15.入隊
1章 終了。
看護師が去り、ベッドに寝転がった有里と無月。
彼女らは、患者である。
医師の診断なくして、勝手に出てわいけない。
診断時間が来るまでの間、安静に待機を余儀なくされた。
「うぅ〜、体がむずむずする〜」
しかし、数分経たずして、シーツの上で有里は体を動かし始めた。
横のベットに座っていた無月は、睨んだ。
「こら、じっとしなきゃ」
「暇なの〜」
有里は子供の如く体を揺らす。
無月は、その行動を見て溜息を吐く。
「ホント、自由気ままなんだから」
「いや〜それほどでも」
「褒めていません」
無月は、ベットの布団に入り瞼を閉じる。
定期的になる心電図音のみが響く病室に、
彼女はうたた寝を行った。
しかし、
「やっぱり痒いよ〜〜」
有里の行動は、止まらない。
布の擦る音が周期的に鳴り響く。
それが雑音となり、無月も、苦悶な表情を浮かべた。
数秒我慢したが、限界だったのか無月は布団から出る。
そして、しかめ面で有里の方に寄った。
「…もう。何処が痒いの?」
有里は、瞼を大きく開き笑顔になる。
そして、背中を有里の方に向き、人差し指で指し示した。
「ここ!かいて!」
しかし、有里の期待とは違い、無月は首を横に振る。
「しないよ。
私は、原因の箇所を見て、確認するだけ」
「もしもがあると怖いし」と言い、無月は、両手を有里の背中に触れた。
すると、背中から微かな青光を放つ。
そして、体に線のように広がり始めた。
有里は、「お〜」と思わず口から漏れた。
「流石無月の魔法。万能だね」
「そうゆうのは後からでいいよ。
…詳しい所まで分かる?」
有里は、眼を閉じ身体を止めた。
異常な箇所を皮膚で感じ取るため、集中していた。
数秒、静寂の後、有里は眼を開き、顔を上げる。
「言葉が難しいだけど、体の中?かな」
無月は、片目を少し閉じ首を傾けた。
「体の中?」
「うん、丁度無月が触ってる場所の奥」
有里の問いに、無月は、顔を下げ両手に力を入れる。
すると、青光が肌を貫通し、体の血管などが浮き出てきた。
有里は口を開き、体を四方左右見る。
不思議な感覚に、感嘆した。
「光人間みたい」
「ちょっと静かにしてね」
集中してるのか、無月の視線は変わらない。
「は〜い」
有里の体から、光が発すること数分。
無月は、両手の力を緩ませ、青光を弱めた。
そして、背中から手を離す。
「…有里」
「何〜?やっぱり怪我がまだ治ってない?」
無月の表情に変化はない。
しかし、目を地面に視線を向け、考えていた。
有里は、何かを隠すための自問自答に見えた。
想像以上に深刻な顔をしている無月に、有里は、不安げな表情をする
「ねぇ、怖いんだけど…」
無月は、反応をしない。
静寂が流れた。
有里は、唾を飲み込み、審判の時間を待つ。
彼女にとって、不安な時間だろう。
数秒後、無月の視線が向いた。
感情のない顔が笑顔になる。
「かくの我慢して」
「えっ!?やっぱり異常なことあった!?」
有里は、涙を溜め、両手で自分を抱きしめた。
恐怖で体は震えていた。
その反応を見た無月は、口を開き、放心する。
だか、すぐに笑顔へ変わった。
「ないよ、あれは別の病気があるか考えただけ」
「私の診断は、そこまで万能じゃないからね」と、言う無月。
しかし、
「いやいや!?嘘じゃん!」
有里は頭を横に激しく振る。
彼女自身、あの行動を見て信用できなった。
無月は、口角を上げ、頬を緩ませる。
それは、相手安心させるような柔らかな笑みだった。
「本当だよ?有里の推理通り、傷が残ってて痒くなってるだけ。すぐ治るから」
「…本当?」
無月は頷く。
「うん。本当だよ。」
その言葉を聞き、有里は、溜息を吐いた。
彼女は、胸の奥が軽くなるのを感じた。
「怖いんだから、辞めてよ〜」
「ごめんね。分かりにくい場所にあったからさ?」
無月は、有里の横に座る。
そして、人差し指を有里の体に向ける。
「けど、本当にかかないでね?また、傷が開いたら治りが遅くなるからね。」
その言葉に、有里の口角は上がる。
「はい。無月先生」
「先生じゃありません」
そう言い、彼女らは微笑んだ。
両者は、日頃のコントを行った。
有里がボケて、無月がツッコむ。
いつもの日常に戻ったことを実感を噛み締めていた。
そんな時だ、病室の扉から声が鳴り響く。
2人は、そこに視線が向く。
「ーーーーい!」
扉が音を遮断しているせいか言葉までは聞き取れない。
しかし、通常の音程からかけ離れた音が聞こえた。
「珍しいね」
「うん、なんだろう?」
状況が不明だ。
しかし、声の音量が先程より変化した。
加えて、数人の足音が聞こえる。
「ーーーーください!」
段々と、声の音量が上がり始め、言葉が聞こえ始めた。
「ーーーーまだ…ですよ!?
