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異世界防衛隊  作者: とも
さよなら高校。ようこそ異世界防衛隊へ。
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9.死に際の選択

 数秒、時が止まったように直立不動だった有里は、口を開いた。


「....対価は?」


話に乗った有里をソウルは、微笑えんだ。


『あら。乗り気だとは思わなかったわ』


「どうせ、不幸な契約結ばれるんでしょ?」


『そうよ』


 ソウルはその言葉に肯定した。

彼女は、俯き溜息を吐く。


「だったら、先手を打って少しでも交渉の台に乗らないとね」


ソウルは、口を開く。


『....いつにも増して冷静ね』


「そりゃあね?1日で此処まで起きると冷静にもなるわ」


 有里は、両手を広げ自虐的に笑った。

高校卒業、無月との別れ、異世界人の攻撃。

ーーそして自分の死。


 非現実的な出来事が、怒涛のように押し寄せた一日だった。

有里も、思う所はあるようだ。


 しかし、自嘲は長くは続かない。

タイムリミットが間近なのか、少しずつ周辺が崩壊してきていた。

有里は、ソウルを見る。

その眼は、闘志を握り、熱く、そして激情を滾らせていた。


「難しいのは、私は苦手。

ーーだから、条件は1つ」


『....』


人差し指を突き出す。


「無月を安全にこの山から下山させる事

ーーそれが交渉として絶対」


有里の思いは、音無神社で襲われた時と変わらない。

無月を助ける。

それだけは、彼女にとって最優先事項だった。

ソウルも、口を開く。


『....了解よ』


返答は了承。

有里は、顔が少しだけ緩んだ。


「....本当?」


『ええ。

ーーただし、貴女の体、頂くわよ?』


ソウルは邪悪に笑う。

対価として、破格の権利。

体の譲渡だった。


「いいよ」


迷わずで決める有里。


『ええそうでしょう。少しは躊....躇

....調子狂うわ』


 ソウルは、肩を落とし、片手を額に抑えた。

想像の斜め行く有里に対応出来ていなかった。

加えて、顔を急上させた有里。


「あ、もう一つあった!」


『ハァ....今度は何?』


先程とは打って変わり、有里の目は輝やいている。

そして、頬が少しほてっていた。

ソウルは嫌な予感がした。

彼女の勘は正しかった。


「ねぇ!貴女は、斬⚪︎刀?それとも呪⚪︎?もしくは、尾⚪︎!?」


『どの場面を見てそう思ったの!?』


ソウルの甲高い声が響く。

変な質問が来ると思わず、思わず突っ込んでしまった。ソウル。


しかし、有里の暴走推理は止まらない。


「え?こんな無茶な契約してくるんだよ!?

絶対化け物級の存在じゃん!!」


『貴女、漫画の見過ぎでしょ!?私は、大層な存在じゃありません!』


「え〜!?」


彼女は、膝を曲げ肩を落とした。

ソウルも思わず溜息を吐く。


『そもそも、そんな化け物だったら意思関係なく貴女の身体を乗っ取ってるわよ』


「....そうかも」


『はぁ〜....』


何度目か分からない溜息を吐いたソウル。


『いいの?』


「何が?」


『私貴女の体奪う気満々よ』


問われた有里は、首を傾げる。


「悪い事するの?」


『する気よ』


「無月いじめる?」


『それはしないけど』


「ならよし!」


『何処が?』


 有里の論理的回答がない納得にソウルも首を傾げた。

無月は、笑顔で答えた。


「だって無月助けてくれるんでしょ?

