよ。可愛いよ!! と僕は思いながら窓を閉めてカギを閉めてベッドに入った。
ベッドの上からジョンとミッシェルを眺める。
『可愛い〜! 可愛いよ〜!! 可愛い子キュンキュンキュンだわ! 胸がときめくなぁ〜』と思いながらしばらく見つめているうちに眠りに落ちていった。
つづく
ありがとうございます♪




