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【第75話】温かな食卓と掃除屋の裏の顔

いつも本作を読んでいただき、本当にありがとうございます!


前回は仮面に仕込まれた発信器の逆利用、そして敵幹部リタがユーリだけに送りまくっていた「多すぎる定期連絡」が部下たちにバレて大騒動になるお話でした。


さて、今回は激闘をくぐり抜けた一行の、束の間の休息と作戦会議です。

お風呂上がりに用意されていたのは、ユーリの分だけなぜか桁が一つ違う超高級ブランド特注服……!?

温かいポトフを囲んで仲間たちの絆を確かめ合う中、ロキシーの分析によって「大賢者メリッサの無事」が論理的に証明されます!


そして、敵の究極兵器『アストラルコア』の全貌と、メリッサ救出の鍵を握るあの恐るべき掃除屋――『ハリス店長』の驚愕の裏の実績とは!?


ほっこりする食卓と、知略が冴える作戦会議をどうぞお楽しみください!

それでは、どうぞ!


 地下の隠れ家に備え付けられた浴室で、順番に泥と汗を洗い流した一同。

 先に風呂から上がった女性陣は、それぞれ用意されていたシンプルな部屋着に身を包み、タオルで濡れた髪を拭きながらソファで寛いでいた。

 奥の更衣室の扉が開き、着替えを終えたユーリが姿を現す。


「おー、にーさん! その格好、よー似合っとるやんか!」


 ディアナがタオルを肩にかけたまま、パチパチと手を叩いた。

 身に纏っているのは、深い黒を基調とした上質なシャツと、動きやすそうな仕立ての良いパンツだ。サイズも肌触りも申し分ないが、ユーリは首を傾げた。


「……これ、男物だよね。どうしてこんな場所に予備があったんだ?」


「そういえば、あたしたちの服もピッタリだったわね。よく用意があったわね」


 キャシー姉がヒョウの耳をパタパタと動かしながら、自分のゆったりとしたシャツの裾を引っ張る。シエラ姉も白銀の髪を梳かしながら、自らの袖口を見つめた。


「うむ。私の肩幅や丈にも寸分の狂いがない。あらかじめ我々の体格を測っていたかのようだ」


「あー、その服、二日くらい前にここに届いたっすよ」


 ロキシーが乾かした髪を整えながら事も無げに答えた。

 ユーリたちが顔を見合わせると、ディアナがニヤリと笑った。


「リタ姉が送ってきたんや。あの時はなんでこんなもん送ってくるんやろと思ったけど……さすがは姉御ってとこやな」


「リタが……?」


 ユーリが呟くと、ロキシーが立ち上がり、ユーリの着ている服をジッと至近距離から観察し始めた。


「それにしても……にーさんの服のサイズ、完璧っすね。しかもこれ……」


「そうやな」


 ディアナが腕を組んで頷く。


「それ、帝都の超有名ブランドの特注品や。ウチらも含めて、ここにいる全員の服を合わせても、にーさんの服のほうが桁一つ高いわ」


「あからさまな差別っすね」


「ちょっとぉぉぉっ!?」


 キャシー姉がソファから飛び起き、尻尾を逆立てて叫んだ。


「なんで敵の幹部がユーリの服のサイズ完璧に把握して最高級品送ってきてんのよ!? あたしたちの服は普通の仕立てなのに!」


「……ふむ」


 シエラ姉が真面目な顔で腕を組み、静かに頷いた。


「妻である私ですら、まだユーリ殿の正確な採寸を終えていないというのに……実に抜け目のない女だ。後で厳重に抗議せねばならんな」


「だからそっちのツッコミじゃないってば!」


 キャシー姉の絶叫が響く中、ユーリは苦笑しながら袖をまくった。




「はいはーい、ご飯できたっすよ!」


 ロキシーとディアナが手早く調理し、テーブルの上に湯気の立つ大鍋とパンが並べられた。

 野菜と干し肉がたっぷり入った具だくさんのポトフ。香ばしく焼き上げられた硬焼きパンと、サザンクロス名産の柑橘系フルーツの盛り合わせだ。


「わぁ……美味しそう!」


 キャシーが目を輝かせ、さっそく木製のお椀にポトフをよそう。

 五人でテーブルを囲み、温かいスープを口に運んだ。


「はぁ〜……生き返る〜!」


 キャシーが頬を緩ませ、幸せそうに尻尾を揺らす。

