40話 救い出された者達
「あっ!、来た来たっ!、……サラ〜んっ!、コンく〜んっ!」
「マーラさんっ!」
グリーミーの埋葬を終え屋敷の広間へと入って来たコンとサラの元にマーラが喜びの表情を浮かべて駆け寄って来た。
その横には弟のアレクの姿もあり、他の攫われた者達も意識を取り戻し皆この広間へと集まって来ていた。
「ほらっ!、この人がさっきのグナーデさんと一緒にあなた達を助けに来てくれたサラさんとコン君だよ。早くお礼を言いなさい、アレク」
「ぼ……僕達を救ってくれてありがとうございます……。よく覚えてないんだけど助けてくれようとする皆さんに僕は危害を加えるようなことまでしたみたいなのに……」
「それは敵に操られてたんだから仕方無いよ。勿論アレク君だけじゃなくて他の人達もね。だからもうそのことは気にせず元の生活に戻ってまたマーラさんと楽しく暮らしてあげて。その方が僕達も嬉しいから……ねぇ、サラさん」
「ええ。コンの言う通りあなた方が罪の意識を感じる必要はありません。……ただグリーミーがあなた方に憑依させた悪霊達が生まれたのにはあなた方がこの地に抱いていた負の感情にも原因があります。また長く人の手が行き届いていなかったこともあまり良いことではありません。一応後で一通り回って屋敷の負の霊力を浄化しておきますが今後はあなた方の方で定期的に屋敷の手入れを行ってください。できれば誰かこの地に移り住んでいただくように……」
「分かりました。本当に何から何まで申し訳ありません……。昨日サラさん達とグナーデさんが村に来てくれなかたっら今頃私達はどうなってたことか……。一生を掛けても感謝し切れるものじゃありませんっ!」
「そんな……一生を掛けてもなんて大袈裟過ぎるよ、マーラさん」
「……次は私からもサラさんとコン君にお礼を言わせて頂いてよろしいですか、マーラさん」
「……っ!、レイサムさんっ!」
余程感謝しているのかいつまでもコン達に礼を言い続けるマーラにこのままでは埒が明かないと思ったのか、先程がずっと後ろにつかえていたレイサムがマーラの肩をポンっと叩いて割って入って来た。
レイサムといえばグリーミーに操られていた者の中でも一番の実力者で屋敷の外でコンと激闘を繰り広げていた魔術師だが……。
「自らの不覚で敵の手に操られてしまった私をお救い頂いて本当にありがとうございます、サラさん、コン君。特にコン君には私を止めようとしてくれていたにも関わらずあのような暴虐を働いてしまい本当に申し訳ありませんでした……」
「……っ!、レイサムは僕と戦ってた時のことを覚えているのっ!」
「ええ……ハッキリとではありませんがなんとなくは覚えています。他にも同様の者達がいたようでグナーデさんの丁寧な説明のおかげもあり皆すぐにこれまでの事の経緯を理解することができました」
「そうですか……ではもう私から説明する必要はなさそうですね」
「……っ!、そうだっ!。さっきサラさんに言われたことだけどレイサムさんにこの屋敷に住んで貰えばいいんじゃない。確か今住んでるところも小さな貸家だったでしょ。そんなとこよりレイサムさんにはこういう立派なお屋敷に住む方が似合ってるよ。レイサムが声を掛ければ使用人だってすぐに集まるだろうし……」
「そんな……私にはこのような大そうな屋敷など勿体無い……」
「いえ……私もあなたのような実力と人格を兼ね揃えた者が住むのが一番良いと思います。あなたが住んでいるという噂が広まれば皆この屋敷に対し負の感情を抱くこともなくなるでしょう。他の者では過去の経緯のイメージを払拭することができずまた新たな不幸を呼び寄せることになるやもしれません」
「分かりました……。そういうことならばこの辺りの村の者達にこの屋敷に住まわせて頂けないか相談することに致しましょう」
「私も一緒に皆に掛け合ってあげるっ!。心配しなくても皆レイサムさんなら是非って了承してくれるよっ!」
マーラに続きサラからも提案を受けたレイサムはこの屋敷へと移り住むことを本格的に検討し始めたようだ。
確かにレイサムのような名声と実力を兼ね揃えた者ならこれ程立派な屋敷の主となっても誰も疑念や不満を抱いたりはしないだろう。
きっと過去のこの屋敷で自殺したアインザームのイメージを取り除きこの地域に発展と平穏をもたらす存在になってくれるはずだ。
「あとあなたと他の手練れの者達に村へと帰るまでマーラやアレク達の護衛をお願いしたいのですが……」
「ええっ!、サラさん達も私達と一緒に村に帰るんじゃないのっ!」
「ええ……グリーミーの居城となっていたこの屋敷にまだ何らかの危険が残されていないか調べておかないといけませんから……。遅くなるかもしれませんのであなた達は先に村へ帰っていてください」
「……分かりました。でもサラさん達も勝手に出て行ったりしないでちゃんと私達の村に帰って来てくださいねっ!。今夜は村の人達総出で皆の無事と助けてくれたサラさん達に感謝を込めてお祝いをする予定なんですから」
「分かりました。そういうことなら我々も日が暮れるまでには村に戻るようにするので心配しないでください」
「お祝いかぁ〜。店長の店で食べたお肉も美味しかったしまたどんな料理が出てくるのか今から楽しみだなぁ〜」
「ふふっ、とびっきりのご馳走を用意して待ってるから楽しみにしててね、コン君。……それじゃあ私達は早く村に戻ってお祝いの準備をしようか、アレク」
「うんっ!」
こうしてコン達マーラやアレク達、他の救い出された者達はレイサムや他の手練れの者に護衛され先にそれぞれの住む村へと帰って行った。
皆も逸早く久々の我が家へと帰って元の日常を取り戻した実感を得たかったはずだろう。
そんな中マーラから祝いのことを聞かされたコン達は夜までに必ず帰ると約束して屋敷の探索に乗り出すのだったが……。