なら、大丈夫!」


『それは契約で』


「嘘でしょ」


『え?』


「不利益な契約をできるのに、体を奪うことが出来ないなんておかしいでじゃん。」


静寂がなる。

 ソウルも何もせず、接触したわけではない。

有里の性格や日常。

あらゆる情報を、この瞬間のために徹底的に集めてきた。

自分勝手で泣き虫。

長所として趣味がある事はとことん突き進んでいく頭のネジが飛んでいる少女。

それが、情報収集したソウルの結論だ。

 しかし、今回は違う。

馬鹿ではあるのだろう。たが、聡明だ。

自分の状況を理解し、目的の為なら全てを投げ出す度胸。そして決断力。

普段とは違う彼女に翻弄されていた。


ソウルは、咳払いをした。


『そんな事気にしなくていいじゃない。

話を戻すわよ。

私が求めるのは3つ

ーー1つ 貴女の体の譲渡をする事

ーー2つ 私の封印を解く事

ーー3つ 私の事を誰にも言わない事

以上よ』


有里は手を挙げる。


「はい!ソウル先生!」


『はい、有里ちゃん』


「体を譲渡するのに封印を解くの矛盾してない?あと、喋れなくなるよ?私。」


『いい質問ね。答えたい所だけど

ーー時間切れみたい』


「え?」


 世界が闇に侵食された。

半透明だった世界は、どんどん暗くなる。


『貴女、死に近すぎた見たいね。 終わりが来てるわよ。 まぁ、ここまで時間があったのが奇跡だし。』


 有里の体が沈んでいく。

抜け出そうと体を動かすが、泥沼のように抜け出せない。


「沈む!?」


『時間がないわ。さぁ、有里。返答は?』


有里の選択はーー



















 沈む世界の中、ソウルの声がはっきりと響いた。


「ーー契約、成立よ」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 橙色が空一変に染め上げている中、無月とミシェルは話を続けていた。

しかし、先程と違うのは、


「無月ちゃ〜ん、おーい」


「....っ何?」


返答が遅くなり始めた無月がいた。

目の挙動もおかしくなってきている。


1時間30分。

 無意識の魔法で生きながらえていた彼女は、とうとう、魔力切れになりかけていた。

彼女の体は、刻一刻と死に近付きつつある。


その横で座っているミシェルの顔は、無表情で彼女を見ていた。


「まだ....いけるかい?」


「いけ..っ..るよ」


 ミシェルの問いに、意識が不安定な無月は笑顔で返した。

ミシェルは、少し微笑む。


「....そっか。けど、辛そうだし、おじさんの昔話をしよう。」


彼は、徐に顔を空に向けた。

先程の雰囲気とは違う、少し重たい空気だった。

そして、ミシェルの口は開く。


「おじさんね。娘がいたんだ。」


「妻も早く亡くなって、男1人で娘を育てていた。」


「泣いてばかりの娘にとんと困り果てたよ。

....けどね、時折見せる笑顔に何もかも吹っ飛んだ。」


彼はいつの間にか笑顔になっていた。

昔を懐かしんでいる様だ。

彼にとって、その記憶は鮮明に輝く宝だったのだろう。


「娘が幸せに暮らせる様に死に物狂いで働いてたよ。」


「けど、その幸せの暮らしはすぐ終わったんだ。」


「不慮の事故で娘が行方不明になってたよ」


「おじさんも探したよ?けど、何年経っても影も形も不明なままさ。」


「それから時が流れて、97年経っちゃった。」


「....つら..い..ね」


無月の微かな返答が返ってきた。

下に向けるミシェル。

あの時の時間を思い出しているのか、乾いた笑みをした。


「ああ、辛い」


「けど、娘はきっと何処かにいる。だから悲しくないんだ。」


「無月ちゃん。おじさんね、天国や地獄なんて信じていない。」


「けど、生まれ変わりは信じてるんだよ。」


 「ま、実証はないけどね」と呟くミシェル。

これは、ミシェルの思いなのだろう。

天国か地獄が実在するのかは不明だが、彼の娘が幸せになっている事を今尚願っているのだ。

しかし、今回は彼の娘だけではない。


「だからさ、悲観はしないで欲しいな。辛いけど、生まれ変わって元気に生きてると思うからさ。」


死に近付ついている無月にも言ってる様に聞こえた。

無月も、微かに微笑んでいた。

しかし、先程の返答で喋る気力もない。

既に、呼吸もか細くなってきていた。

消える瞬間が間近になっている証拠だった。


彼女の状態を知ってかミシェルは、静かに剣を抜き、目を閉じ、天に掲げた。

彼の、最大の誠意なのだろう。


無月の呼吸音だけが音無神社に聞こえる。

しかし、段々と小さくなっていき、




呼吸が止まった。




 未だ、肌寒い風が靡く春の月。

橙色が空を塗りつぶした、音無神社に横たわる少女 神楽坂 無月は。




この地を旅立った。




「ーー良い旅を」



ミシェルが無月に呟いた。

それは、彼なりの弔いの言葉だった。

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