 シエラ姉は姿勢を正し、パンをスープに浸しながら上品かつ豪快に平らげていく。


「うむ。長旅と戦闘で消耗した体力に対し、実に合理的な栄養補給だ。ユーリ殿、スープのおかわりはどうだ? 器を渡してくれれば私がよそおう」



「ありがとう、シエラ。でも、まずは自分の分をしっかり食べて」


 ユーリが微笑むと、シエラは嬉しそうに頷いてパンを口に運んだ。

 冷たい雨の中での過酷な死闘から一転、仲間たちと囲む温かな食卓。

 ユーリは上着の胸ポケットにそっと手を当てた。生地越しに伝わる、手のひら大の水晶球のひんやりとした感触。

 この温もりを、必ずあの大賢者にも取り戻す。ユーリは静かに決意を固めた。




 食後の温かいハーブティーが行き渡ったところで、ディアナがコホンと咳払いをした。

 テーブルの上に、サザンクロス全域の地図が広げられる。


「さて。落ち着いたことやし、今後の作戦会議に入ろうか。まずは『アストラルコア』についてやな」


 ディアナの引き締まった声に、ユーリもティーカップを置いて身を乗り出した。


「ああ。敵の狙いと、あのコアの正体を知りたい」


「アストラルコアは、帝都が極秘開発した超高密度エネルギー変換装置や。けどな、あれは単体では絶対に動かへんのや」


「単体では動かない……?」


 ユーリが問い返すと、ディアナが指を二本立てた。


「そうや。サザンクロスの研究所で作られた『ソラリスコア(陽光核)』は、莫大な生体・空間エネルギーを無尽蔵に吸い上げる励起ユニット。けど、それだけじゃただの暴走炉や」


「なるほど」


 シエラが鋭い眼差しで頷く。


「吸い上げた莫大なエネルギーを制御し、出力として定着させる中枢が別に必要ということか」


「その通りやシエラ姉! その制御ユニットが『アビスコア』や。この二つが物理的・魔導的に結合して初めて、『アストラルコア』として起動するんや」


「つまり……」


 ユーリが地図の一点を指さす。


「ゴードンやベルガーが奪ったソラリスコアを使おうと思ったら、必ず『アビスコア』が必要になるわけか」


「せや。片方だけじゃ何の役にも立たん。けど……その『アビスコア』が今どこにあるのか、ウチらにはまだ詳しい情報が入ってきてへんのや」


 重苦しい沈黙が落ちかける。

 すると、ディアナが真剣な表情で全員を見渡した。


「さて。多分、みんなが一番聞きたいことやと思うけど……『封魔晶球』のことや」


 その言葉が出た瞬間、ユーリ、キャシー、シエラの空気が一変した。

 身を乗り出し、全員の視線がディアナへと集中する。


「……そ、そんな期待するような目で見んといて」


 ディアナが冷や汗を流して視線を泳がせた。


「……実は、ウチらもよう知らん」


「「「どういうことよ(だ)」」」


 キャシーとシエラの目がスッと細まり、鋭い眼光が突き刺さる。ユーリも思わず眉をひそめた。


「む、無茶言いな! あの魔道具は帝都のおそらく最高機密レベルの代物や! 一介の構成員が知っとけっちゅーほうが無理やろ! ……おいコラ、ロキシー! あんたもウチと同じやのになんで一緒に睨んどんねん!」


「あはは、そうっすね」


 ロキシーが苦笑いしながら手を振った。


「ウチらは詳しく知らないっすけど、いくつか予想がつくことと作戦があるっすよ。まず一つは――おそらく、大賢者は生きてるっす」


「本当か!?」


 ユーリが思わず立ち上がり、テーブルに両手をついた。

 ロキシーは慌てて両手を前に出して宥める。


「『おそらく』って強調させてほしいっす! 確証はないっすからね。でも、理由は二つあるっす。一つは、あの封印球が照射された時のエネルギーの流れっす。球体の中心に向かって一気にエネルギーが収束して、空間を巻き込むような現象が起きてたっす」


「空間を巻き込む……?」


 キャシー姉が不思議そうに首を傾げる。ロキシーが頷いた。


「帝都で最近発表されたばかりの理論――『空間歪曲収縮技術(フォールド・コンプレッション)』が使われてると考えて間違いないっす。つまり、空間そのものを折り畳んで、次元の狭間に対象物を転換させて閉じ込める技術っす。――って、聞いてるっすか先輩!?」


