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君の胸で眠りたい

瀬川竣くんは、超がつくほど、ものすごいハンサムで美男子なんですが、全然、鼻にかけず、明るくて、時にナイーヴで、繊細で、感性豊かな男の子です。愛する家族、彼女や友人を守るために、自ら先頭に立つ勇敢な男の子なんですよ。

 連行された変態野郎はパトカーの後部座席に警察官2人に挟まれてうつ向いて座っていた。


 玄関先の横にある花壇を越えて、庭から入ると砂利道を少し歩けば風呂場の窓の下にすぐ行く事ができた。

 

 窓には格子があり、外から中へ入ることはできない。ただ、窓の下には二脚の椅子が置いてあったことが不覚だったと今となっては後悔をしている。


 椅子は和雄爺ちゃんとスズ婆ちゃんが、のんびりと寛ぐために置いてあったものだった。椅子とオークで作られテーブルもセットとなって置いてあった。


 人間のクズの変態野郎はこの椅子とテーブルに乗り、風呂場の窓を開けて覗いたのだった。

 

 今、警察官、5人とボロボロの変態野郎が立ち会いのもと現場検証をしていた。


 残り5人の警察官のうち3人は僕に事情聴取をしていて、あとの2人は、僕が変態野郎をボコボコにして倒した場所の調査をしていた。

 

 僕は、正当防衛を警察官に伝えたし、犯人が隠れていた場所も教えた。


 犯人を取り押さえるためには勇気ある正義の行動と正しい判断だったと警察官は僕に言った。


 「ボクシングをしていたのが良かったんだね」と若い警察官に言われた。


 約40分近く現場検証を終えて警察官はパトカーに乗って戻って行った。

 

 時刻は午後9時過ぎ。僕のスマホが鳴った。母、幸子からだ。


 「はい」


 「竣、タクシーがさ、道が凄い混んでいて遅れたけれど、あと5分くらいで家に着くからね。竣、帰宅したら驚くなよ、アンド、怒るなよ」とまた、母、幸子が怪しい言葉を言ってきた。


 「ちょいと、お母さんよ、なんだい? さっきからさ、勿体ぶって。お母さん、そんなことより、大変な事件が怒って凄かったんだよ。警察官が家に来たよ」


 「どうしたの!?」


 「帰宅したら言うよ」


 「ラジャー!!」とお母さんは気合いの入った声で言って、電話は切れた。


 亜美が夏奈子の側にいて夏奈子を慰めていた。


 「夏奈子ちゃん、大丈夫だって! 強いお兄ちゃんがいるんだし、私だってすぐに飛んでいくんだしさ! 心配しなくて良いんだよ♪」と亜美が夏奈子の背中を擦りながら優しく慰め続けていた。


 「ありがとう。亜美ちゃん」と夏奈子は涙ぐみながら亜美に寄り掛かって言った。


 また電話が掛かってきた。


 「はい」


 「誰か分かるぅ〜? あたしよ、あたし。マダァンナ(マドンナ)よ、マダァンナ。嘘でぇーす! 諒子(りょうこ)よ、諒子。

 

 麻美、今から、出れるぅ? 飲みに来いよ。 待ってるよん♪ 来てよねん♪ ブホホホ」と見ず知らずの酔った女、諒子から間違い電話が掛かってきた。


 「間違って掛けていますよ」と僕はそっけなく言って電話を切った。

 

 また、電話が掛かってきた。


 「はい」


 「麻美〜、諒子の電話を切るなよなぁ! あたいの電話を切るなよなぁ! おこるどぉーっ! プンスカプンプン、プン・プン(怒)なんてねっ。ブフフフ。麻美、出ておいでよ。待ってるよ〜。はやくぅ〜、来てね〜。待ってるよ〜ん」とまた、受話器越しからもアルコールの臭いがしそうな酔った女、諒子からの間違い電話だ。


 「2度目です。間違っていますよー!」と僕は声を大きめにして言って電話を切った。

 

 なんだい! まったく。どこの諒子で麻美だよ。

 

 まただ。また電話だよ。

 

 「はい」


 「麻美〜、諒子にさ、そんなつれないことすんなよなぁ〜。おこるどぉー! プンスカプンプン、プン・プン(怒)なんてねっ。ブホホホ。麻美ちゅーん、麻美ちょーん、麻美すーん、居酒屋『ゆたんぽ』に出てこいってよう! 割り勘だから覚悟しろよ〜! アハハハハ。今さ、たのすく飲んどるよ〜。たのすく、たのすく、飲んどるよ〜。アハハハ♪」と泥酔になり掛かっている女、諒子から間違い電話がまた来た。


 「オキャクサマガ、オカケニナッタデンワバンゴウハ、ゲンザイ、ツカワレテオリマセン。リョウコサン、ツギ、コノデンワニ、カケタラ、オコルドー!!」と僕は機械の言葉を真似て言ってみた。