認められません!!」
「さっきの看護師だね」
「なんか、焦ってる?」
有里と無月は、先程叱っていた女看護師だと分かった。
そして、明らかに病室の扉の前で、話始めた。
「ここには、患者がいます!通しません!」
「看護師さん。貴女の気持ちも理解できます。
しかし…これは国の命令です。通らせて頂きます」
病室の扉が開く。
病院内の照明の光により、昼白色が病室に反射する。
そこには、黒服を着た数人の男女と、
「と、止まりなさいっ!」
その黒服の男性を掴み、引き摺られた看護師がいた。
「ど、どうしたんですか!?」
「看護師さん大丈夫?」
有里は、この状態に反応した。
無月も、看護師の安否を心配した。
看護師の視線が2人に向く。
「っ!貴女達には関係ありません!!安静にしてなさい!!」
「いえ、それは困ります。此方の用事が終わっておりません」
黒色の短髪。
そして、服からでも分かる筋肉質な体の男性が会話を遮った。
看護師も反応し口を開く。
「用事は後日にして下さい!何度も言ってますが、彼 女等はーーーー」
「失礼」
しかし、途端に膝の力が抜ける看護師。
膝が地面に着き、前から倒れ始める。
「看護師さん!?」
咄嗟に体が動く有里。
しかし、黒服の男性は、看護師を受け止める。
有里は、一息吐いた後、男性を非難した。
その表情は、怒りを堪えきれなかったのか、顔に怒気を浮かべていた。
「何したの!?」
「話がままならなかったので、気絶させました。
怪我はありません」
黒服の男性は、看護師を両手で抱きかかえ、ベットに寝かした。
「どうゆうつもりですか?荒浪さん」
しかし、もう1人怒りの表情を浮かべている人がいた。
無月だ。
目を細め、黒服の男性荒浪を睨みつけた。
彼女のプレッシャーが肌に突き刺さり、嫌悪な空気が生まれる。
荒浪も反応した。
「言った通りです、神楽坂さん。 用事があり、来た次第です」
荒浪は、無月のプレッシャーに意を返さず、目の前に立つ。
2人の間に火花が見えるように感じる。
有里は、無月に近づき、小さな音量で呟く。
「無月の知り合い?」
無月は視線は変わらず、頷く。
「この人、異界防衛隊の偉い人
会社の役職で例えると、部長クラス」
「部長クラス!?」
無月の発言に反射的に視線を荒浪に向けた。
荒浪も、彼女に向けた。
「貴女が、綾瀬 有里さんで間違いないですか?」
「はっはい!」
彼女は、素っ頓狂な声で反応する。
緊張もしてるのか体が震えていた。
しかし、有里の緊張を気にせず荒波は話し始めた。
「私は、異世界防衛隊所属 荒浪 力と申します」
「は、始めましゅて!?」
彼女は右手を荒波に出す。
荒波は、表情を変えず
「はい。始めまして」
右手を出し握り締めた。
「先程のご無礼申し訳ございません。
今回、無礼にも参ったのには理由がございます。
ーーーー綾瀬 有里さん。
貴女に日本国からの指令が来ております」
「日本国からの指令!?」
荒波の言葉に、有里は大きく口を開き硬直した。
無月も眉を上げる。
有里は、驚嘆しているのか、ピクリとも動かない。
荒浪は、話を続けた。
「その通りです。今読み上げます」
後ろから、書類を持った黒服が近づいてきた。
それは、賞状に似た紙に見える。
荒浪は、賞状を受け取り広げた。
それを見て無月は、目を開き驚嘆する。
「どうしてそれを!?荒浪さん!!」
今日一番の音量に、硬直だった有里も意識が戻る。
「っむ、無月?」
無月の反応が異常だった。
日頃穏やかな彼女が、ここ迄の声を出すのは珍しい。
それはひとえに、相当なものだと察せれる。
荒浪は、目を伏せた。
「すみません。神楽坂さん。
今回の事件、貴女の供述に意味があり ませんでした」
「っ!!」
無月は、奥歯を噛み締め、両手を強く握り締めた。
我慢しているのか顔の血管が浮き出ている。
荒波は、無月の反応を無視し、有里に視線を向けた。
そして、賞状を読み上げる。
「ーーーー綾瀬 有里殿
貴殿を無魔法保持者と認定し、異世界防衛隊に入隊することを命ずる。
以上です」
荒浪の言葉に、再び硬直する有里。
しかし、直ぐに終わり、
「…えええええええええええええぇぇ!?」
病院内に、再び驚嘆の声が鳴り響いた。