「へ? ウチ? ……た、確かにちょっと寝てたけど」


「寝てたんかい!」


 キャシー姉がすかさずツッコミを入れる。

 ディアナがバツの悪そうにポリポリと頭を掻いた。


「難しい話は苦手なんや! もっと簡単に説明してや!」


「要するに!」


 ロキシーがため息をつきながらユーリたちに向き直る。


「この技術は対象物を極小の閉鎖空間に閉じ込める技術であって、物質を破壊したり消滅させるものじゃないってことっす!」


「なるほど……。生きたまま隔離されている状態、ということか」


 ユーリが胸の水晶球に触れながら呟く。ロキシーは力強く頷いた。


「そうっす。そしてもう一つの理由は、もし殺害が目的なら、あんな手の込んだ装置を使う必要がどこにもないってことっすよ」


「確かにそうだな」


 シエラが冷徹に分析する。


「人体を効率よく破壊する兵器なら、帝都には他にも破壊力に特化した魔導兵器が無数にある。わざわざ一発限りの貴重な魔石カートリッジを消費してまで使う代物ではない」


「その通りっす、シエラ姉! よっぽど生け捕りにしたい理由があったんすよ」


「そして、ここからが肝心や!」


 ディアナがパッと目を覚まして身を乗り出した。


「じゃあどうやってこの封印を解こうかっちゅうことや。そこで『アビスコア』や!」


「アビスコアを……?」


 ユーリが問いかけると、ディアナはニヤリと笑った。


「そや! あいつらより先にアビスコアを奪取するんや! あいつらにとって喉から手が出るほど欲しいアビスコアを握れば、メリッサの姉御を解放させるための最強の交渉材料になる!」


「なるほど……! コアを人質ならぬ、物質(ぶつじち)にするわけね!」


 キャシーがポンと手を叩く。

 シエラ姉も刀の柄に手を当てて頷いた。


「相手の目的を逆手に取る知略、理にかなっているな」


「そやろ? 要は、ウチら『大盗賊団』の結成っちゅうことやな!」


 ディアナが得意げに胸を張る。

 だが、ユーリは冷静に核心を突いた。


「でも……そのアビスコアがどこにあるのか、手がかりはあるのか?」


「うーん……ないことはないんやけど……なぁ」


 ディアナが急に歯切れ悪くロキシーへと視線を向けた。

 ロキシーも気まずそうに視線を泳がせる。


「そ、そうっすね……。あることはあるっていうか……街を自由に行動できない今の現状では、あの人に聞くしかないっすかね……」


「誰なの? なんかめちゃくちゃ乗り気じゃないけど」


 キャシー姉が怪訝そうに眉をひそめる。

 ロキシーはおずおずと口を開いた。


「……ハリス店長っす」


「ハリス店長!?」


 ユーリとキャシーが同時に声を上げた。


「タートル清掃会社のハリス店長か?」


「ああ、そや。昨夜の会場でも会うとるやろ。あからさまに敵やなくて、『アビスコア』の在り処を知ってそうな人物は、あのおっさんしかおらんやろな」


「私には理解できんが」


 シエラが怪訝そうに腕を組む。


「なぜ一介の清掃業者が、帝国の最重要機密に当たる情報を握っているのだ?」


「なんや、自分ら知らんかったんか。あのおっさん、グランデールで一番の組織――『黒甲機関《こっこうきかん》』の凄腕を束ねとる幹部クラスやぞ」


「あ……」


 ユーリは思い当たった。グランデールで事件が起きるたび、冴えない掃除屋を装いながら裏で圧倒的な情報収集と制圧を行っていたハリスの姿を。


「そうっしょ! 実はあっしら、グランデールの『白亜の塔』の作戦の時、ハリス店長の情報も探るように軍から言われてたんすよ」


「それで、何か分かったの?」


 キャシー姉が尋ねると、ディアナが顔を引きつらせた。


「それが全っ然! あそこの組織、めちゃくちゃデカいうえに従業員の戦闘能力が異常に高いんよ。帝都の精鋭部隊レベルやな、あれは」


「情報を探るどころか返り討ちにあって、あっしら何度か死にかけたんすよ!」


「えげつなかったよな! ウチらが組織から借りた最新鋭の魔石装備の武器を、子供のおもちゃみたいに壊しよって! おかげであの後の組織への損害賠償金、めちゃくちゃかかったし!」