 「えーっ!! ウソー! マジ。機械が私の名前を言ったわ。きょ、きょわ〜い! 間違って掛けたみたいだわ」と諒子は言って電話は切れた。もう、大丈夫だろう。


 と思ったのに。


 また電話が来た。


 「おい!! いい加減に」と僕は声を荒げてスマホに向かって怒鳴ろうとしたら、


 「お母さんだよ。今、『ニタシ』の前でタクシーを降りたから、買い物してから戻るよ。なにか、欲しいものはあるかい?」と母、幸子は言った。


 僕はホッと安堵した。


 「う〜ん(さっき、ニタシに行ったばかりだしなぁ〜)あっ! そうだ! バニラ味のソフトクリームを買ってきてよ」


 「オッケイだよん!」と母は言って電話が切れた。


 スズ婆ちゃんが僕の元にゆっくりと歩いてきた。


 「竣、よく頑張ったね。何処も何ともないのかい?」とスズ婆ちゃんが心配しながら言った。


 「全然なんともないよ。最近、殴ってばかりで血が騒いでいる。気持ちを静めるのに、少し時間が掛かりそうだよ。僕の拳は凶器だからね。大事な人達を守るためにはやらなければならないんだ。まぁ、現役じゃないから出来る話なんだけどね」と僕は肩のストレッチをしながら言った。


 「婆ちゃん、家に入ろう。お母さんから電話があってね、あと5分くらいで帰宅するってさ。僕も、お風呂に入りたいから、その後に晩御飯を頂く事にして良いかい?」と僕は言った。


 「良いよ。婆ちゃん、用意しておくから、ゆっくりお風呂に入んなさい」とスズ婆ちゃんは言って家に戻った。


 「亜美、今日は色々と本当にありがとうね。また、明日ね」と僕は亜美に手を振りながら言った。


 「うん。また明日ね」と亜美はバットを肩に担いで自宅へ走りながら戻った。


 僕と夏奈子は肩を組みながら家の中に戻っていった。


 茶の間に行くと、子犬が可愛い顔をして眠っていた。


 僕と夏奈子は緊張しきった体から一気に力が抜けていった。


 「可愛い。性別は?」と夏奈子は子犬に顔を近付けながら言った。


 「女の子だよ。家は女系家族だね」と僕が言った。


 「ハハハ。確かにそうだね」と夏奈子は笑った。


 夏奈子はじっと子犬を見つめていた。手で触れたいけれど、我慢しているようだった。


 「お兄ちゃん、この子犬はどうしたの?」と夏奈子は言った。

 

 僕はゆっくりと今日1日の忙しかった出来事を話して聞かせた。

 

 夏奈子は、時おり、笑い転げたり、驚いたり、ホッとした顔を見せながら僕の話に聞き入っていた。


 「お兄ちゃんにとって、素晴らしい1日だったみたいだね。こんな日は滅多に無いから、運命の導きか、何か意味があったのかもしれないね」と夏奈子は嬉しそうに笑っていた。

 

 「そうかもね。14歳くらいから忙しくなってきたかな。 毎日、目まぐるしく日々が動いているから、本当に面白いよ。ある意味、美華ちゃんに出逢ってから、僕の人生が動き出したような気がするんだ」と僕は美華ちゃんを思い浮かべながら話した。


 「それは本当に素敵なことよね」と夏奈子は感心しながら言った。


 子犬が、ビクッと体を大きく動かして目を開けた。


 「あらまっ!? 起きたの? どうちたの? ビックリちたの? 大丈夫でちゅよー」と僕が言ったら、子犬はまたゆっくりと目を閉じて眠ってしまった。

 

 お母さんもこの可愛さを見れば、反対はしないだろうと少し僕は気が大きくなっていた。


 ペットロス症候群、まだお母さんが引きずっている気持ちが、僕にも痛いほどよく分かる。

 

 ジェイミーとキャル(以前飼っていた2匹の犬の名前)を愛情をもって育ててきたんだし、最後までしっかりと面倒を見てきたのだから、2匹の犬は幸せだったはずだ、という自信に変えていかなければならないんじゃないのかな? と僕は思い始めていたんだ。


 お母さんは僕の気持ちを理解してくれる時が来たのだ。


 玄関の開く音がした。


 「ただいまぁ〜っ! 帰ってきましたよっ! あーっ、疲れた、疲れた。ここがお家でしゅよ。ねぇ、疲れたでしゅねぇ〜♪」とお母さんが独り言を言言いながら茶の間に入ってきた。


 「わん!」と鳴き声が聞こえた。


 「うん? なんだよ?」と僕は夏奈子に返事をした。


 「えっ? なにが?」と夏奈子は不思議そうな顔を僕に向けていた。


 また起きたと思って僕と夏奈子は子犬を見たが、スヤスヤと可愛い顔をして眠っていた。天使の寝顔とはこの事で本当に癒されてしまう。


 「鳴き声がしなかったか? 疲れから来る幻聴だな」と僕が笑いながら夏奈子に言ったら、夏奈子も「お兄ちゃん、いつになく本当に今日は疲れたもんねぇ」と笑いながら言った。

 

 お母さんの右手には屋根が水色の犬用のケージを下げて慎重に持っていた。ケージの中には可愛い子犬がいた。


 僕と夏奈子に向かって、何度も「わん、わん、く~ん、く~ん」と甘えた鳴き声を出していた。





つづく


ありがとうございました!

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