「あっしは表向き帝都からの公式な客人扱いになってたっすから直接の被害はなかったっすけど……めちゃくちゃ怖かったっす」


「『情報入手困難なら組織を壊滅させてこい』って軍の正式命令やったけど、絶対無理! 裏でのサポートも皆無やったし!」


 ディアナとロキシーの生々しい愚痴に、シエラ姉が目を見張る。


「あの冴えない男が……それほどの怪物を束ねていたとはな」


「でも反対反対! 絶対反対!」


 キャシー姉が両腕で大きなバツ印を作った。


「あのおやじ、昨夜ユーリを突き飛ばした上に、わざと防犯ゲートを作動させたのよ! おかげで敵を取り逃がしたじゃない!」


「あれっ? キャシー姉、気づいてないんすか?」


 ロキシーが目を丸くした。


「にーさんを突き飛ばしたのは、敵の水晶の攻撃から逃がすためっすよ」


「えっ……!?」


「そうやな」


 ディアナが頷く。


「確かにゲートをわざと作動させたけど、あれ、あのまま追ってたらあんたら本当に全滅してたで。相手さん、なんか色々ヤバい罠を準備しとったみたいやからな」


「さっきの仮面といい、おそらく万全の態勢でユーリ兄さんたちに罠を張ってたと思うっすよ」


 ユーリの脳裏に、昨夜の地下通路が鮮やかに蘇る。

 逃げる賊が背中から放とうとしていた禍々しい気配。そして、間一髪で自分を突き飛ばし、ゲートを閉鎖したハリスの冷徹な瞳。

 ハリスは最初から敵の罠を見抜き、ユーリたちの命を救うためにあえて泥を被ったのだ。


「……ハリス店長は、助けてくれたんだな」


 ユーリが静かに呟くと、キャシーもバツの悪そうに耳を伏せた。


「そ、そうだったんだ……。疑っちゃって悪かったかな……」


「じゃ、ハリス店長にアポ取ろか」


 ディアナが立ち上がり、大きなため息をついた。


「提案しててなんやけど、めちゃくちゃやる気出えへんわ」


「あのおっさん、めちゃくちゃ怖いっすからね……」


 ロキシーも肩をすくめる。

 だが、メリッサを救い出し、アビスコアを奪還するための道筋は一本に定まった。


「行こう」


 ユーリが立ち上がり、力強い瞳で仲間たちを見渡した。


「ハリス店長に会って、話を聞こう」


 サザンクロスの闇に潜む最強の掃除屋との、危険な知恵比べが始まろうとしていた。



第75話をお読みいただき、ありがとうございました!


リタのあからさまな服の贔屓っぷり……キャシーの絶叫とシエラの「採寸がまだだった」という真顔の悔しがりが最高でしたね(笑)。

そして何より、ロキシーの冷静な分析によって**「メリッサは確実に生きている!」**という確証が得られたのは、ユーリたちにとっても読者の皆様にとっても大きな希望となったのではないでしょうか!


しかし、アビスコアの情報を握るのは、あのグランデールの掃除屋・ハリス店長。

第1部でディアナとロキシーを赤子の手をひねるように返り討ちにし、最新鋭兵器をおもちゃのように破壊したという過去……あのおじさん、強者すぎます!

昨夜ユーリを突き飛ばしてゲートを閉めたのも、敵の即死トラップから救うためだったと判明し、疑いが晴れたキャシーのちょっと気まずそうな様子も可愛らしかったですね。


次回、第76話『不可視の射線と鉄壁の巨影』!

ユーリたちの知略が試される、息詰まる激闘をお見逃しなく!


【読者の皆様へのお願い】

「メリッサ様が生きてて本当によかった!」

「リタの服の贔屓に笑った」

「ハリス店長強すぎて頼もしい!」

など、少しでも楽しんでいただけましたら、


ページ下部にある**【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価**していただけますと、ランキングを駆け上がる凄まじい力になります!

(皆様の評価星とブックマークが、毎日の執筆を続ける最大のエネルギーです……!)



次回は明日18時40分頃更新します。

もし面白ければブクマ・★評価で応援お願いします!

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